ラーメン屋である僕たちの物語1st ②
「Voodoo chile」
「おれはラーメン屋になる」
親父が家を出てから、5年が経った
僕は、あれから一度も親父には会わなかった。
親父の店は藤沢駅から数分のところにあり、
その近くに住んでいることも、風の噂で聞いていた。
母から聞いた話では、そのころ祐貴は親父の店を手伝っているようだった。
5年前、親父のラーメン店の開店前日、藤沢駅前で親父とばったり会った弟は、誘われるまま店を手伝うことになったらしい。
親父が家を出てから祐貴はグレた
人には言えないような悪さも沢山したようだ。
後日、祐貴と酒を飲みながらその頃の話になったとき「あの頃は俺の暗黒時代だからな」と笑っていた。(ほんとに言えないことしてやがったw)
元来、祐貴は家族を大切にしていた。
僕と取っ組み合いの喧嘩した後も
「やっぱり兄貴は殴れない」と言った。
(僕は殴っちゃったけどね。ごめんね祐貴。)
あいつがグレたのはきっと寂しかったんだと思う。
そうやってバラバラになった家族の目を自分に向けさせようとしたんだ。
だから祐貴が親父に誘われるまま店を手伝っていても、なんら不思議には思わなかった。
…実を言うと、僕も同じ頃に、藤沢駅前で親父を見かけていた。
駅前の交差点で信号待ちしている向こう側に、僕は親父を見つけた。
親父は僕に気づいていなかった様だが、僕は声をかけずにその場から離れた。
本音を言えば、会って話すのが怖かった。
親父は昔からめちゃくちゃだった
街で喧嘩して血まみれになって帰ってきたり、家の前で行き倒れていたり、当時飼っていた犬が、自分の帰りに出向いてこないことに腹を立て、二階外階段の踊り場から階下に犬小屋ごとぶん投げたり(幸い犬は無事でした。相当怖がってたけど)、僕も理由もわからずぶっ飛ばされたりなどなどなど。
僕はそんな親父が怖かったのだ。
親父に負けないために強くなりたかった僕は、高校進学と同時に部活には目もくれず、町のボクシングジムに通い始めた。
ボクシングは楽しくて、自分が強くなっていくことが楽しかった。
そして町の喧嘩も増えた。
(同時に自分の弱さも良くわかった)
そんなある日、酔って帰ってきた親父と口論になった。
呂律の回らない情けない親父が目の前にいる…
あんなに怖かった親父が小さく見えた
ー瞬間ー
「あ、おれ、親父のこと殺れる」
と感じてしまった。
越えてはいけない山を越えてしまった、禁忌を犯してしまった気持ちに襲われて、僕はその場に泣き崩れてしまった。
お袋が心配して声をかけてくれたのを覚えている。
それから親父とは、一言も口を聞かなかった。
程なくして、親父はラーメン屋になるために家を出た。
その後の藤沢駅前での思いがけない遭遇だったのだ。
まだ自分の気持ちと向き合う勇気がなかった僕は…
逃げた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
その頃の僕は大学に進学していたけど、大学にはほとんど行かずアルバイトばかりしていた。
(学費を出してくれていたお袋には本当にごめんなさい)
キャンパスライフに馴染めなかったのもあるが、働いている方が楽しかったのだ。
ある日、職場の先輩が言った
「大西の親父さんラーメン屋なんだって?
すげー有名らしいじゃん!連れてけよ!」
…マジですか。なんで知ってるんですか。
…ああ、そうか!第三次ラーメンブーム!
どうやら一緒に働いてた友達がしゃべったらしい。
職場はガテン系。ガチガチの体育会系だ。
先輩の命令は絶対服従の世界なのだ。
「……わかりました。」
「おう!車は出すからよ!頼むぜ!」
先輩は僕の背中をバンバンと叩き、豪快に笑った。
こうして、思いがけない形で親父との再会が決まってしまったのだった。
…to be continued➡︎
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