いつまでもあの頃でいさせてよ

親の病気の治療方針について、聞きに行った。からだの違和感は1年近くあったし、その間にかかりつけ医に何度も受診したものの、直近まで大病を疑われることはなかったらしい。別の医師が疑いをもって、大病院に紹介状を持って受診したのが3月の上旬。その後、またたく間に治療方針がたった。なんだよそれ。

仕事が忙しいから、休めないから、と他の家族は治療方針の説明を聞きに来てくれなかった。わたしの職場は、私が新人教育もするし、異動に伴って実働出来るメンバーが少ないはずなんだけど、「家族がいちばん大事だ」と快く送り出してくれた。医療職しかいない職場だから、共通見解を持ちやすくてありがたい。
正直他の家族より、私の仕事の方が忙しいし休めない。他の家族は、病気が「家族」を分断する様を、見たくないんだろう。起きてしまったことだから、逃げられない。甘えるなよな。

診察の1時間前に病院で待ち合わせて、ひととおり話を聞いた。治療に先だって、他に疾患が無いか確認が必要なこと、大病の治療を受けることで出来ない治療があることを、山ほどの熱量で話す。他の家族に話しても、あまり聞いてもらえなかったんだって。思ったよりおおごとだったから、慌てているらしかった。
治療方針をひとりで聞こうとしているのも、他の家族が耳を傾けないのも、だから別居してる私に頼るのも、なんだか違和感しかない話だ。「直接話し合いが出来ない」「家族の一大事に関心を寄せない」という我が家の悪いところが病気であぶり出されている。

治療方針を説明してくれたのは、優しそうな先生だった。どういう治療で、何ヵ月かかって、どういう副作用が出て、このような効果が期待できるのか、と細かくゆっくり説明してくれた。
家族は、端から見ていて明らかに気が動転していた。医療職が困るような些末な質問を繰り返した。「感情を遮断したから理解できる」と、家族は精一杯の虚勢を張っていた。

終わったあと、病院のソファで今後の流れを読み合わせた。どんな治療で、どんな副作用があって、生活がどんな感じになるか。ラテとクッキーで糖分を補給しながら、お互いに無い頭を寄せ合う。なんとか読みあわせを終えたときに、「医療の話がわかるあなたがきてくれて良かった」「他の家族じゃ頼りない」と感謝された。

そんな話はない、と思った。私が果たしたのは、医療の知識がある介添人に過ぎない。そんなものが欲しかったのか?このひとは。

同居してない私を支えにしないでくれ。幼い頃からコントロール下に置くために、ありとあらゆる方法でしてきたくせに。他の家族との関係をうまく築き損ねたから、私を空気清浄機として使っていたくせに。そんな私に「ひとの顔色を見るな」とダブルバインドで接してきたくせに。不要な傷を負わせてきたくせに。困ったときだけ大事で頼れる存在。コントロールの範疇をでれば、自分の支配下にいかなる手段でも引き戻してきたくせに。

だから、家族に言ってやった。
「あのひと引きずり出して。あいつを連れてこい。次は来るように、あいつにメールした」

家族は、あっけにとられたような顔をしていた。私は家族として助けたい。医療の知識がある介添人になりたくないし、家族関係の調整者にもなりたくない。家族の一員ではあるけれど、世話人にも愛玩動物にも空気清浄機にもなりたくない。
きっと家族が私の気持ちに気づくことは無いだろう。だから、言葉に出し続けるしかない。

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