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ラーメン屋である僕たちの物語1st ④


「Knockin' on the MEJIRO's door」






ズズッ



ズズズッ




ゴクッ…




ゴクッ…




コトッ




空になった丼を覗き込む。

丼底のねぎ油の粒が、頭上の照明に反射してキラキラ光る。


夕飯時で賑わう店内、僕は今日も離れたカウンター席で「めじろ」のラーメンを食べに来ていた。


3回目は「一人で」だ。


めじろのラーメンは食べ進めるほどに味が変わっていく不思議なラーメンだった。


屋号の「七重の味の店」というショルダーネームはそのラーメンの味わいに由来していた。


僕はすっかりこのラーメンの魅力にハマってしまっていた。


親父と顔を合わせるのは未だ照れくさかったが
このラーメンの魅力には抗えなかった。


親父とは相変わらず


「よう」



「おう」



程度のやりとりしかなかったが、この日は違った。




「おかあさん元気か?」




突然親父から声をかけられ、僕は振り向いた。


気づけば他のお客さんは引いていた。


曖昧な生返事でやり過ごしていたが、いくつかのやりとりの後、親父が唐突に言い放った



「芳実、
ラーメン屋手伝ってみないか?」



僕は思わず親父の顔を見た。  


「何言ってんだよ。ごっさま」


フッと顔をそらしたまま、そう言ってまたそそくさと店を後にした。


突然の親父からの言葉に、正直、少し嬉しさもあった。


家までの帰り道、夜空を見上げながら先程のやりとりをぼんやりと繰り返していた。



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この小さい扉が僕の人生の扉だとは思いもしなかった


「この前の話なんだけど、いいよ。
店手伝っても」




後日、4回目の訪店の際、僕はラーメンを食べながら親父にそう伝えた。  



「おお!そうか!やってくれるか!」



パッと嬉しそうな顔になる親父。


あの夜から数日、よく考えたが結論が出なかったので、その時の気持ちに従った。


その頃の僕は、大学に在籍こそしてはいたが、ほとんど通わずに、女の子と単車とゲームと音楽とバイトに夢中で将来への展望も特になかった。


ずっと続けていたアルバイトにも未練はなかったので


「今月いっぱいで辞めます」


と伝えてそのまま勤め上げて辞めた。


5年以上も顔も合わせなかった親父の元で働くことを決めたのは、僕も弟と同様に、どこかで「父親」を求めていたんだと思う。


そして、その頃に直面した祖父の死をきっかけに血や家族の絆について深く考えさせられたことも大きかった。


蟠りは残ったままではあったが、「父」を知りたいと思った。


こんな美味いラーメンを作るようになった
有名店の店主なのだから、昔のようにいい加減でめちゃくちゃなままではないだろう。


父を初めて尊敬できるかもしれない。


青い期待に縋った。









しかしその想いはこの後


僕に投げつけられたグラスと共に

コナゴナに砕かれるのであった







…to be continued➡︎




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