おめーロクな人生をおくれねぇぞ

消灯した掘りごたつの部屋。閻魔蟋蟀のように首をかしげ鎮座した親父が、テレビの灯りを肴に湯で薄めた日本酒をあおりながら

「オメーよ、今はわけーからいいけどよ、ちゃんとした飯食ってねー奴はあとからくっからな。だいたいマクドナルドのハンバーガーだってお前あんなの毎日喰っているやつの脳味噌はスポンジになっちまうからよ。まだ牛丼の方が飯粒だからいいよ。まーでも俺のよう、昔の友達が、吉野家ってあんだろ、あの牛丼がバカみてえに好きでよ、で、毎日牛丼つゆだくをよ、さんざっぱら食ってたらよ、そいつ夏の夜に扇風機をかけながらよ、寝ながら死んじまったんだよな。朝冷たくなって死んでたんだと。まー血管が牛の脂で全部詰まってたんじゃねーか。俺もまあよ、わけーころはよ、酒しか飲んでなかったんだけどよ、ばあさんが丈夫に産んでくれたから、ま、なんとかなってっけど、いまオメーは、焼肉屋のバイトでよ、カネ稼いで奨学金貯めて、まあそれは仕様がねえけどよ、夜1時とか２時までだっけか？終わったら、腹がへるからしかたねえかもしれねえけど、先輩と野方ホープで豚骨ラーメン食って、帰っておめーいま4時だろ、夜鷹みてえなくらしだなぁ。で、汗流して、バタンと寝て起きて、朝から自転車乗って排ガスまみれの環七走って一限が９時だっけか？ああ、8時50分か。そんな変わんねえだろ、そんなことさんざっぱらやってたら、糖尿病になって目が見えなくなっておめーロクな人生おくれねぇぞ。」

と、いう趣旨の話をしてくれたことがある。そんな父親はずっと嘘ばかりついて、何が本当か嘘かわからない人であったが、わたしが大学を卒業してすぐに、ガンで骸骨のようになって、あの世ゆきとあいなった。

いまのところ、疲れ目ぎみだが、目もちゃんと見えている。ロクな人生を送れているのかどうかはよくわからない。これからロクな人生を送れるのかもわからない。
#エッセイ