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チェロ弾きのためのエッセイ〜y=ax+b〜


弓の圧力、気にすることが多いと思います。

人差し指のどこで圧力かけるとか、親指に力が入らないようにとか、弓や腕の重さを利用するとか…

弦楽器奏者である以上、右手や弓と睨めっこするのは宿命と言えるかもしれません。常に力のかかり方、位置などを考え、意識と無意識を往復することは重要なことだと思います。

さて、では左手はどうでしょう。

弦を抑える指にも、圧力の調節があります。以前記事にも書かせていただきました。

音が鳴る最低限の圧力でビブラートをかけてみたり、逆に圧力を加えてみたり、幅の利かせ方は自由自在です。



さて、今回の気づきは、両手の関係性です。


突然ですが、チェロを始めて間もない頃を思い出してみてください。解放弦で音を響かせることができるようにはなったけど、弦を押さえた瞬間に音が変。周りの経験者や先輩はあんなに簡単そうに弾いているのに…
なんというか、音程が低かったり、音が弱々しくなったりして、スラーで弾くと音量や音程がガタガタになってしまいます。他にも症状は様々ですね。
ちなみに私は、弦を押さえてスラーで弾くのが苦手でした。

始めたての頃は、指の力が足りていなかつまたり、効率の良い押さえ方が分からなかったりして、指をよく痛めたのが懐かしいです。

そんな訳で私は、左手に大きく意識を割いて練習していました。しっかり正しい位置・間隔で押さえるところから始まり、親指の力を抜くこと、力のかけるベクトルを横にすること、指ではなく手・腕・体重を使って押さえること…

ある程度までくると、最初期と比べてスラーも弾けるようになり、比較的滑らかに弾けるようになりました。


しかし、それでもまだ上手くいかないことが。
それは、解放弦への移弦です。
つまり、D線で1ポジションのソを弾いてからA線でラを弾く時、音色が大きく変わってしまう症状です。
解放弦で弾く音はやはり開けっぴろげになってしまうので、そーっと弾くことで対応こそできますが、ふとした時に音色の差が気になってしまいます。
もちろん曲に関して言えば、解放弦と押さえる弦を使い分ければいい話なのですが、基礎練習の際は、いつどの音をどの弦で弾いても、一定の音色を出せるようにすることも必要です。

しばらく悩んでいたので、温めるという意味も含めて悩みを放置していました。



さて、皆さん「敬語」の種類、覚えていますか?
相手を敬う"尊敬語"、自分をへりくだる"謙譲語"、物事を丁寧に話す"丁寧語"の3種です。
年を重ねるごとに使う機会が増えていき、気づいたら日常の中に溶け込んでいるのではないかと思います。
いきなり何の話?と思う方もいらっしゃると存じますが、まずこちらをご覧ください。



敬語、特に尊敬語と謙譲語は、自分と相手に差を作ることで相手を敬うものです。
この、差のイメージが私の悩みを解消するのにピッタリでした。


つまり、解放弦の圧を下げるのではなく、他の弦の圧を上げれば良いのです。

あまりに簡単なことだったのに、何で気付かなかったんだろうと、呆気に取られた気分でした。


しかしなぜ、気付いてないにしても実践できていなかったのか?
これが今回の本筋です。

私が先生に教わった時の話ですが、速いpのパッセージを演奏する際には、弦は弱めに押さえて優しく弾いてあげると良いそうです。
では、逆はどうでしょう?
弦を強めに押さえている時、弓の圧力は?

もちろん、圧は強くなります。
つまり、指と弓、それぞれの圧力は基本的には比例するような関係になっています。

実際にやってみると、確かに指と弓の圧力がチグハグだと音が掠れたり裏返ったり、いろんな症状が出てきます。
この症状って、前述した初心者の症状にとても似ている気がします。

指と弓の圧力の関係は、ひたすら楽器を弾いていれば自然と身につくようなものかも知れません。それ故に、気づくことなく慣れていき、改めて考える余地が私になかったのも事実です。
言われてみれば当たり前の事ですが、この関係を意識するだけで解決できる問題の多いこと多いこと。私にとって大きな気づきでした。



ふとCDを聴いていると、時々「あ、この音解放弦だ」と思うことがあります。プロでもやはり、完璧に音の差を埋めることは難しいのかな、なんて思います。ですが、音自体に違和感はなく、自然とメロディの中に組み込まれているのを聴くと、とても理性を感じます。
自分も数多の名チェリストのように、チェロや楽曲に対する理解を深めたいものです。



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