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メルカリにおける「プロダクト開発に繋げる」分析プロセスの紹介〜登録フロー改善の取り組みを参考に〜

はじめに

はじめまして。メルカリProduct Analyticsチームでアナリストをしているtakahideと申します。今回のブログでは、私が分析を担当しているOnboardingチームにおける「メルカリの登録フロー改善」の取り組みを通じて、アナリストとPdM(プロダクト・マネージャー)でどのように分析を進めているかをお伝えできたらと思います。なお、メルカリではPdMとアナリストはワンチームでサービス改善に取り組んでいます。

「分析の進め方」は下記のステップに沿ってお話します。
※「問いをPivotする」と「関連チームとすり合わせる」は常に発生するステップではありません。

Onboardingチームとは

今回分析を担当したOnboardingチーム(※)は、メルカリをインストールしたお客様を登録に導き、その後、購入・出品といった重要なアクションをスムーズに開始できるように機能の開発を行っています。PdM・デザイナー・エンジニア・アナリストなどがワンチームでサービス改善に当たっています。※メルカリ内の正式名称は別にあります

購入・出品を早期に行ったお客様はその後も継続的にメルカリを使って頂きやすいため、開始直後の体験が非常に重要になってきます。

分析ステップ1:問いを立てる

当時Onboardingチームで議論していたのは、メルカリをインストールしたお客様がスムーズな登録・購入・出品体験をするための「レバーとブロッカー」は何か、という問いです。メルカリは多様なお客様に利用頂いてますが、メルカリを開始したお客様に注目した時に「登録、購入、出品」を促すレバーとなる体験と、逆に、阻害するブロッカーとなる体験を改めて整理することになりました。

今回はその中でも「登録」にフォーカスして紹介したいと思います。
改めて問いを言語化すると「メルカリを新規登録するお客様を増やすには、インストール後にどういう体験を促進し、逆に、どういう体験を抑制するべきか?」となります。

このような、分析の方向性を決定する問いはPdMなどチームメンバーと議論をしながらすり合わせていきます。具体的な分析が始まる前のこのフェーズでは、アナリストは以前に行った関連する分析結果などから議論の材料を提供し、アイディア出しMTGのファシリテーションを行っています。
※今回はプロダクト側からの問いでしたがマーケティング側と連携した問いもあります(例えば、メルカリをインストールした経路ごとに最適な登録体験とは何か?など)

分析ステップ2:問題発見に向けた分析を行う

分析ステップ1で確認した問いに対して、まずは登録開始から登録完了に至るまでのファネル分析を行いました。

お客様が大きく離脱しているページやイベントを特定することで、登録のブロッカーとなる体験を見つけてプロダクト側での改修のヒントとすることが目的です。
※ファネル分析に関してはMercari Analytics Blogの「ファネル分析実践入門 〜Web版メルカリの事例で学ぶ〜」が詳しいので良かったらご覧ください!

各画面の遷移率をみると、メールアドレスやパスワードを入力する画面での離脱が相対的に高いことが分かりました。ここから、「入力項目が多くあることでお客様の負担が高く、結果、遷移率が低いのでは」という仮説が生まれました。実際、この仮説が正しいことは検証によって確認されました。

メルカリの実際の登録画面

このように分析を通じて、問いを検証可能な仮説に着地させていきます。問いから仮説へは一直線に進むことは少なく、分析を何度か繰り返してチームメンバーとすり合わせながら進めていきます。週に数回アナリスト側からチームメンバーに対して分析結果を共有するMTGを開催し、分析結果の解釈をメンバー間で共有しながら追加の分析の方向性を決めていっています。

分析ステップ2.5:問いをPivotする

当初、チーム内では分析ステップ1で立てた問いに対する仮説を考えていましたが、改めて「メルカリを新規登録するお客様」の特徴を分析すると、今まで見えていなかったことが分かってきました。ここでの「特徴」とはデモグラのような人口統計学的な属性のことではなく、「新規登録」の区分を指します。

メルカリで新規登録、つまり新しいUserIdが発番されるお客様は、「メルカリを一度も使ったことがない完全新規のお客様」と「メルカリの利用経験があって携帯の機種変更などで再インストールした後に、ログインせずに新規登録したお客様」が存在します。

実際、利用経験があるお客様は完全新規のお客様に比べて、メールアドレスとパスワードの設定エラーが多く、エラー発生後に別アカウントを作って新規登録を完了する割合が一定存在することが分かりました。

この結果から、誤って新規登録しているお客様はむしろログインに誘導するべきであって、当初の「メルカリを新規登録するお客様を増やすにはどうするか?」という問いは「メルカリをインストールしたお客様がスムーズにメルカリを始めるにはどうするか?」というより広い問いにPivot(方向転換)する必要があることが見えてきました。

このように、分析を通じて当初設定していた問いをPivotすることがあります。Pivotした後には当たり前の問いと感じられますが、Pivotする前は気づきづらいものです。個人的には分析結果を元にチームメンバーとの議論を密に行うことでPivotの機会が訪れやすくなると感じます。分析結果の共有MTGで本題とは少しずれたテーマを話している時(ある種の雑談)に「そう言えばこういう切り口で考えると面白くないかな?」というPivotの種となるアイディアが生まれやすいと考えています。

分析ステップ3:施策の仮説を立てる

メルカリをインストールしたお客様がスムーズにメルカリを始めるにはどうするか?」という問いに対して下記の施策案が挙がりました。

  • 「完全新規のお客様」は新規登録のフローに誘導する

  • 「メルカリの利用経験があるお客様」は適切なタイミングでログインのフローに誘導する

こうして、「登録のフローをメルカリ利用経験の有無によって分けることでメルカリを利用するお客様が増える」という仮説が形成されていきました。

ちなみに登録フローの改修は「メール登録」に絞っています。分析ステップ2.5で確認したように、メールアドレスとパスワードの設定でエラーが発生しているのと、登録経路の中でSNSに比べてメールの方がボリュームが大きいからです。

具体的な施策内容としては、下記図のようになります。

  • メールアドレスの登録に進んだ後に、新規のアドレスとパスワードを入れた場合は新規登録のフローに遷移

  • 登録済みのアドレスとパスワードを入れた場合はログインのフローに遷移する

というものです。これによってメールアドレスの登録を開始したお客様がスムーズにメルカリを始められると考えました。

分析ステップ4:仮説検証の指標を決める

このステップでは、分析ステップ3で確認した仮説を検証するための指標を決めていきます。指標の策定はアナリスト主導ではありますが、アナリストとPdMそれぞれがアイディアを持ち寄り話し合いを通じてすり合わせていきます。

今回の検証のポイントは2つで、1つは新規登録のお客様とログインのお客様どちらがどの程度変化したか、そしてもう1つはメルカリ開始後の行動(購入や出品)に変化が見られるか、になります。

1つ目に関しては、「新規登録」が減少し「ログイン」が増加すると想定していました。従来は、登録済みのメールアドレスとパスワードを入力するとエラーになっていましたが、今回の改修では「エラーにならずにログインの画面に遷移する」という動線の改修を行っています。これによって「メルカリ利用経験があるけれど間違って新規登録した」お客様が減り、結果として新規登録全体が減ることが予想されました。その逆に、メルカリ利用経験があるお客様はログインの画面に遷移するため、ログイン増加が想定されます。

指標としては、「登録を開始したお客様」を分母とした、登録完了率とログイン率、そして登録完了又はログインした率を見ることにしました。

2つ目に関しては、メルカリアクセス後の行動が増える、という仮説がありました。メルカリ利用経験があるお客様は購入や出品の意欲が高く、そうしたお客様が登録画面で離脱しなくなることで、全体として購入率や出品率の上昇が想定されるからです。

こちらの指標としては、「登録を開始したお客様」を分母とした、購入完了率と出品完了率を見ることにしました。

分析ステップ5:仮説を検証する

検証ポイントの1つ目に関しては、新規登録は有意に減少、一方でログインが有意に上昇して、全体(=メルカリを始めるお客様)は有意に上昇していました。メルカリを開始する体験が改善された結果、メルカリにアクセスするお客様が増加したと考えられます。
※ABテストに関してはMercari Analytics Blogの「メルカリにおけるA/Bテスト標準化への取り組み」をご覧ください

このように書くと「動線を変更したのだから当然の結果では?」と思われるかもしれないですが、メルカリの登録動線は一方通行ではなく前の画面に戻ることもできるため、何かしらの違和感を感じたお客様が別の経路に戻って登録することも考えられました(例えば、検証対象となるメール登録以外のSNS登録から新規登録するなど)。

検証ポイントの2つ目に関しては、有意ではないものの購入が増加し出品が減少する傾向が見られました。購入増加はステップ3の仮説に合致するものですが、出品減少は一見すると解釈が難しいですよね。

実は、メルカリでは新規のお客様には登録後にバナーで様々な機能の訴求を行っていて、検証時の訴求内容が「出品」に注力したものでした。新規登録が減ってログインが増えることで「出品訴求」を目にするお客様が減り、全体として出品が減少したように見えていました。

分析ステップ5.5:関連チームとすり合わせる

今回の検証はOnboardingチーム主導で行ったものですが、ステップ5でみたように新規登録への影響が確認されたため、新規獲得を担っているチームへの説明とすり合わせを行っています。

  • 従来の登録フローではメルカリの利用経験があるお客様が間違って新規登録していた。今回の施策で登録フローが正常なものになったことで結果として新規登録は減少したこと

  • 新規の減少分を含めても全体としてメルカリを開始するお客様は増加していたこと

  • 施策を全展開した時の各月の新規登録者のマイナス幅のシミュレーション結果(どのくらいの落ち幅を想定しておけばいいか)

メルカリでは一つの機能の改修が複数のチームに影響を与えうるため、分析内容次第でチーム間のすり合わせを行うこともあります。


まとめ

今回のブログでは、メルカリのアナリストが普段どういうプロセスで分析を行っているかを紹介させて頂きました。あくまで一つのモデルケースではありますが、問いを起点として分析を行い、検証するべき仮説を選定して、選定された仮説を検証して検証結果をもとに意思決定を行うというステップを踏んでいます。

また、「問いを立てる」、「問いをPivotする」、「仮説を立てる」といった分析のステップはアナリストと、PdMなどのチームメンバーとがタッグを組んで進めています。このようにアナリストとチームメンバーとが密にコミュニケーションしながら分析を遂行できるのは大きな魅力だと感じています。

なお、今回ご紹介した登録フローの改修は「メルカリをインストールしたお客様がスムーズにメルカリを始めるには?」という問いへの一つの答えでしたが、別の切り口もまだまだ存在しています。例えば、メルカリの登録フローでは「skip」ボタンを押下するとHome画面に遷移しますが、そこからスムーズにメルカリを開始してもらうにはどういう体験が必要か?などです。こちらの分析結果も機会があったらMercari Analytics Blogブログでご紹介していけたらと思います。

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