「Maigo」
Fast Novel🔖
2022.10.19/13:34-14:35
Maigo
(随筆、898文字、目安1分)
見知らぬおじいさんに声をかけられました。「カキツタ」へ行きたいのだけど、道に迷ってしまって困っているのだとか。私も土地勘のない人間なのですぐに携帯のkurukuru mapを開いて検索しました。
「カキツタ…花木津多?この場所で合ってますか?」
おじいさんは乗っていた自転車から身を乗り出して、うんうんと頷いています。しかしここから自転車で30分以上かかる場所。おじいさんの身なりはジーンズにパーカー、キャップ帽といったラフな格好で動きやすそうではありますが、今いる市街地には少し軽装すぎます。鞄など持たず、自転車の前カゴには軍手と未開封のマスクとお巡りさんに書いてもらったという地図が入っているだけ…。
ここからですと万休線沿いに紙船駅まで行って、そこから南へ4駅ほど下った場所にありますが、自転車だと結構かかりますよ、と怪訝そうに説明する私。おじいさんは最もだという風にすんませんと言って、自分は脳梗塞だから教えてもらってもすぐに道順を忘れてしまってこのように困っているのだと言いました。
「失礼ですが、花木津多へはどのようなご用事で?」
「自宅があるんです。急に玉浦の友達に呼ばれて出かけてきたんだけども、こういう状態じゃどうしても帰れなくなってしまって…。さっきもお巡りさんに道順を書いてもらったんだけど、そもそも駅がどっちにあるかも分からんもんで困っとるんですわ」
「それは…お友達に呼ばれても行けないって断らないと行けませんね。とりあえず近くに警察署があるのでそこまで一緒に行きましょう。ご自宅へはお巡りさんに連れて行ってもらってください」
こうして私は午後の昼下がり、自転車に乗って迷子で彷徨っていた1人の老人を警察署まで送り届けたのでした。帰り際、警察署の敷地に停められたおじいさんの自転車にぶら下がった黄色のアヒルのキーホルダーと栄養ドリンクの缶、タイヤに幾つもつけられた反射板が妙にこの老人の孤独な生活を物語っているようでした。
あの後、おじいさんは無事に家に辿り着けたのでしょうか。はたまた再び迷子になって、私のような暇な人間を見つけて、そういう人を何人も経由しながら少しずつ花木津多へ向かっているのでしょうか。
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