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upd8は失敗だったのか? おめがシスターズの社長出演動画を見て思ったこと

「upd8が終了する」と言うニュースが駆け巡ったのは今日(2020年11月1日)の15時でした。私はちょうどその時、兎鞠まり/因幡はねる/魔王マグロナによるコラボ配信を見ていて、そのニュースが配信中にリアルタイムに入って話題になったので知りました。3人とも現役upd8か元upd8なので、残念だというトーンでした。

プレスリリースはupd8が終了することを伝えるだけで、理由も何も書いていない簡素なものでした。

でも実は、本番はこの後にありました。17時20分におめがシスターズが自分のチャンネルに「upd8、終わります」という動画を上げ、その中でなんと社長の大坂たけし氏が出演し、理由や今後の展望についてものすごく率直に語ったのです。

明らかに事前に準備していたわけですが、VTuberとの対話で説明するというスタイルが新しいですよね。しかも自社ではなく所属タレントのチャンネルです。すごく自由で良いなぁと。

レイちゃんの質問はとても的確だし、重くなりがちな雰囲気をリオちゃんが和ませているし、人選も最高です。ぜひこの動画を見てください。以下はこの動画を見て考えたことを書きます。

なぜupd8は終了するのか

なぜ終了するかの理由ですが、たけし社長は率直に「事業的に継続が難しくなってしまったから」と言いました。要は赤字だと。それはそうだろうなと正直思います。世間的には「キズナアイちゃんがやめたから」「あにまーれなど大手が抜けたから」などと言われていますが、それだけではなく、そもそも事業として難しかっただろうと。その理由は以前に私がENTUMの解散について書いた記事と同じです。あちらも同じような成り立ちだったので。

「ENTUMのお墓の前で泣かないでください・VTuberビジネスはスケールするか」というタイトルなのですが、そこにあるように「スケールするか」という話です。スケールするとはここでは、「仕組みさえ作ってしまえば、あとは勝手にビジネスが大きくできる」といった意味で使っています。

upd8は、にじさんじやホロライブのようないわゆるVTuber事務所ではありません。兎鞠まりちゃんの言葉だと「案件を紹介してくれる仲介会社のようなもの」です。おめがシスターズの二人も動画の中で、upd8の恩恵は案件を持ってきてくれることだと言っています。それがupd8の主な機能で、収入源でしょう。紹介してマージンを取るわけです。

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でもこれは、ビジネスとしてはスケールしにくいと思えます。所属VTuberの数を2倍にしたら、案件を2倍取ってこないといけません。それには営業の人手が必要で、おそらく2倍以上かかります。「仕組みを作れば勝手に儲かる」世界ではありません。現状は案件の数にも限りがあり、実写YouTuberとは違って商品紹介の案件(タレント自身が商品を使う)はやりにくいという不利もあります。そして損益分岐点の規模には持って行けなかったわけです。

「にじさんじさんやホロライブさんのような生配信系のVTuberさんは稼ぎやすい」とたけし社長は言ってますが、まさにあちらはスケールしますよね。タレントが稼げばそこからマージンが入り、人気が出れば勝手に収入が増えていきます。配信は各自で考えてやっているので、タレントを2倍にしても手間が2倍になるとは限りません。もちろんマネジメントの難しさはいろいろありますけど、ビジネス的に成功しているし持続性がある仕組みです。

upd8が達成したかったこと

「達成したいことができなかった」とたけし社長が語ったので、レイちゃんはその「達成したかったことは何なのか」を聞きました。それは「ジゲンを超えてジブンをムゲンに」というビジョンを実現するため、多くの多様性のあるVTuberさんが参加して稼げる場にしたかったと。しかしできなかったということでした。

数を増やせば良いというものではないですから。案件には限りがあり、増やすと一人あたりに世話できる案件が減ってしまいます。また多様性を求めていたが、稼げるVTuberのタイプにはある程度偏りがあるという現実もあるでしょう。「多様性こそ社会だ」という理想と現実には隔たりがあった。

でも、そのビジョンはわかります。私はこのnoteのトップに書いていますが、いつか人類はみなバーチャルになるはずで、VTuberはその先駆け、社会実験みたいなものだと思っています。これはupd8のビジョンと同じラインにあるはずです。

どうやれば、多様なVTuberが参加して、かつスケールする仕組みになるのでしょうか。たとえば「VTuberに案件を出したい側」「受けたいVTuber側」のマッチングをするシステムを作ることは考えられます。それは仕組みさえ作れば儲かるビジネスですが、そんなことはとっくに考えますよね。営業無しでVTuberに案件を出したい企業がどれだけあるのかとか、VTuber側がどうやって自分をアピールしてそれを受けるのかとか、なかなか難しい。でも、VTuber文化がもっと成熟してくれば可能かもしれません。そういう意味で、upd8は時期尚早だったと言えるのかもしれません。

ピボットは負けではない

今後Activ8(upd8の運営会社)は何をしていくのかについても、レイちゃんは質問していました。最終的にはメタバースを作りたいということで、レディプレイヤー1みたいなイメージでしょうね。人々がそこでバーチャルの姿で暮らすことができる世界です。でもすぐにはそこに行けないので、今はB2B(企業との取引)でVRコンテンツの制作請負やIPのプロデュースなどをやっていくと。企業からの「こんなVTuberを運営したい」という要望に従って、プロデュースして裏方として運営するような仕事でしょう。

upd8の事業化には頓挫したけれど、スタートアップ企業が起業した時の事業に見切りをつけて別の事業にシフトするのはとてもよくあることです。ピボットと言われますが、バスケットボールで軸足を固定したまま方向を変えることから来ているのでしょう。私の仕事仲間で起業した人は何人もいますが、見てるとたいていピボットしていますね。例えば一人はそもそもは健康家電のようなものを作る、ハードウエアスタートアップだったのですが、それがさっぱり売れませんでした。でもユーザーの情報をもとに健康のアドバイスをするAI部分を作りこんでいたので、そのソフトウェアを元にAI製品としてB2Bで売り込んだら成功し、時流に乗ったAIスタートアップとしてブイブイ言わせているようです。

もっと大きな例としてはslackがあります。企業用のチャットシステム(LINEみたいなもの)で、テック系企業でよく使われており、にじさんじが運営やライバー間の連絡に使っているので話題に出ることがありますね。この会社は元々はゲームを作っていて、それがあまり売れず、副産物のチャットシステムをB2Bで売り出したら大ヒットしたのでした。今では社員が1600人とかいてノリに乗っている企業です。

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いちから(にじさんじ運営)やホロライブも、ある意味ピボットなんですよね。元々は配信アプリを作ろうとしていて、それはあまりうまくいかなかったけれどVTuberのプロデュース業で成功しています。

Activ8も、upd8事業からいったん撤退して別の事業に専念するのは負けじゃないと思うのです。一番有名なVTuberであるキズナアイや、一時は最大勢力だったupd8を運営していたノウハウは他社に無いものです。私の知り合いの会社が、AIの技術を生かしてピボットした先で成功したように、それを生かして成功する可能性は十分あるはず。

そしていつかメタバースを作れるかもしれないし、たけし社長が動画で語っていましたが、upd8的なものにもう一度チャレンジできるかもしれない。その頃はVTuber界ももっと成熟して、それが必要とされているかもしれません。

これまでのupd8には、いちVTuberファンとしてありがとうと言いたいですし、Activ8のビジョンには共感できるので今後を楽しみにしています。

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