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家で聴くための音楽、その11:Jóhann Jóhannsson 『Copenhagen Dreams』

静謐でモダンな都市のサウンドトラック

 家にいることが増えてきた人に、家で聴くとよい感じではないかしら、と感じる音楽を紹介していく連載。

 第11回はJóhann Jóhannsson『Copenhagen Dreams』(2012)。

 この連載では、比較的、穏やかで、オーガニックな(便利なようで、しかし、いまいち曖昧な形容詞だとは思っている)音楽を紹介してきた。

 今回は、もうすこし、モダンというか、都市的なものを紹介したい。とはいっても、昂ぶってしまった気持ちを鎮めてくれるような、静穏なアルバムを選ぼう。

 アイスランドのモダンクラシカルの旗手であるJóhann Jóhannssonが亡くなってから、2年が経つ。彼のキャリアや、残してきたもの、さまざまな映画音楽に対する貢献については、詳しくていねいに解説しているところがたくさんあるから、ここでは触れない。

 このアルバムは、デンマークの映画監督Max Kestnerのドキュメンタリー映画『Copenhagen Dreams』のサウンドトラック。

 弦楽四重奏、クラリネット、チェレスタ、キーボード、エレクトロニクスなどのアンサンブルで構成されている。エレクトロニカ要素がやや強めのポスト・クラシカルといえるかもしれない。

 彼は、どちらかというと、劇伴の重厚なサウンドで知られているだろうか。

 しかし、ソロ作品に目を向ければ、同じメロディーを曲ごとに変奏していき、さまざまな雰囲気の楽曲を並べた『Dis』や、父親がセットテープに録音していた、IBM1401を使った演奏との共演『IBM 1401:A User's Manual』など、コンセプチュアルで遊び心のあるアルバムも多い。

 実験的な作品の中にも、聴かせどころを心得たポップなフィーリングがあった人。もちろん、それをひけらかすことはせずに、ソロ作ならコンセプト、劇伴なら映像、そういった要素に沿わせ、音の要素を適材適所で配置していくところが、彼の持ち味でもある。

 『Copenhagen Dreams』は、その名の通り、コペンハーゲンという街を映像に落とし込もうとしたドキュメンタリー映画だ。Jóhann Jóhannssonの音楽も、けっして華美にならず、劇的に追い込むこともなく、引き締まったリリシズムに満ちている。

 短いテーマがさまざまな通奏低音のように現れたり、短めの身上描写のようなものが漂ったり。どの曲も短く、ひっそりとしている。しかし、ひんやりとしたエレクトロニカの香りと、ほどよいリリシズムが漂う旋律が、しっかりと感じられる。

 チェレスタの夢見るような響きや、クラリネットのひなびた音色を効果的に活かし、エレクトロニカ的なアンビエンスを加えていく。バランス感覚にすぐれており、聴き飽きない。

 これは、都市の音楽だと思う。自然というより、コペンハーゲンという町並みの中に息づく、モダンなサウンドトラックだ。

 もちろん、どこで聴いても、心を落ち着かせてくれる静謐な作風には違いない。それでも、街の夜景を眺められるときに、あるいは、集合住宅の一室で、まんじりとしない夜に、そっと寄り添ってくれる音響であることは確かだろう。


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