【MV公開特別対談】"記憶のアルバムをめくるような映像を"ーShiori Sugaya×Masashi Okamoto
このたび、ピアニスト/作曲家であり友人のShiori Sugayaと、私、Masashi Okamotoのコラボレーションとして、2本のMVを制作・公開しました。Shiori Sugayaのプライベート・レーベル「Panomated Records」のYouTubeチャンネルで見ることができます。
2本のMV公開を記念して、Shiori Sugayaと対談の形で、撮影時のエピソードやMVに込めた想いについて語りました。MVと併せて、ぜひご覧ください。
コラボに至るまで
Masashi Okamoto(以下、MO):Shiori Sugayaのリスナーの方々に向けて、まずは自己紹介から。僕は普段はイベントの動画配信や記録映像のディレクションをしています。よりメッセージ性や表現に向き合った制作をしたいと思い、2023年からMasashi Okamotoの個人名義で、MVやドキュメンタリーの制作を始めました。また、ここ10年くらいドラマー/パーカッショニストとしての演奏活動も続けており、Shiori Sugayaとは音楽仲間として以前から交流がありました。
Shiori Sugaya(以下、SS):最初に会ってからかれこれ10年前くらい? 懐かしいね。私は肩書きとしてはピアニスト/作曲家になります。"菅谷詩織"の名義でもともと音楽活動をしていましたが、2022年からは"Shiori Sugaya"名義で、より内省的で、自身の内側の世界を描くような。そんなピアノソロの表現に取り組んでいます。
MO:そんな彼女の、昨年リリースされた新作に刺激をもらって、僕から声を掛けたのが今回のコラボのきっかけです。以前から、僕の周りの音楽仲間と何か新しいことができないかなとぼんやり考えていたんですが、ある時、Shiori Sugayaの新作の話が耳に入ってきて。楽曲を聞いたとき、頭の中にさまざまな記憶やイメージが思い浮かんできました。そこにある音楽が、自分自身の近くに感じられるような手触りとともに。映像作家として彼女とコラボできないかなと思い、思い切って声を掛けたのが始まりです。
SS:私自身、音楽以外のアーティストとのコラボレーションにはとても興味があって。特に、いつか映像作家とのコラボができたらと思っていたので、2作目のアルバムを出して、こうして周りの人から声を掛けて貰えることができてとても嬉しかったです。
"flow"と"Reminiscence"
MO:早速二人のコラボとしてMVを作ろうとの話になり、候補として挙げてもらったのが"flow"と"Reminiscence"の2曲でした。
SS:映像に向いてそうだな、とまず思ったのがこの2曲で。
MO:たしかに、アルバムの中でもイメージが浮かびやすい2曲かもしれないね。それぞれどんなイメージで作ったかを改めて聞かせてもらえるかな。
SS:"flow"は、流れや動きの中に身を置いているというか、流れているものを俯瞰で見ているというか。どこか客観的な目線で大きな流れを感じている、そんな抽象的なイメージとともに作った曲です。この曲は、アルバムに先駆けたシングル第一弾として2022年8月にリリースしていましたが、アルバムに収録している音源は再録したもので。今回のMVはアルバムverの音源で作ってもらいました。
一方の"Reminiscence"は、祖母との交流に着想を得ています。少しプライベートな話になりますが、私の祖母は認知症を抱えていて。そんな祖母と会話をするとき、ある時ふと、若い頃の記憶を語りかけることがあるんです。それもまるで、その当時に祖母がタイムスリップしているかのように生き生きと語りかけてくれて。そんな祖母の姿に、現在と過去の境目が曖昧になるような感覚を覚えました。その体験に着想を得て生まれたのが"Reminiscence"で。Shiori Sugayaの楽曲の中では珍しく、具体的な体験に着想を得て作った曲なんです。
MO:話を聞いて、音楽の世界観は共通しつつも、対照的な個性をもつ2曲に感じました。最初はどちらか1曲のMVを作ろうと考えていたのですが、それぞれの話がとても興味深くて。会話を進めるうちに自然と、せっかくだから2曲ともにMVをつくろうかとの話になりました。
"記憶のアルバムをめくる"ような映像を目指して
SS:今回のMVのコンセプトについて改めて聞かせてほしいな。
MO:そうだね。全体の方向性として、"記憶のアルバムをめくる”ような映像を目指しました。先ほども少し触れましたが、『Phase』というアルバムを聞いた時、過去の体験やさまざまな感情がふっと湧き起こるような感覚を覚えて。それは彼女の音楽が、聴く人それぞれに寄り添う何かを持っているでのはないかと考えたんです。
彼女の音楽を通して、僕が感じたような感覚を映像からも与えられないかと悩んでいたときに、頭に浮かんだのが"写真"というモチーフでした。写真を見返すようにさまざまなイメージを綴ることで、MVを見る人それぞれが、自分自身の記憶/あるいはあり得たかもしれない景色に触れることができないか。そんな考えのもと、"記憶のアルバムをめくる"ような映像を目標に据えて、2本のMVをつくることにしたのです。また、明確な物語はなくして、抽象的な世界観を描くことも最初から決めていました。彼女の音楽のどこか揺蕩うような魅力を、そのまま写したいと考えたからです。
SS:制作前にこのコンセプトを聞かせてもらった時、Shiori Sugayaの音楽を丁寧に解釈してくれてると感じて。残念ながら、私自身の出産と時期が重なって撮影には立ち会えなかったけれど、安心して任せられると思いました。
MO:ありがたい反面、妙な方向に行き過ぎないよう気を配りながら撮影を進めました笑。また、先ほどのコンセプトと並行して、両方の曲の個性を生かすことも配慮しています。"flow"は、自然の景色にスポットを当てて、映像としてのスピードの緩急を大切に。一方の"Reminiscence"は、人物にスポットを当てて、より丁寧に時間を使ってイメージを繋ぐことを意識していました。
SS:完成したMVを見たとき、一人で曲を作っていた時に抱いていた、言葉では表しにくい曖昧な感覚を、一歩前に進めてクリアに写し出してくれたと感じました。そして、映像だからできる世界観の広がりを感じられて。とても嬉しかったです。
曲ごとに着目すると、"flow"では、車の中から流れる景色を見つめるシーンがとても気に入っています。先ほど話した「流れを見つめいているさま」を明快に写してくれたと感じました。"Reminiscence"は、より曲の背景にもとづいて描いてくれたと感じて。いろいろな時間が折り重なっていくような展開はとても見応えがありました。特に、ラスト1分半の美しいカットたちがお気に入りです。
撮影時のエピソード
SS:せっかくなので、撮影時のエピソードをぜひ聞きたいな。
MO:そうだね、では、今回主演として出ていただいたMisa Saitoさんの紹介を。今回誰かにモデルをお願いしようとの話になり、色々探していた中で、久しぶりに会った友人の紹介で知り合ったのがMisaさんでした。柔らかい雰囲気を持ってる方で、一目見て今回のMVにピッタリと思い。両方のMVへの出演をお願いしました。Misaさんは普段から素敵なフィルム写真を撮られていて、何度も個展を開いていたりと感性豊かな方で。今回のMVの方向性にもピッタリはまる感覚があり、本当に幸運な出会いでした。ちなみに、"Reminiscence"のMVに写るポラロイド写真の束は、Misaさん自身が過去に撮ったものを使用させていただいてます。
SS:そうだったんだね! 驚きです。もし自分の音楽に主人公がいるとしたら、こういう方なのかなと思わされるくらい、雰囲気がマッチしていると感じました。
MO:撮影当日は、僕と、Misaさん、お手伝いの友人の計3人を中心に、ごく少人数で都内・千葉県・神奈川県の色々なスポットを周りました。
なかでも神奈川では、雄大な眺めで知られるとある秘境まで足を運びました。穏やかな丘と海を撮ろうと思ってたのですが、あいにく撮影日はとんでもない強風で。大声出さないと声も届かないくらい笑。撮影どころじゃないレベルだったんですが、これも出会いということで、気合いで撮りました。映像の雰囲気とは裏腹に、かなり体育会系の撮影でしたね笑。これもまた思い出、ということで皆で笑いながら撮影したことを覚えています。
SS:大変だったね笑。でもそんな楽しそうな感じがMVの空気感にもつながってたのかもと思って、とても興味深いです。
MO:映像面では、カットを切ってつなぐ、というオーソドックスな作り方をしてますが、ささやかな工夫として、写真で一般的なサイズ比(3:2)を採用しています。また、普段から愛用しているSIGMA fpという写りの美しいカメラや、広角ではなく望遠寄りのレンズを主に使用し、被写体の動きは最小限に捉え、写真的な感覚、見つめることに重きを置いて撮影しました。
最後に
SS:貴重なお話をありがとう! 今回のMVを通して、私自身たくさんの気づきを得られました。本当に嬉しく思います。このコラボを通して、何か一言あれば最後に伺いたいです。
MO:まず、貴重な機会をありがとう!との思いでいっぱいです。今回の作品が、楽曲の美しさはもちろん、優しく身近に寄り添う存在として、より多くの人にShiori Sugayaの音楽を感じてもらえるきっかけになれば嬉しいです。そしてぜひ、アルバムに耳を傾けていただけたらと思います。
SS:このコラボを機に、私もより活動の幅を広げていけたらと思っています。今回のMV2作品は、「Panomated Records」のYouTubeチャンネルにて公開していますので、ぜひ何度も観ていただけたら嬉しいです。こちらこそありがとうございました!また一緒にできるといいね〜。
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