『完全無――超越タナトフォビア』第八十六章
人間たちは過去や未来を寵愛している。
人間たちは過去と呼ばれる曖昧な観念、過去の記憶というあるかなきかの幻像内容物の残滓に執着し、切なくなったり、うれしくなったり、ロマンに酔い痴れたりするのだが、未来と呼ばれる観念に対しても同等の思いを馳せ、シミュレーションし、将来を夢見ることで都合よく辻褄を合わせることができる現在、というこれまた脆弱性の高い幻像を、頬杖を突きつつ見据えるのだが、それらの時間概念たちにリンクされた記憶と想起のイマージュが、脳の中ではありありとした表象として