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12星座との出会い。(2)
地面に降ろされた足は柔らかな草を踏んだ。
漆黒の瞳に覗き込まれた私は、12星座の娘を前にふと考える。
私の星座はなんだったろうか。
そもそも誕生日はいつだったか。
そういえば、青い星が故郷であること以外の記憶は無い気がする……と思う私を抱え上げるのはあの羊の角を持つ少女だった。
光を受ければ黄色が透ける、緩やかなウェーブがかかった白髪。
真っ赤な目は瞬きを持って覗き込んできた。
彼女は私を腕におさめながら「ノヴァじゃないか」と盲目の彼女に首を傾げる。
「こんなところまでどうしたんだい? 君にはだいぶ遠出だろうに」
「んふふ。あのね、その子届けに来たの! 今日からパーティーをするって聞いたから」
彼女ーー牡羊座のシェラタンーーは「どこから聞いたのやら」と笑う。
「確かにやるけどねえ。急にタラッタがやってきても、席が足りないよ?」
「あら。私の席はなくて大丈夫! だってこの子を届けにきただけだもの。それに、水入らずで楽しみたいでしょう?」
「この子がいたら水入ってきていない?」
私を掲げて笑うシェラタンの背後からピンク髪のふたりが顔を覗かせてくる。シェラタンと同じ真っ赤な瞳、ふたりだけの同じ顔。区別をつけるとするならば、ひとりはロングヘアー、ひとりはショートヘアー、それくらいだった。
そんな少女ふたりは、シェラタンを見上げながらこう告げてくる。
「シェラタン。いいよ、楽しくなりそうだよ」
「そう。人数が増えるのはいいことだよ」
「そう〜…? 君らがそう言うならそれでもいいんだけどぉ……」
「渋っているのはあれかい? 自分のお菓子が少なくなるから?」
言って顔を覗かせたのは、今度は黒髪と白髪が入り混じった女性だった。女性陣の中で、彼女の高い身長と立派なツノはよく目立つ。
私が小さな口を追いかけるなか、目まぐるしく会話は続いていった。
「あ〜……そういうところありますものね、シェラタン」と笑うのは黒縁メガネに赤目の女性だ。
「それなら早く食べないとなくなっちゃうわよ?」とドーナツを頬張るのは猫科の耳を生やした少女。
「つまみ食いしすぎじゃ無いの……?」と背後でため息をつくのはヤギツノを生やした女性。
「れ、レグルス。お菓子はね、パーティーに取っておくべきだと思うよ……?」とドーナツを頬張る口に問いかける目元が隠れた少女。
それを遠目に見守っていた水色の髪の少女はため息をついた。花飾りが編み込まれた彼女は紫の瞳を瞬かせ、私とシェラタンの方を見やる。
「……シェラタン。ちゃんと手伝って。そもそもパーティしたい! って言い出したの君なんだから」
「んな! ちゃんと手伝っているじゃないか! 今はノヴァがきたから話してただけで……でぇ?」
牡羊座の彼女は助けを求めるように横に手を伸ばしたが、その手は空を切って終わる。
視線をやれば、いつの間にか新月の彼女はその場から消えていて、残されたのは私と12星座の娘たちのみ。
何もつかめなかった手と伸ばした先に視線を行ったり来たりさせるシェラタンに、水色の少女はバスケットを抱え直してため息をわざとらしくついて見せた。
「ノヴァがいたかどうかは置いておいて。人手はいくらあっても足りないんだから、早く動いてよ。早くしないと春のうちに終わらないし、こっちも準備そこそこでやめちゃうよ?」
「ま、待ってよ! 今からがんばるから!!」
やるからには豪華にするんだって! と言いながらシェラタンが輪の中に入っていく。連れて行かれた私を双子は見上げて追いかけて来たし、メガネの女性は相変わらずだとでも言うように苦笑いをこぼしてみせた。