耳をすませば、小さな哀しみは面白味
横浜は伊勢佐木町に来て三日目の朝
友人を会社行の地下鉄階段にて見送り、近所の喫茶店に来た。2ヶ月前に訪れて気に入った場所、『喫茶あづま』だ。
古いが何処までも小綺麗に磨かれている、そんな喫茶店だ。マスターさんが接客係、オバちゃんはカウンターでキッチン担当だ。
前と同じくモーニング550円を注文。
モーニングは、ゆで卵、分厚いトースト一枚を縦三切りにしたもの、珈琲だ。珈琲という漢字は正式なものでは無いらしいが、とても馴染みがあるような気がしてなんだか好きだ。
近所で働く前に訪れるサラリーマンや、パートのオバちゃん、暇を持て余したであろうおじいちゃん等が疎らに入店しては店は回転している。結構な繁盛店かもしれない。
古本に目を通しながら常連客と店とのやり取りがよく聴こえてくる。
パート前のオバちゃんが、ゆで卵が上手く剥けないので小事を言っている。
『今日は柔らかいからよ。くっついちゃうもの。』
と、店のマスターが少し狼狽えた様子で
『皆キレイに剥けてるよ、下手クソなんだよ、皆キレイに剥けてるもん』
と言っていた。
そうか、マスターが茹でたのだ。
確かに私はキレイに剥けたよ。チラリと一瞥をしたが、何も言わずクスクスと笑うことしかできなかったな。店のおばちゃんもパートのオバちゃんに加勢しだしたから少し可哀想だった。だが、無闇に首を突っ込むのはやめた。何だか面白かった。
旅のお供に持って来た古本を読み終えてしまったので、古本屋に向かった。開店まで少し時間があったが、朝から2時間以上居たのでお暇した。
開店前の店先で植木の椅子に腰掛けて待つことにした。店先には既に二、三人開店待ちの人が居た。伊勢佐木町モールのBOOKOFFだ。
モールなので、道端ゴミ清掃員のお爺さん達が吸い殻やカップのゴミを拾っていた。自分の足周りにも吸い殻が散らばっているな、と眺めていたら、真後ろの椅子に白髪初老の人が腰を下ろしたのが見えた。手には文庫本をカバー無しで持っている。開店待ちだな。歩きながら『そんなに忙しいのかよ!!俺に時間使えないのかよ!!』と声を張り上げているお祖父ちゃんもいた。少し怖かった。
やがて、道端ゴミ清掃員の人が近付いてきたので、足をゴミから遠ざけて空気のように座っていた私、立ち上がってゴミを拾いやすいようにドウゾと場所を空けた初老の男性。若者の私は自分を悔いました。次は立ち上がろうと思う。
開店した古本屋で2冊文庫本を購入して、マクドナルドさんでゆっくり読本する事にした。ココでもやり取りが聴こえてきた。
どうやら、老夫婦の男性方のホットコーヒーまたヌルかったのだ。女性の方はちゃんと熱かったらしい。駄目だよこんなん、取替えてと男性が言い、持って来た腰の低い店員さんに女性の方は、スミマセンとお礼を言っていた。男性はそれを聴いて、あやまんなくていいんだよーこっちは悪くないんだからさ〜と言っていたな。どちらの気持ちもわかる気がしてクスクス笑うことしか出来なかった。何だか可笑しかった。
読み始めた本がかなり面白かったので、昼過ぎにはサウナで整える予定を中止した。
Noteで日記を付けたり本を読んだりして四時過ぎまでいたな。隣の席では保険の外交員らしきオバちゃんがオジちゃんとほぼ世間話を延々と3時間くらいしていた。仕事の話は1割くらいかもしれない。大変な仕事ですよ。
集中力が切れ、一方的に喋り倒すオジちゃんの声がうるさくなってきたので、外に出て歩くことにした。関内を抜けて急勾配を上がると野毛山公園についた。
バスケットのコートでスリーオンスリーを愉しむバスケ少年たち、駆けっこする小学生、蝉の幼虫を水溜りに封印する子供、やめたれ〜と思うけど、自分にも経験のある無邪気に残酷な行為が頭をよぎり、正解が出ないまま見過ごしてしまった。柔らかく、そして重たくなった西の太陽光が雲の隙間を縫って公園を縞模様にペイントしていた。
セミの鳴き声が薄っすらしていくと、代わりに風に揺れる木々の葉音が公園全体を凪いだ雰囲気にして、淋しげにカラスが鳴いているのが聴こえてきた。大分、人も減ってきた。子どもや親は夕飯の時間なんだろう。
エヴリデイサウナオジサンになる為に私も山を降りることにした。時期、友人も帰ってくるだろう。
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