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退職給付会計の難しさ(その1)

はじめに
退職金については経理担当ならば知っているつもりだろう。しかし、退縮給付会計となると、かなり手強いのである。会計基準も時々変更されるし、私自身も正直に言うと最近10年間くらいは最新の会計基準をフォローしていない。しかし本質が変わるわけでもないので、私が解説する余地はあると思うので、そういう前提でお読みください。
 
1.退職金とは
 退職給付会計を考察する前に、退職金のおさらいをしておきたい。
退職金は過去の勤務に対応するものであり、本質は給与の後払いである。
退職した社員に一時金として支払われ、一般的には対象となる給与にあらかじめ制定されている支給月数を乗じて支給される。
例えば、勤続20年で退職した社員は25万円×30か月750万円が支払われる。
勤続30年だと40万円×50か月で2,000万円である。
もちろん会社によってこのパターン表は異なるが、勤続年数が長くなるほど退職金が増えていくのが通例である。終身雇用制が当たり前だった時代の産物だが、税制優遇制度の影響も大きい。
 税務上勤続年数20年の場合には、40万円×20年=800万円が非課税となる。
 勤続30年だと70万円×(30年―20年)+800万円=1500万円が非課税となる。
先の例でいうと、20年で退職した人は全額非課税、30年の人は500万円が対象となりこれに1/2を乗じた250万に所得税等が課される。要は退職金で貰うと社員はお得なのである。また、勤続年数が長いほど、貰えるお金も税金の軽減率も高くなる。
 
退職金計算は通常は会社の退職金規程の別表となっている。自己都合、会社都合別にテーブル表ができている。経理部の担当でもあまり見たことがないかもしれない。会社によって、人事部、総務部、勤労部、労働部などが所管している。
 自己都合とは本人の申し出により退職する場合など、会社都合とは定年退職などの場合に適用される。勤続年数ごとの対象となる基本給は社員によって様々なので表には書くことができない。同じ勤続20年でも係長と課長では支給される月数は同じでも基本給は違うということである。
 最近では、雇用は流動化し転職が盛んになっており、会社側も会計上のリスクを避けるため、労使了解の上で、確定拠出型の年金に制度替えする例が多く出てきている。確定拠出や確定給付年金の仕組みについては説明は割愛する。

2.退職金の会計処理(要支給額方式に因る会計処理)

 要支給額とは、社員が今、全員退職したら支払うべき退職金の総額である。これを全額BS上に退職給付債務として計上する会計処理である。全員退職したら会社は存続しないので、あくまで測定のための仮定による会計処理である。

 この会計処理を適用していると、
 実際に、勤続30年のAさんが定年で期末に退職したら2000万円の債務を取り崩して支払うが、前期までに引き当ててあるので。当期の損益計算書には影響がない。
 勤続20年のBさんは期末に昇進し、基本給も上がり、勤続年数も1年加算されたので、退職金の予定額は前年より増加し、この分を退職給付債務繰入額として、損益計算上費用計上する。在籍する社員は通常もれなく退職金予定額が増加するので、在籍社員全員の増加分の総和が会社としての退職給付に係る当期の費用である。

退職給付繰入額は毎年発生し引当金は増えるが、退職者も毎年出て引当金の取り崩しが出るので、退職給付引当金の残高は毎年増減する。

 さて、ベテラン経理マンなら、そんなこと説明されなくても判るというだろうが、私の長年の経験では経理以外の社員はさっぱりわからないし、簿記2級(場合によっては1級)の資格のある社員ですら退職給付会計を本当は良くわかっていないのではないか。
 この会計処理だけでなく、仕訳はできるが本質が判っていないケースが多い。

 本質が判るように、本質に特化した簡略化した?仕訳を書いてみよう。

①    退職者の発生(Aさん)

  退職給付引当金 2000万円 / 現預金 2000万円  

  (要はBS上で退職給付引当金と現預金がそれぞれ2000万円減る)

  これを、退職給付引当金 / 退職金費用

    退職金費用 / 未払金   未払金 / 現預金

    損益 / 退職金費用    退職金費用 / 損益

などと、細かく考えてはいけない。本質を見失う。実務の仕訳は中間勘定も

含めてもっと詳細だが、若いうちから最終的にはBSにどういう影響を与える

のかを考えて経理の仕事をしてほしいと思う。

(未払金/現預金は、本当は未払金/銀行口座勘定、銀行口座勘定/現預金でし
 ょなどと言っても経理部長は褒めてはもらえないですよ)

 ②    退職金予定額の増加(Bさん他在職者分)

  現預金 1800万円 / 退職給付引当金 1800万円  

  (要はBS上で退職給付引当金と現預金がそれぞれ1800万円増える)

  ここで、退職給付繰入額は非現金項目の費用ではあるが、仕訳の相手科目は現預金か、貯蔵品、建設仮勘定などで特定はしていないのでは、などと話を難しくする必要はない。あくまで本質を掴む仕訳である。

①    ②を併せると要はBS上で退職給付引当金と現預金がそれぞれ200万円減る

以上のような考え方が役に立つのである。

 もう40年近く前、30歳の頃の私と営業畑出身の常務取締役企画部長との会話です。

 常務「君、この退職給与引当金というのは結構な金額になっているが、一
    体どこにお金を積み立てているのかね。」

 私 「常務、引当金というのは誤解を招きやすい会計用語なんです。将来
    社員に支払うべき退職金見合いを計算して債務としてBSの右側に
    計上しております。いわば社員からの借入金みたいなものです。将
    来払う退職金ですから、ここ2,3年で予想される退職者の分はB
    Sの左側で現預金として持っていますが、大半は流用して貯蔵品や
    設備に変わっているわけなんです。」

 常務「会計の用語というのは分かりにくいな。君の説明でよく判った。あ
    りがとう。」
 さて、この会話を馬鹿馬鹿しい、程度が低いなあと感じるか、成程こういう説明の仕方もあるのかと思うかは貴方次第です。

 3.退職金の会計処理(年金数理計算方式に因る会計処理)

  以降は、退職給付会計の難しさ(その2)で書きます。

  ~つづく~

 


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