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家で聴くための音楽、その6:Peter Broderick『Home』
つつましくも美しい、理知的な歌
家にいることが増えてきた人に、家で聴くとよい感じではないかしら、と感じる音楽を紹介していく連載。
第6回はPeter Broderickの『Home』(2008)。
いままで、この連載では、仕事中に聴くと心地よいとか、何かを流しておきたいとか、そんなシチュエーションを想定してきた。
しかし、家にいると、いつもポジティブに作業ができるわけではない。外に出ることもためらわれ、世間のニュースに目を向けると、気分もなかなか上向かないことだってある。
それでも、家(Home)にいなければいけない。そんなときに、押し付けがましくない音楽があれば。
Peter Broderickはオレゴン州ポーランド出身のシンガー・ソングライターで、マルチ楽器奏者でもある。学生時代からさまざまな楽器を学んだキャリアを活かし、映画やダンス作品など、数々のスコアを手がけている才人。
彼が所属していたレコード会社によれば、「Peter Broderick is like the Swiss Army Knife of musicians; compact, elegant, multipurpose」。ソロアルバムはもちろん、他のアーティストとのコラボ作品も無数に発表している多作ぶりだ。
ソロ・ピアノ、インストゥルメンタル、実験的なアンサンブルなど、さまざまな作風を世に問う彼が、2008年に発表したこのアルバムは、当時の欧米インディーにあった「歌もの」の中でも、出色の出来。ただ、どうも派手さに欠けたのか、いまいち話題にならなかった気がする。
ありそうでないアルバムだと思う。もちろん、よい意味で。
ギターを中心に、全編で自身の「声」を披露している。「声」と書いたのは、ボーカルだけではないからだ。多重録音によって複雑に編み上げられたコーラスも見事。線の細いナイーブな声を活かし、室内楽を思わせる、繊細なアレンジが際立つ。とにかく音響が凝っているように聴かせるのは、前述した彼の出自によるものかも。
フォーキーな歌ものだけでなく、多重コーラスを駆使したインストゥルメンタルも得意技。1曲目の「Games」は、ほぼ彼の声だけで作られているけれど、そのメロディーが、最終曲「Games Again」でオルガンのような音響とともに再び奏でられるあたり、アルバムとしての作りもうまい。
弾き語り主体のおおらかな感じではなく、理知的なアレンジが効いている。ギターと声を骨格にしているから、よい意味でプライベートな雰囲気もある。そのあたりのバランスが、稀有なものだ。
森のなかにたたずむ小さな家のジャケットのような、つつましくも美しい作品。
細い声で切々と歌われる楽曲を聴きながら、家にいることを、ぼんやり考える。やることが見つからなかったり、気もそぞろでなにもできなかったりするときがある。
そんな状況に、この音楽は寄り添ってくれる。過度になれなれしくもなく、かといって、妙によそよそしいわけでもない。
『Home』というタイトルの通りに、少なくない人にとって、かけがえのない存在になってくれるアルバムだと思う。