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2020年10月8日 在仏8年
題名の通り、在仏まる8年になった。
しばらくぐずついた天気が続いていたけれど、今日は薄雲がかかった青空に秋の太陽がきらめいている。
8年前、夫とシャルル・ド・ゴール空港に着いた時のことを今でも鮮明に覚えている。
雲が厚くて薄暗く、うっとうしい霧雨が降っていて、気温15度程度だった。
猛暑が終わり、やっと秋めいて過ごしやすい天気になった東京を発ってきた私にとっては、12時間のフライトで初秋から初冬へ季節を移動したことが、まず何よりも体にこたえた。
当時夫とはPACSをしたばかりで、日本を発つ前は引越しなどでばたばたしていたこともあり、「夫婦」というよりはまだ「彼氏」という感覚の方が強かった。
実際PACSは婚姻とは少し違う位置づけだし(事実婚を制度化したようなもの、と言えば手っ取り早いだろうか)、私の戸籍謄本には何の影響も及ぼさないものだったから、余計にそう感じたのだろう。
ちんたらと入国印を押すためだけにあるような入国審査を終え、ゲートをくぐると、義母とそのパートナーが迎えに来てくれていた。
上述のような天気を車窓から眺めながら、これからのフランス生活に期待を膨らませること無く、「さぁて、やり直しだな」と考えていた。
その後、期待を全くしていなかったフランス生活に、いろんなことで悲しくなり、歯がゆさを覚え、虚しくなり、息苦しさを感じていった。
最初の1-2年はそんな風に過ぎていった。
言葉に困ることが少なくなり、婚姻もし、滞在許可証の問題も無くなり、初めて定職に就くことができた3年目から6年目くらいまでは、フランスの物理的な不便さに慣れると同時に、今まで感じなかったことを強く感じるようになった。
それは、
「私はこの国では移民というラベルを貼られているのだ」
ということである。
フランスは平等主義?博愛主義?人権の国?差別のない国?
それらは全て、もちろん一部分は事実だけど、残りは「スローガン」なのだと実感した。
「移民」が、「フランス人」の土俵に立とうとすると、それらは透明な壁となって現れる。
多くのフランス人は、「フランス人(特に白人)」と「それ以外」とを無意識に厳密に区別している。
そのことを少しずつ、時が経つごとに強く感じていった。消化しづらい感情だった。
7-8年目は夫の転勤とともにリヨンに引っ越した。
パリでワインの仕事を始めた私は醸造を勉強するために学校に通い始めたが、それとは別に大きな課題が3つあった。
1、家を買うこと。(現在のフランスの状況では、とっとと家/アパートは買った方が良い。)
2、子ども。(私も30代半ばで、高齢出産の部類に入る。)
3、私の仕事。(リヨンという大都市ではあるが、この国で「移民」が職を見つけるのは難しい。ワインという白人男性社会ならなお更。)
である。
家はなかなか見つからず、醸造の学校は無事に修了したが、いつまで経っても子供を先送りにする夫…。
ついに私が壊れた。
やる気や希望が、泉のような形で湧き上がってくるものなのだとしたら、からっからに枯れてしまった。何も湧いてこなくなった。
表面張力の限界までため込んでいた「我慢」と「諦め」が、ついにじゃぶじゃぶ溢れた。
何のやる気も無くなった。本当に疲れた。
はっきり言って、2019年7月から現在の2020年5月くらいまで、「記憶が欠落している時期」がある。
ロックダウンしていたための単調な日常が長かったというのを差し置いても、「思い出せない」のだ。
その後、2020年5月末に、夫と私の条件にはまった家が見つかり、9月末に売買契約にサインをし、先週引っ越してきた。
(フランスで家を買うプロセスは長い…。いつか別で書こうと思う。)
こじんまりとした家だが、主寝室を含めて部屋が4部屋あり、10年ぶり?くらいで「自分の部屋」ができた。
なんかちょっとうれしい。これからもっと、居心地が良くて集中できる「私スペース」にしていこう。
今その部屋からこれを書いている。
8年間つらかった。
楽しいと思えたことももちろんあったけれど、辛く苦しいことの方が多かった気がする。
精神的には、少しずつ回復してきたのかな、と感じることはあったとしても、まだまだ「以前の私」には程遠い。
でも、進むのをやめてはいけない。
半歩でもいい、10分の1歩でもいいから前に進まねば。
最悪、足踏みしてもいい。
振り返って見ることがあったとしても、後戻りしてはいけない。
この国で私が自分に言い聞かせ続けてきたことだ。
『もう何も見えんのか、お前には。
失ったものばかり数えるな。無いものは無い!
お前にまだ残っているものはなんじゃ。』
ONE PIECE 尾田栄一郎 ジンベエがルフィに語った言葉。
9年目1日目、家も買ったし、もう一度やり直そう。
8年前と違って、今日は晴れている。
そして何より、
夫にありがとう。