この漫画だけは読んどいてくれ 哲学的思考実験の名著 『有害無罪玩具』

有害無罪玩具/詩野 うら


 子供の頃、親に「こんなもので遊ぶんじゃない! 教育に悪い!」とおもちゃやそれに類するものを取り上げられたことはないだろうか?
    たとえば私が子供の頃になってしまうが、ガチャガチャから出る"煙の出るタバコ"というおもちゃがあった。タバコそっくりの形で、口にくわえて息を吹くと先から煙が出るという、私の親もそれはそれは敵のように憎んでいた玩具である。そしてやはり親達の反発が強かったのか、いつの日か綺麗さっぱり『煙の出るタバコ』という玩具は姿を消した。つまるところ、有害無罪玩具とはそのようなものだ。

 有害無罪玩具とは詩野うらによる短編漫画集であり、その中に収録されている中の話の一つである。罪ではないが子供にとって害があるのではないか?  そう判断されてしまい発禁となってしまった玩具を集めたとある博物館。そこへ見学にやってきた中学生の坂本が館長に案内されるまま、摩訶不思議な玩具の数々を体験するという物語だ。

 たとえば漫画内で最初に紹介される玩具は『生きているしゃぼん玉』特殊な液体から作られるそのしゃぼん玉は、人魚のような見た目をしており、笑いもする。ししゃぼん玉が割れにくい環境ならば記号を覚えさせたり、教えれば踊らせることだってできる。そして勿論、しゃぼん玉であるからすぐに割れてしまう。すなわち、死ぬ。そして、この性質上様々な議論が巻き起こった。『これは生命の死を楽しんでいてよくないのではないか?』『誰が殺している訳でもない』『ペット同様そこが寿命なのでは?』『自我や知性があるあるからって生命と呼んでいいのか?』そうしてこの議論に決着がつかないままにこの玩具は発売停止となってしまったのです。

 他にも『0.5秒後の未来が見える眼鏡』『自分が未来に書く絵を正確に予知する機械』『偽造記憶を植え付ける玩具』『様々な平行世界を観測できるバッジ』こういった玩具を、上記のような哲学的理論を展開しつつ、実験的とも言える独特な漫画表現で紹介していく作品こそがこの"有害無罪玩具"である。読み終わったあと、本当に自分は自分と言えるのか? と精神が揺らいでしまうような鮮烈な読書体験ができる、私が心から人に勧めたい漫画作品だ。

 そしてこの漫画は短編集になっているので、上記の有害無罪玩具以外にも、半永久的に静止した世界でただ一人過ごしている女性の日常を描いた『虚数時間の遊び』不可思議な存在 金魚の人魚が膨大な時間を漂う『金魚の人魚は人魚の金魚』など、哲学的で実験的で魅力的なこの一冊以外では絶対に味わえないような話が揃っている。一味違った漫画体験をしたい方は是非とも読んでほしい。そうでなくても読んで欲しい。なにがなんでもこれだけは読んで欲しい。きっと忘れられない一冊になる。




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