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【下の名前で呼ばれたかった】【コラム】マーメイドはひとりで躍るvol.21

9月下旬、富士急ハイランドには、
まだ少しだけ夏の匂いが残っていた。

そんな夏名残の中、僕は叫んでいた。
なにも「FUJIYAMA」や
「ええじゃないか」などの
アトラクションに乗っていたわけではない。

「マーイカ!!マーイカ!!」
とびきり可愛い
アイドルたちの名前をコールしていた。


ふだん僕は「姓・名」の
「名」で呼ばれることがほとんどない。
こんなコラムで
本名なんて公開したくはなかったけど、
僕の下の名前は「アツシ」である。

振り返ってみても、
小中高大、そして社会人になっても、
「アツシ」と呼んでくる知人はほとんどいない。

僕自身も「アツシ」にそこまでの愛着はない。
話によると、
父親がどうしても
「ア」から始まる名前がよかったらしく、
選ばれたのが「アツシ」だったという。

ちなみに母親は
男の子なら「ケイスケ」
女の子なら「ヨウコ」がよかったらしい。

いや絶対「ケイスケ」だっただろ。

明らかに2択をミスっている。
まるでG1スプリンターズステークスで
人気馬で唯一、
ナムラクレア(3着に入線)を切った
どこかの底辺馬券師のようである。
(クソッ!)

僕の父親が、一度こうと決めたなら
揺るがない人なのは知っているけど、
この時ばかりは揺らいでほしかったものである。


名前といえば、忘れられない話がある。
中学の頃、
数学の教師で「ミナミ」というやつがいた。

古めかしいメガネに
白髪姿のそのおじさんは、
たしか学年主任を務めていた。

面倒見とかは悪くなかった覚えだが、
ベテランなのに授業が下手で、
わかりにくかったことを覚えている。

そんな「ミナミ」が授業中に雑談する。

「私には娘がいるんだけどね、
名前を付ける時どうするか迷ったんだよ」。

ミナミは、
ニコっとしてこちらの様子をうかがう。
聞いてるヤツと聞いてないヤツは
ちょうど半々くらいだったと思う。

「それでね、せっかく自分の娘なんだから
遊び心を持って付けようと思って、
『ナミ』って名前にしたんだよ。どういう意味か分かるか?」

「ナミ」
別に特段変わった名前には思えないけど。
そんなファーストインプレッションが
2年D組を包み込む。

すると、ミナミが
お気に入りの白のチョークを黒板に近づける。

「ミナミナミ」黒板に記される5文字。

「これで気づくかね?」
ニヤッと微笑むミナミ。
察しの良い生徒は気づいたようだ。

「ミナミナミ。
上から読んでも下から読んでも、
『ミナミナミ』 なんだよ。
つまり、名前が回文になってる。
どうだ、これ面白いだろ?」

ニヤッと歯を見せるミナミ。
若干の笑い声に包まれるクラスルーム。
僕はこの時の感情を覚えている。

「いや何が面白いんだよ。
名前で遊ぶな可哀想に。
子は親を選べないんだぞ。
じゃあお前、名字が毛沼(けぬま)だったら
「まぬけ」って名付けてたのか?」

この話を聞いてから約10年、
ナミさんが「ミナミ」の呪縛から
解き放たれていることを切に願う。


それで言うと「小松菜奈」って名前はすごい。
思い切りが良すぎる。

パッと見、ほぼ「小松菜」で
きっとニッポン語を習いたての留学生は、
「ホワッツ ア ビューティフルウーマン!
ネーム…コマツナ…?ホワッツ!?
ホワーイジャパニーズピーポー!!??」と
首をかしげてしまうだろう。

カルシウム満点の
緑黄色野菜・小松菜に
「奈」をトッピングするだけで、
日本を代表する女性俳優になる。

この魔法のレシピにはきっと、
土井善晴も目を見開き驚いたことだ。

それにしても、小松菜奈の両親は
娘が野球選手になる
可能性は考えなかったのだろうか。

だってさ、もし小松菜奈が野球選手だとして、
同じチームに
「小松」って名字がもう一人いたら、
登録名が「小松菜」になるんだぜ?

小松菜奈のファザーとマザーに告ぐ。
お前ら本当に、
自分の娘がスコアボードで
「小松菜」と表示される可能性を考えてたか?

あ、でももう彼女も
菅田将暉(本名=菅生大将)と結婚して、
菅生菜奈になってるから
心配はいらないネ。

これできっと、
小松、いや、菅生菜奈も
心置きなく素振り100本できるはずだ。


こんなくだらないことばかり考えてても、
時間は決して待ってはくれない。
ことしで25歳を迎えた僕も、
いつかは名付ける側になる。

山梨県甲府市にある仙娥滝で
そのあまりにもな綺麗さに
うっとりしていた時、
僕はふとひらめいた。

滝って名前、なんかすごくよくないか??

思わずことばにしてしまう。

「滝ってめっちゃいいよね。
将来子どもができたら、
「タキくん」か「タキ」ちゃん、
そう名付けようかな」。

隣にいた2個上の友人・「ヨウコ」が言う。


「ピエール瀧といっしょってこと?」

危ない。我が子をヤク中から守ることができた。
「タキ」なんて名付けたら、
その子はコカイン中毒に
なってしまうに決まっている。

やっぱり「ヨウコ」と名の付く人間は、
いい感性を持っているよ。


滝から甲府市内へ帰る車中、
助手席の僕は『波乗りジョニー』を流した。

「夏」そのものを感じさせるイントロに、
詩的で素敵な歌詞・ボーカルと楽器の音色。

やっぱり「ケイスケ」の作る
ミュージックは一級品だよな。

あーーー
「ヨウコ」か「ケイスケ」に生まれたかった。

なんだよ「アツシ」って。
ロンブーの青学受験失敗した方と
EXILEのボーカルぐらいしかいねえじゃねえか。
あとインパルスの堤下(交通事故3回)。
なんだこのメンツ!
アツシもっとがんばれよ!!

もしも願いが叶うなら、
女性として生まれて、
指原莉乃プロデュースの
アイドルグループに入って、
曇り空の
富士急ハイランド・コニファーフォレストで
「ヨーウコ!!ヨーウコ!!」と
コールされてみたかったものである。

それが叶わないのなら、
もう名前はアツシのままでいいから、
あんな大歓声、一度は浴びてみたいなあ。


あ、ペンライトカラーは黄色で頼むよ。

文・マーメイド侍



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