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印象派展2024の話をしよう

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』@東京都美術館 に行ってきました!

普段からたくさん美術館を訪れるというタイプでもなく、楽しめるか不安な側面もあったのですが、そんな不安を吹き飛ばすくらい素敵な作品がたくさんで、とても良い体験になりました。美術館関連で縁のあるフォロワーさんにご一緒させていただいたので、感想を話し合うのもとっても楽しく….!

やがて記憶が薄れてしまうのがとても勿体なく、寂しく感じられるので、感情が鮮やかな今のうちに感じたことをまとめておこうと思います。 

この記事は購入した図録を見ながら書いています。図録はテキストも充実していて大変素晴らしいのですが、収録されている作品を見ながら、やはり美術館で見たときの感動と比べてしまうとやや薄れることを感じています。

ですが、作品を手元で参照できることで、図録が美術館での体験を思い出す導線になってくれているのも同時に実感しています。この記事も、未来の私にとってそうあってくれることを願って。

この記事をかいたひと:水銀(@mercunny11)
特段芸術には詳しくない。勇気爆発バーンブレイバーンを履修しているので、Chapterほにゃららと打ち込むたびに動悸がする。


本展覧会は全部で五つのチャプターに分かれており、それぞれに時代やテーマに合わせた作品が収録されていました。まずはチャプター1から、特に好きだった作品を中心に書いていきます。

Chapter 1 伝統への挑戦

ギュスターヴ・クールベ 《女と猫》

作品のヴィジュアルそのものにすごく心惹かれたかというとそういうわけではないのですが、解説を読んですごくグッときました。

以下に示すのは作品の横に掲示されていたテキストではなく、手元の図録からの引用なのですが、

クールベは(中略)生涯にわたり反骨精神を持ち、作品によって慣習に挑み、議論を巻き起こした。(中略)ナポレオン3世の第二帝政への反対と民主主義の原理への信念によって裏打ちされた強い政治的決意を映し出している。

同展覧会 図録 p.42

う、嬉しい! 水銀は思想の強い作品が大好きです。というか、芸術を通して思想を表現しようとする試みが好きです。ただ作品を見ていたらきっと気がつくことのできなかった情報だと思うので、プロの方の解説とともに作品を鑑賞できるというのはすごく良い機会なんだなと感じました。

トマス・コール 《アルノ川の眺望、フィレンツェ近郊》

美しい〜〜〜!! という以外にあんまり言葉がありません。画面奥から除く太陽はかなり眩しい印象ですが、刺すような明るさというよりも柔らかさがある色彩に感じられます。それを照り返す水面の揺らぎ、光を受けて明るく色づく建物や植物など、画面の全部が希望に満ちているというか……すごく好きな作品でした。

Chapter 2 パリと印象派の画家たち

クロード・モネ 《税管吏の小屋、荒れた海》

モネ!印象派といえば、という感もある有名な人ですね。
この作品に関しては、海面の色彩の豊かさが本当に美しく感じられました。

色合いそのものも美しいと思うのですが、それ以上に強く感じたのは、もしかしたら当時のモネと視界を共有できているのかもしれないという感覚でした。

というのも、展覧会に入ってすぐのところに掲示されていたウスター美術館館長の言葉が思い出されたからです。

これらの作品はウスター美術館から皆様への使者であり、遠く離れた私たちの風景を眺めていただく窓でもあるのです。

同展覧会 図録 メッセージ日本語版

当時のモネの視界なんて分かりようがないので、これは勝手な感傷なのですが、実際の景色からすればあり得ない(少なくとも誇張がある)と思われるような色彩の海を見て、当時のモネには煌めく海がこんな色合いに見えていたんだろうか、その美しさを伝えたくて筆を取ったのだろうか…..と思いを馳せてしまいました。

私個人は美しさを見出すことができないかもしれない景色について、作家の感じた美しさを教えてもらった感覚とでもいうのでしょうか、とても心を動かされました。

カミーユ・ピサロ 《ディエップの船渠デュケーヌとベリニー、曇り》

これね! すごいんです 近くのテキストに、この作家さんは曇天を好んでいて~とあったのがすごく印象的でした。個人的に曇天ってあんまり絵画のモチーフになると思っていなかったので……。

曇天と言ってもどんよりとした暗い日ではなく、太陽光が薄雲に拡散して空間全体がうっすら明るいような……曇り空の新しい解釈を教えてもらった気持ちになりました。

これもひとつ前のモネの絵と同じく、見逃していた景色の美しさに気付かされたような感覚で、とても印象に残った作品でした。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《闘牛士姿のアンブロワーズ・ヴォラール》


https://www.pierre-auguste-renoir.org/thumbnail/78000/78688/mini_normal/Ambroise-Vollard-Dressed-As-A-Toreador.jpg?ts=1459229076

やっ……これ、すごいんですよ、すごいというのは、その、テキストが!!! この作品、関係性萌えがすごくて

私もね、まさか美術館で関係性萌えすると思わなかったんですが その 

ルノワールさん(作家さん)とヴォラールさん(画商さん)はそもそも友人であるらしいんですが、図録のテキストによるとですね こういう経緯であるようで

ヴォラールさん「肖像画描いて」
ルノワールさん「いいよ。どんな注文にも応じるけど、その代わり絶対闘牛士の衣装着て」
ヴォラールさん「いいよ」

??????????

ヴォラールさん「超気に入ったから家に飾るね、死ぬまで」

????????????????????????????????

図録「衣装の出所は不明で、どちらがどこから購入したのかについてはさまざまな証言があるよん」
ぼく「そう……」

すごい絵画を見ました。ルノワールさんは闘牛士フェチだったんでしょうか……? それとも友人を一番美しく飾るのは闘牛士の衣装であると……? なんにせよ、なんか、すごい……こんな、友人同士の関係性が現代日本に生きる我々にまで示されるの、なんか、すごいなって……

クロード・モネ 《睡蓮》

や〜〜〜、やっぱ、すごいです。芸術に詳しくない私もね、名前くらいは聞いたことがあったんですが、実際に見るとこんなにも….こう、すごいのかと。

この作品、他の展示とはちょっと分かれてるところにあって、壁一面にこの作品だけがドカンと飾ってあるんですよね。しかも結構大きくて、想像した倍くらいはあったんじゃないのかな?

これまでの作品の解説で、大気と光の表現や水面の表現などが印象派の技法の特徴として挙げられていたのですが、確かにこう、その集大成というか……結実した姿だなと思いしらされたような気持ちです。

印象派らしい、と一括りするのは雑なのかもしれませんが、この穏やかで幻想的な色彩はやはり素敵だなと思いました。

ちょっと寄り道

展覧会には作品だけでなく、《睡蓮》の収蔵をめぐる手紙のやり取りも展示されていました! これがなんだか、人間味があって可愛らしいというか。

美術館用の特別価格だから内緒にしてね! とか なんとか委員会説得するから買わせて💦 とか ごめん支払い3ヶ月後でいい?💦 とかやってて みんな人間なんだなと…… 可愛らしく感じられました。

私はTRPGを遊ぶのですが、学芸員のPCで遊ぶシナリオ(ピリオド・アズールという超おもろシナリオです)に思い入れがあるのもあり、なんだか微笑ましかったです。

Chapter 3 国際的な広がり

ジョン・シンガー・サージェント 《コルフ島のオレンジの木々》

すごい夏! って感じがしませんか? この作品。実際これがいつのコルフ島の様子なのかはわからないんですが、温度まで伝わってくるような作品だなと思っています。

遠くに澄んだ海の美しさ、木々の葉の生き生きとした緑、照らす光の温かさ……。複製画でも良いのでリビングに飾りたいです。素敵だ。

久米桂一郎 《秋景》

上記のリンクから飛ぶと、トップ右の作品がそれです。ちょっと画質は荒めですね……

うまく言えないんですが、目に飛び込んできた瞬間に一番うおっ!となった作品です。案外感動するとかってそういう、理由のないことなのかもしれません。

なるべく言語化を試みるなら、木々の輪郭線に赤が滲んでいるような不思議な色彩に見えて、すごく心惹かれたんです。上部の空のあたりは日本画的な表現でありながら、下の草地や水面のあたりはこれまで見てきたような印象派的な? 筆致であるように感じられました。

全体の色彩と雰囲気がとにかく好みで、全作品中でもかなり印象に残った作品です。

Chapter 4 アメリカの印象派

ジョゼフ・H・グリーンウッド 《雪どけ》

雪景色なのにあったかそうなんですよ! すごくないですか? 雪は確かに降り積もっていて、きっと触れば冷たいんだろうけど、それでも春の暖かな光が差し込み始めている。そういう、まさに「雪どけ」の情景であるんだなというのが温度感として視覚的に伝わってきて、本当にすごいと思いました。

この作品は風景を収めた写真を参考にして描かれたらしく、図録にはその元写真も載っているのですが、写真よりも絵画の方がずっと素敵だと感じてしまいます。

優れた美術家の目には本当にこんなふうに見えていたんでしょうか。それとも、彼が景色の中に見た美しさがより伝わるように、誇張して描いたものなのでしょうか。あるいは、実在する景色に自分の表現したいものを託したのでしょうか?

ジョン・ヘンリー・トワックマン 《滝》

これ!!!!!! これもすごくて、目にした瞬間にうおっ!! となった作品その2です。マジで目に飛び込んでくるようだったんですよ!

絵画は確かに平面作品であるはずなのに、上方から流れ、岩場にぶつかっては拡散する急流が確かにそこにあるような、そんな感覚になって……絵画ってすごいんだなって……

しばらく心を奪われたのち、一緒に展示されているテキストを読んだところ、地平線を高くとって描くことで壮大さを演出しているという旨の表現があり、二重に感動しました。

作品から受けた印象が、作家の意図したものそのままであること、すごく嬉しいんです。原作厨なので……。というか、見た人にどういう印象を与えるかまで計算され尽くしているのだなと、その技巧自体に感動します。私は考えて作られているものが好きです。

チャイルド・ハッサム 《コロンバス大通り、雨の日》

これもすごいすご〜い! きゃっきゃっ! みたいな感情です。タイトルなくても雨の日だってわかるの、すごいよ! 海とか川とか池とかとはまた違う、路面に薄く張った雨水の照り返しがすごく美しいと思います。

ぼやけた景色の中に車輪の硬質な素材感が際立っているのも素敵だなと。なんか恋です、この光景に。

チャイルド・ハッサム 《朝食室、冬の朝、ニューヨーク》

連続して同じ方のになってしまう! でも素敵だったんです。中央のテーブルの上に置かれたガラスの花瓶の表現がとくにお気に入りです。透き通っていることをこんなに美しく描けるのってすごいなって……。

カーテンの奥に見えるマンハッタンの摩天楼も好きです。そういう人工物・近代性の象徴みたいなものが、あくまで主題ではなくカーテンの奥にさりげなく配されているの、めちゃめちゃおしゃれだなと思います。

何と言えばいいんでしょう、「ふん、今更ビルの群れくらいでは興奮しないぜ。こんなん当たり前の景色だからな」みたいな余裕を感じるというか……引き算の美学というやつなんでしょうか?

Chapter 5 まだ見ぬ景色を求めて

デウィット・パーシャル 《ハーミット・クリーク・キャニオン》

第一印象から決めてました!!! という感じの作品です。地形的にはすごく厳しいのに、柔らかな光と空気感がむしろ美しさや穏やかさを感じさせる気がしています。

この景色に魅せられてうっかり軽い気持ちで足を運ぶと、当時なら普通に死んでもおかしくないんでしょうね、シンプル断崖絶壁ですもの…… 輪郭が際立つあたりに入っている紫色がすごく好きです。

図録には装丁違いでピンクとブルーの二種があったのですが、ブルーを選んだのは青に思い入れがあることに加えて、裏表紙がこの作品だったからというのもありました。それくらい好きな作品です。

展覧会を通じて

特に好きだった作品は個別に振り返ったので、ここからは展覧会全体を通して感じたことをまとめます。

感想① 人といく美術館は楽しい

前述した通り、私は普段から美術館に通うというタイプではありません。
誰かと一緒に行くというのは、ペースを合わせないととかどれくらい喋るタイプかとか、考えないといけないことが多そうで大変なんじゃないか…..? などとひっそり考えていましたが、結果的にめちゃめちゃ楽しかったです。

芸術を鑑賞すること、見たものについて感じたことや考えたことを言葉にすることって、日常生活だと意外とない気がしています。特にそれがハイカルチャーに属するようなものであると、感想を交わし合うことすら照れが生まれてしまったり、知識不足から引け目を感じてしまったり、そんな機会も少なくない。

少なくとも私はちょっとあります。よくわかってないのに口出すべきじゃないかなとか、イキってると思われたくないなとか……こういう内面化してしまった自分の好まない価値観たちはなんとかしたいところなのですが、感じてしまうものはしまうので仕方なくて……

今回ご一緒させてもらったフォロワーさんとは楽しく感想を話し合うことができて、とっても良い経験でした。ある作品に対して、同じ部分を綺麗だと思ったり、あるいは違うものの見方をしていたり。考えていることが似ていても似ていなくても嬉しいものだな〜と感じました。芸術鑑賞ということに関してある程度スタンスを揃えられて、楽しくお話ししてくださる方と一緒に行けたのはすごくありがたい経験だったなとも!

一人で見に行っていたらしなかっただろうやり方で作品に向き合うこともできて、本当に楽しかったです。フォロワーさんにとっても楽しい時間だったらいいなと思います。

感想② 歴史の中の印象派

作品と一緒に掲示されていたテキストや年表を見ながら、芸術が社会といかに不可分であるかを感じていました。

美術界の流れという意味だけでなく、社会にどんな作品が要請されていたのか、その時代の価値観は何を重んじ、表現したがっていたのか。そういった点は深く歴史と結びついていて、作品単体で語れるものではないのだなと。

鉄道網が発達し、都市と郊外を行き来できるようになったから、芸術家たちが郊外に住みその景色を表すようになったことや、印象派の戸外製作の伝統がアメリカ西部や北アフリカで活かされていたことなど、歴史の影響なしには語れない部分です。

前述したギュスターヴ・クールベなんかもかなり顕著なのだと思います。アカデミックな芸術を否定し、低俗な主題を選んで荒い筆致で作品を描くことと、第二帝政への反対や民主主義の原理を掲げた政治的決意は、既存の権威への反抗という形で繋がっています。

その作品に流れる思想がどんなものであれ、私はある思想や価値観が芸術によって表されているのが好きだし、同時代の知識を得てそれを理解する過程も好きです。そういう意味で、今回の展示はかなり自分好みのものでした。

感想③ “フロンティア“って……

Chapter 5の英題は、New Directions and Frontier Lands でした。日本語では『まだ見ぬ景色を求めて』とやや丸い表現になっていますが、Frontier Lands、“まだ見ぬ景色” は、19世紀末という時代を鑑みれば、単純に美しいと持て囃すことはできない主題であるように感じられます。

印象派の画家たちが採用した色彩、持ち運びができる画材道具、戸外制作は、どんな困難な地域にも適応させることができた。19世紀後半の北アフリカを描いた作品からも明らかだが、アメリカ西部をとらえた印象派の作品ではさらに顕著である。

図録 p.175

19世紀後半は、西漸運動の時代であり、アフリカ分割の時代でもあります。
彼ら──作家だけでなく、それを享受するもの皆──が美しい景色として消費したその土地で、“困難な地域”で何が起こっていたか。そう考えると、無邪気に作品を眺めていられなくなってきます。

だから作品ごと悪いとか、こんな展示会はよくないとか言いたいわけでは決してないです。私は歴史にも芸術にも特別詳しいわけではないし、感じた懸念も間違っているのかもしれません。ただ、現代の鑑賞者である私は、このことを少なくとも心に留めて当時の作品を見ないといけないなと、そんなふうに思いました。歴史の中にある芸術が好きだからこそ、余計に。負の部分にも目を向けるべきだなと。

最後に

感想③だけやや暗い感じになってしまいましたが、これは私が、感想を残す以上触れないのは自分に対して誠実じゃないかな〜と勝手に思っているだけなので、展覧会自体はすごく楽しかったです! 

今回は利用しませんでしたが、速水奨さんの音声ガイドとかも借りられるみたいです。すごく楽しいと同時に知識不足を実感した回でもあったので、もし次があるなら音声ガイドを利用してみるのもいいなと思いました。誰か友人と行くならその友人とも話したいところなので、少し悩みますが。

あ! それと、美術館内にご飯を食べられるところがいくつかあり、今回はカフェを利用したのですがすごく美味しかったです!

写真下手くそ選手権か?

すごく美味しかったはずなのに、私の写真の腕前のせいであんまりおいしそうに見えなくて愕然としています。未来の私のために宣言しておくと、とっても美味しかったです。

私は食べませんでしたが、印象派展コラボメニューの、モネが愛したスコーン? みたいなものがあり、それもとっても美味しそうでした! お昼時でもそこまで混んでおらず、ゆっくりできる雰囲気です。

印象派展、サイコ〜〜〜!

美術館を出るオタクをしたところで、このnoteを閉じます。

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵 は、東京・上野公園の東京都美術館にて、2024年4月7日日曜日まで開催されています。お近くにいらした際はぜひ、足を運んでみてください!


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