ボカコレ振り返りと今後のボカロ世界について
この記事はボカコレ2022秋全体に関する感想です。
自分の投稿曲『ラピスラズリの帝国』につきましてもnote書きましたのでそちらもよろしければ…
ボカコレの光と病みについて
ボカロを愛するすべての人間の祭典、ボカコレ。
規模は毎回どんどん大きくなり、今回は訳5000曲が投稿されるという状況に。
初投稿も多く、作り手としては、新しい人間が参加するとてもいい機会に、受け手としては自分の好みの曲に出会える選択肢が広がっている、とても良い循環になっていいます。
しかし、ランキングの存在で、一部の精神衛生に良くない影響が生じているのも事実。
本来なら、ボカコレはボカロ曲を一斉投稿してもっともっとボカロ界を盛り上げていこう、というものが主体。ランキングはあくまでイベントのひとつという位置づけのはず。
ところがランキングの発表後に表のアカウントですら明らかに病み悪化してる病み垢してるPをたくさん見ました。
某上位にランクインしたボカロPすら、「このイベント(プレッシャーで)めっちゃ嫌」という声が聞かれました。
しかし、常識的に考えて、人数が増えてもランキングの枠は固定なので以前よりどんどんランクインしづらくなっているのは当然。
本来ボカロ界の良さは、大手会社のオーディションを通じたエリートしか曲を出せない時代とは違って、アマチュア作曲家でも発表出来て好きな曲に出会える、作り手受け手の選択肢が広がることが利点と思います。それをまた新しいフィルターを作って選別された気になってしまうのはなんだかもったいない気もします。
最悪なのはランキングに入るという高い目標設定して、入り口ではじかれた気持ちになって諦めてしまう新人Pが増えることです。せっかく曲を完成させるという常人にはない才能を発揮したのにこれは悲しい…
実際ニコニコ代表の栗田さんもおっしゃっていましたが、ボカコレで伸びるには初動が大事。
そして初動を伸ばすには、きっちり開始時間と同時に投稿すること、そして宣伝を事前にすること、あわよくば事前に自分の知名度を高めておくこと…などが重要と思います。曲自体のクオリティとトレンドにあっているかどうかももちろん大事。
けれど、これを最初からできるPって、なかなか多くはないと思うんですよね…
つまりは、ルーキーにとってボカコレのランクインはそれだけかなり高いハードルになっていると思うのです。それを心で理解しきれてないので、病んでしまう。
これはボカコレが悪いということではなく、作り手の意識がなにか間違った方向に行きかけているので、それを直さないといけないということだと思います。ボカコレは楽しんでなんぼ。ボカロPにとってボカコレがすべてではない。ボカコレに限らず、イベント以外でもコンスタントに自分のこだわりの曲を出していけばいい…
と、ここまで書いて実際めりろれっくはどうだったかというと…まぁちょっと病んでました。
ボカロPとして曲を世界に出す以上、やっぱりたくさんの人に聞いてもらいたい。
ランキングはすべてではないですが、すべてのボカロPが持つ本能に対する、ある意味容赦ない指標になっていると思うのです。
めりろれっくのボカコレ楽曲の振り返り
今回のボカコレ前、めりろれっくの目標はルーキー最終ランキングTOP100入りでした。
結果は、TOP100圏外で、毎時は98位が最高でした。
自分の中では、スタートダッシュがあまりうまくいかなかったように思います。
長江春芳さんに素晴らしすぎるアニメを作ってもらい、たくさんの方に見てもらいたい…!という気持ちもあったので申し訳なさもありました。
これまでの投稿作と比べると、今回の投稿作にいただいた反応には特徴がありました。
・現在のところ今まで出した5曲中4番目の再生数。
・コメント数は今までの楽曲で最高。
・いいね数、マイリスト率も比較的高く、再生数との比率で行くといままでで最高の勢い。
・今までの曲と比べてリスナーの男性比率が一番多く、年齢層の幅は広くなった。
渡久地「再生数が少ないのにコメント・いいね・マイリス率がTOP…明らかに異常じゃねーか」
おそらく、今回多くのリスナー、ボカロPの方々が行っていた「ボカコレ巡回リスト募集」も影響していたと思います。自分もリスインする曲を募集してリストは100人を超え、すべて聞かせていただきました。ものすごく良い曲に出会えて、勉強にもなり、改めてボカロ世界の広さを知りました。
その結果、相互で熱心に聞いてくださるリスナー(おもにボカロP)が増えて反応も頂けたのかな、と思います。
ただ、それを差し引いても、今回の曲は以前の曲と比べて聞いて頂けたならポジティブな反応を頂ける素質はあったのでは…と思います。
つまり、曲を聴いてもらうという入り口の段階で問題があったのでは、と。
自分の中ではいくつか原因は思いついています。
・曲の世界観をいたずらに構築して、それを理解してもらう努力が足りなかった。事前のプロモーション不足。
・曲を聴いてもらうターゲットがあいまいだった(ただ、今回はターゲットを広めに考えていたのでこれはまぁ仕方がない)
・ボカロリスナーのメイン層(10代、20代の特に女性)に対して訴えかける要素が足りなかった。(これも作風やターゲティングの問題でもあるので仕方ない部分もある)
・今までの曲調と違うものを出したので、以前から聞いて頂いたリスナーの方が見てくれなかった。
特にプロモーションの時点ではかなり抽象的で意味深な予告動画を作ったりしたのですが、あれでハードルを無駄に上げて入り口を狭めてしまった部分はあるのかな…と。それに曲作りがずれて直前までMIXマスタリング映像編集のやり直しを行っていたので、事前のプロモーションも思ったようにできていなかったことが心残りではあります。
曲の内容に関して、今回は男性主観の曲で、内容的にも今までと違い背景は暗いものの最後には救いのあるような展開になっていますが、世界観の主張を強くしすぎてなかなかその主観に入り込めないような曲になっているような気がしました。
自分いままで作ってきたダークな曲はすべて女の子主観の曲で、救いがないような結末を迎えるものでした。今まで聞いて頂いたリスナー、それにリスナー全体のボリュームゾーンにも訴えかけることができていなかったのかなと思います。
楽曲的には、自分のやりたい音像を表現できたと感じています。
ただ、音の力強さ・MIXの鮮明さという点では、ほかの楽曲と比べてやっぱり見劣りする部分がある。モニタリングヘッドフォンで聞いているとそれを強く感じました。
ボカロ界のトレンドについて
今回のボカコレを通して、今のボカロ曲のトレンドとしていろいろと考えていろいろと仮説を立て、自分はこれからどういう曲を作りたいのか、ということを考えていました。
細分化仮説
最近の曲のトレンドとして、どんどんと今までにない新しい表現が受け要られているような気がします。
ボカコレTOP100で1位を取ったいよわさんの熱異常、自分も大好きな曲ですが、ものすごい異質感のある曲だよなぁ…と思います。セリフの速さとか、ピアノのフレーズの細かさや微妙な音程の外れ具合とか…カセットプレイヤーを持っていますがまるで早送りでひずんだ音のようです。今回のボカコレの上位でもローファイをさらにすすめて明らかに音程的にも歪んでいるような音程がカッコいいものとして受け入れられているような気がしました。
言ってしまえば微分音的な表現、さらに細分化されたリズム感覚、情報量/時間が多い曲が熱くなってくると思います。
自分としてもこういう曲は大好きで、これからも自分の曲作りの参考にしていきたいと思っています。
ただ、画一化はいつか必ず陳腐化と崩壊を招くので、そういう流れのまったく逆を行く曲を作るということもまた大事になっていくと思います。多様性があるからこそ発展する、人類も曲も同じと思います。
2.ボカロ曲彼氏仮説
ボカロ曲は作成者であるボカロPは男性が多く、リスナーはどちらかと言えば女性が多めという状況があります。
しかも動画に出てくるキャラも使用ボカロも圧倒的に女の子が多いのにそういう状況があるのは、多くの女性リスナーの方が曲の歌詞、内容に共感して重ね合わせながら聴いているということだと考えています。
曲の内容的には社会や人間関係に対する閉塞感、諦念などを描いたものが多く、最後に救いのないものも多いです。地雷系・病みカワ系の曲もこの流れにあると思います。
(曲に救いがない、ということに関しては、かいりきベアさんが「ダーリンダンス」についてのインタビューで言っていた言葉が印象に残ってます)
答えではなく共感、これが近年のボカロ曲の鍵になっているように思えます。
他方で、音楽的なものでいえば、よりアタックの強い音、サンプル音のような耳を圧迫する強烈な音、音圧の強いシンセなどの暴力的な音が好まれているように思います。
強い(暴力的ですらある)+自分の境遇を受け入れてくれる(何も反論したり解決策を提示したりせずにただ話を聞いてくれる)存在というのは、よく言われる女性の理想の男性像と重なる部分が多いので、自分はこのトレンドに関して「ボカロ曲彼氏理論」と勝手に名付けています。
(もちろん男性ボカロリスナーでもこういう曲が大好きな方は多いです。その場合は共感だけではなくキャラ萌え的な意味で好きという楽しみ方もあると思います。つまりこういう曲は男女の幅広いリスナーを獲得できるということです)
ところでこういう曲を書いているのは実際ほとんどは男性ボカロPです。
基本的に彼らは顔が見えないですがそれでも有名Pにはアイドル的な人気を誇る方がたくさんいます。それもひそかに楽曲を通して「理想の男性像」を重ね合わせているからなのでは…なんてと思ったりします。
(これが行き過ぎると本当に危険で、現に事件なども起きていたりしましたが、今後界隈の空気が抑制的な方向に向かっていくことを願っています)
もちろん、こういう曲が苦手なリスナーもいますし、曲が画一化すると界隈が衰退するのはさっき言ったとおりです。
ですが、リスナーの感情に寄り添った曲を作る、ということは本当に大事なことだと考えています。自分の世界ばかりでこちらから共感を求めているばかりだと、誰にも聞いてもらえなくなるのは当たり前です。
自分の個性、モチベーションはしっかりと残しつつ、どういう層に届けたいのか、共感してほしいのか、ちゃんと考える。自分とリスナーの世界のバランスをとるということが求められているのではないかと感じました。
で、めりろれっくは今後どうするのよ?
今回のボカコレで、螟上?邨ゅo繧さんという自分にとって大きな存在だったボカロPの影響を飲み込めたのは、個人的にはとても満足しています。
曲のテーマもいつか書いてみたいと思っていた、念願のものだったので、それを形にして世に出すことができたこと自体、充実感が半端ないです。
そのうえで、今回のボカコレではいろいろと刺激を受ける曲がたくさんありました。
その中でも、
https://www.nicovideo.jp/watch/sm41174963
この二曲は聞いていてすごい、と同時に正直「悔しい…!」という気持ちが湧いてきた曲でした。何が悔しかったのかというと、「自分もこういうダークな作風の曲でボカコレのランキングを競ってみたい」という気持ちが湧いてきたのです。
自分の中にあるダークな曲への炎がこの二曲を聞いて復活してくるのを感じました。
次のボカコレは暗黒路線で行きます…! そして準備とリサーチをしっかりして今回よりもさらに最善を尽くした曲に仕上げます…!
ただ、頑張るのと病むのは違います。ランキングはあくまでボカコレの楽しみ方のひとつでしかないという視点も忘れずに持ち続けていきたいです。依存するのではなく何事も余裕を持って接すること、それが一人の人間としても大事ですし、それが結局は音にもでてくるのかな、なんて思っています。
それに、自分の曲を客観視する姿勢、リスナーほうに向いた曲作りを目指します。そのために、ほかのボカロPさんとの交流を増やして、リサーチもたくさんしたいです。ボカロP同士、ボカロPとリスナー同士でWIN-WINの関係を築けるような曲作りができたらなぁ…と思います。
今後は年末のゆっくり投稿祭、のほかにコラボ2曲を含めた3曲をボカコレ前に発表する予定です。春と秋のボカコレの間は1曲しか出せませんでしたが、自分の作曲のいい意味での要領の良さを体得できるようにしたいと思っています。
また、個人的に気になっているのがAIの進化、シンギュラリティがあるのかどうかです。もしAIが作曲も自由にできるようになったとすれば、ボカロ界もボカコレも今までのようにはいかなくなりますし、いまは境目にいるのかな、とも思います。
もしそうなったとしても自分は曲作りを続けます。やっぱり自分には結局、自分の世界を表現したいというエゴがあるからです。そんなエゴも曲の熱さや魅力に変えてお届けできるように、これからも頑張っていきたいです。