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修羅は有休でハワイオアフ島へいった
大人になると日々ちゃんと生きていても容赦なく呪いが降りそそぐこともあり、役所に出向くことになった。
受付で、早く残務を終わらせて漫画でも読みたそうな、はなから不機嫌そうな胃のニオイがする死神系女子に対応いただき、なにかと無配慮で人をいらだたせる物言いに、うーむ負けてはいけない、と、般若心経を心で唱えつつ、
「ソレ!にこにこぷん!あソレ!にこにこぷん!」と、終始にこやかにお話したものの、内心は修羅100%であった。
もしカウンターに冷酒が置かれてあれば、「ふざけんなこのやろいいますわ!」と、徳利をぶちまけ、ガシャン!「どいつもこいつも俺をなめやがって!燃やすぞ!埋めるぞ!もしくは多摩川に流すぞ!なんだったら、ミンチにしてコマセにしてやろうか!」などと、危うく発狂しそうだったが、俺ちゃんももう大人だもん、と、なんとかにこにこぷんのままその日は終えた。
次の日また役所を訪れた。
死神が現れたときに平常心を保つんだと心に誓ってみたところ、死神ではなく、別のアシカちゃんみたいな善良なニコニコ女子が現れ、ニコニコしていて終始こちらの事情を察しつつ丁寧であった。
同じ用向きにもかかわらず、昨日俺の中で鎌首をもたげていた『修羅』は、ゴールデンウイークをずらして有休をとりハワイオアフ島にでも波乗りにいってしまったみたいに穏やかであった。
誰も、燃やされず、埋められず、多摩川に流されず、ミンチにされてコマセにつかわれることはなかった。
ふと、アシカちゃんの肩越しに奥を見ると死神系女子が何かに憑依されたかのような表情でイラつきながら端末をたたいていた。
「我は汝を許す。」
念を送った。
帰り路、
この世からまた一つの罪の火種が白い煙となって消え去ったのを見あげた。ゆうやけがやけにきれいであった。
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