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アー ユー レディ?

夏に実家を訪れたときのこと。母親が、「もう若いときのが入らないから良かったらあげる〜」というので指輪を譲り受けた。ゴールドのボディに小さな石が埋め込まれている。シンプルであるがなんだか既視感のある指輪、母が働いていた頃に身につけていたのだろうから私が子供のころに見た視界を記憶にしまいこんだときに紛れ込んだのであろう指輪。

私が物心つくずっと前から、母は働く人だった。昭和の時代の働く女性たちは、今みたいに整っていない社会制度の中、幼な子を抱えながら進み、のちの世代が進む道を切り開いてきたのだ。強い。その一人であった母が出してきた指輪は、彼女が前に進むために身につけてきた鎧のような物でもあったかもしれない。

「あげる〜」という母の軽めのトーンは、この指輪を次の世代である私が継承することの重大さをやわらげるための策であるのか。

記憶に紛れ込んでいたあやふやな指輪が改めて目の前に現れたとき、色みや形、重さ、そのものの持つ意味や、それを身につける者への警醒をも感じる。大いなる存在が母の手から私の手に乗り移ろうとしていた。

20代や30代ではもしかしたら「今はまだいらないかな〜」とかなんとか言っちゃっていたかもしれない。でも、40代の私には受け取る心づもりになっている。

"Are You ready ?"

家で指輪をつけてみたとき、頭の中でそんな言葉が浮かんだからきっとそういうことなのだろう。戦う準備はできてるか。そう問われていた。

きっとこの指輪はしかるべき場所へと、私を連れて行くのだろう。


(トップはUnsplashMorgan Alleyが撮影した写真)


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