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ラーメン屋である僕たちの物語2nd ⑧


「哀 戦士」


後編






よく見ておくのだな


実戦というのは


ドラマのように格好の良いものではない




シャア・アズナブル




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【読者の皆様へ】
※前中編に引き続き、今話も一部登場人物に対して、大西の「贔屓目フィルター」が過分に影響している可能性があります。
ご理解、ご了承の上、用法、用量を守って、以下略。






ズン


ズン


ズン


ズン





「休みの日は何してるの!?」



大音量の音楽が響く中、僕はNの隣に移動し、
その耳元に話しかけていた。



「だいたい家にいるよ!」





Nも僕の耳元で大きな声で返す。

僕たち2人はお互いの耳元に顔を近づけながらコミュニケーションを取っていた。


近くで見てもやっぱり可愛いN
(写真は観月ありささんです)


本来なら大いに喜ばしいシチュエーションなのだが、今は他の人たちを完全に置いてきぼりにしている罪悪感が邪魔をしていた。


ちらっとTっさんを見ると、メニューを眺めながら何杯目かのビールを飲んでいた。

i村さんも相変わらずウィスキーをコックリとやっている。


i村さんはHちゃん狙いだったから、この状況はつまらないだろうな。

Hちゃんはまだだろうか。



「ごめんねー!」




「今日来るはずだった子、仕事が終わらなくて来れなくなっちゃったって!」



残念な報告を携えて、バタバタとHちゃんが戻ってきた。

外で電話していたので、身体も冷えてしまっているようだった。


「そうかぁ、わかった!仕方ないね!」


僕たちがそう返事をすると、HちゃんはNの隣に僕が座っている状況を見て、i村さんの隣の席に座った。


「この子、場に慣れた、気の利く子だな」と思ったが、これはこれで収まる形に収まった。




もう1人の女子ーズが来ないのは残念ではあったが、この現状を考えたら仕方ないと思う。

そのとき僕は、Hちゃんが後から来る予定の女の子に「今回の(合コン)は来なくていいかも」と伝えたと読んでいた。





僕だって友達に「ここにおいで」とは言えない笑




Nと話しながら、再びちらっとTっさんを見ると、何杯目かのビールを黙々と流し込んでいた。


大丈夫かな。

だいぶピッチが早いぞ。



また無双モードに入るんじゃないか?

めちゃくちゃ心配になった。


ところでi村さんは、Hちゃんの隣で相変わらずウィスキーをコックリやっていた。



照れ臭そうに一言二言交わしているようだが…






「やっぱり…」




僕はNと話しながら、i村さんをしばらく観察して確信した。


i村さんはバンド時代、めちゃくちゃ女の子にモテたという。


マジで半端じゃないモテ方だったという。


それは本当のことだろう。


だから僕たちもi村さんを、所謂プレイボーイだと思っていた。


だが、本当のi村さんは、シャイボーイなんだと知ってしまった。



本当は恥ずかしがり屋の、僕やTっさんと同じタイプの男なんだと思った。←


i村さん!


あなたもTOO SHY SHY BOYだったんですね!




そう思うと、めちゃくちゃ親近感が湧いてしまい、更にi村さんのことが好きになった。


もうi村さんとHちゃんはこのまま見守って(放って)おこう。


すべてが風に向かって、レールの上を走り抜ける様に、i村さんの勝負を見届けよう。



そう決めた。



僕はNに集中なのである。



「N、あのさ…」




そのとき突然、Tっさんが割り込んできた。



「店長!店長!」






チーン!




「いい音色だろう?」




空のビールジョッキを指で弾きながら、いつもの笑顔を僕に向けていた。



ここから、今までのだんまりが嘘の様にTっさんがこの合コンの中心になっていくことになる。




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ズン


ズン


ズン


ズン






「わははははは!」



「あはははははは!」




「全く!この人はですね!酷いもんなんですよ!」





Tっさんが放つ話題全てに、女子ーズもi村さんも大声で笑っていた。



話の大半は僕への『いじり』だったが、それでも良かった。



Tっさんが話しているのだ!



あんなに合コンに来るのを嫌がった、人見知り、場所見知りのTっさんが、こんなに楽しそうにみんなの前で話している。


僕はそれだけで救われたし、やっとみんなで楽しい雰囲気になれて嬉しかった。


i村さんは「こいつ面白いな〜!」と大層Tっさんを気に入った様子。


NもHちゃんも本当に楽しそうにしている。
(フリだったかも笑)


良かった。


今日は良い酔っ払いで良かった。




どうやら今日は覚醒してなさそうだ。



…ブルッ


…安心したら急にトイレに行きたくなってしまった。


外も寒かったし、僕も緊張からけっこう飲んでいたのだ。


「ごめん!俺ちょっとトイレ!」




このまま、Tっさんに場を任せておけば、みんなで盛り上がれるだろう。



僕はトイレに行きつつ、ケータイで次のお店を探そうと思っていた。



『次はもう少し普通に話ができるお店がいいな』




後ろから皆んなの笑い声が、大音量の音楽と共に僕に届く。


そのまま盛り上がっててくれ。


Tっさんが楽しそうにしている姿を見届けて、僕は安心していた。



しかしこの時の僕は、Tっさんの真の意図に、まだ気づいていなかった。





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ズン


ズン


ズン


ズン





「えーと…横浜駅周辺で、5人入れて、リーズナブルで、賑やかなお店は、っと」



僕は用を足してから、この後のお店を探していた。


もしかしたらi村さんが二次会のお店も用意してくれているかもしれない。


それはその時、相談できたらいい。相談の時に切れるカードを持っていたかった。



数分して、2軒ほど候補のお店を検索できた。


「この辺で良いかな」



ケータイをポケットにしまい、席に戻ろうと、トイレのドアを開けた。




「×××!!」



「×××××!!」




仄暗い熱気と大音量の音楽の中に、男の怒鳴り声のようなものが混ざっていた。



他のお客さんが喧嘩でもしてるのだろうか。


もしそうなら、もう会計を済ませて移動を提案しよう。


女子ーズのことも心配だ。


僕はみんなのテーブルに急ぎ向かい…


目の前の光景に唖然とした。




大声の主はTっさんだった。






Tっさんが






機動戦士ガンダム

ギレン・ザビの演説

「ガルマ国葬」を

完全再現していたのだ。


ギレン・ザビ




声を張り上げ、時折り腕を振り上げ、いないはずの沢山の聴衆に目線を向けるTっさんは、完全にギレン・ザビになりきっていた。



僕は学生時代にもTっさんの「ガルマ国葬」を聞いたことがある。


その頃の僕はガンダムに興味がなかったので、
「面白いモノマネをやってるな」程度の認識だったが、今は、その【完成度の高さ】がわかる。 



圧巻だった。


暗い店内と大音量の音楽も気にならないほどクッキリと浮かび上がるTっさんのガルマ国葬。


Tっさんの演説に陶酔するジオン公国軍兵士たちの姿が見える!私にも見えるぞ!





でも、今やらなくてもいいだろう!




女子ーズは圧倒されている。



i村さんは「わはははは!」と爆笑している。



ここで「ガルマ国葬」を知らない読者に、Tっさんが何をしていたのか補足しておこう。


※再生させながらお読みください。

ギレン・ザビ声優 銀河万丈ver



『我々は1人の英雄を失った。


しかしこれは、敗北を意味するのか?


否!


始まりなのだ!




地球連邦に比べ、我がジオンの国力は30分の1以下である。

にも関わらず、今日まで戦い抜いてこられたのは何故か。


諸君!

我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ!



一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して、何度連邦に踏みにじられたことか。



ジオン公国の掲げる、人類一人一人の自由のための戦いを、神が見捨てる訳はない!



私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ!


何故だ!



この悲しみも怒りも、忘れてはならない!



それをガルマは死をもって我々に示してくれたのだ。





我々は今、この怒りを結集し、連邦軍に叩きつけて初めて真の勝利を得ることができる。

この勝利こそ、戦死者全てへの最大の慰めとなる。





国民よ立て!


悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!


ジオンは諸君らの力を欲しているのだ。





ジーク、ジオン!!!』




「ジーク、ジオン!」


「ジーク、ジオン!!」




腕を振り上げ叫ぶTっさん。


圧倒される女子ーズ。


爆笑するi村さん。



「なにが…起こってるんだ…」



僕は、何故こんな状況になってしまったのかわからないまま、ただそこに佇んでいるしかなかった。





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ベテルギウス


プロキオン


シリウス




見上げると冬の大三角形が美しく輝いていた。


僕たち男3人はロマンチックな星空の下、トボトボと誰も口を開くことなく、横浜駅に向かっていた。


前方10メートルほど先に女子ーズ2人が歩いている。



行きも帰りも同じ道を歩いていたが、状況は全く違うものになっていた。




Tっさんの大演説の後、女子ーズから「あたしたち、そろそろ帰ろうかな」という提案があり、二次会もなく、僕たちは粛々と会計を済ませて退店した。







ガiア(i村さん)


オルTガ(Tっさん)


マッしュ(僕)



我ら黒い三連星は、恋のジェットストリームアタックを繰り出すまでもなく、自滅した。



僕たちはこの宇宙(そら)の星屑になったのだ。



後日、何故あの時、あんな状況になったのかをTっさんに尋ねた。



「あの時は一刻も早く帰りたくて、店に着いてからずっと飲みながら考えていたんですよ。」



「演説した理由ですか?それはよく覚えてないですね。」





どうやら、Tっさんは会の間ずっと、虎視眈々と帰るタイミングを計っていたらしい。


そしてビールが進み、酒乱のスイッチが入ったのだった。


その後、誰にも気づかれることなく無双モードに突入、饒舌になり、記憶を無くしたままガルマを国葬した。




後に、この一件は

「ガルマ国葬事件」


と呼ばれることになる






冷たい風に吹かれ、拾う骨も燃え尽きた僕たちは、とうとう横浜駅に着いた。


沢山の人が行き交う改札の前で、お開きの挨拶を交わす。



「今日はありがとう!なんか、ごめん」


「ううん、ありがとう!またね!」


僕は申し訳なくてつい謝ってしまった。


Nと目が合う。


最後のチャンスだと思った。



「N、ちょっと」


Nを呼び、みんなと少し距離を取った。


「この後もう一件飲みに行かない?この近くなんだけど」


すると、Nは僕にいつもの笑顔を向けてこう言った。


「ううん、やめとくね。ごめんね。」


NはHちゃんの側に戻り、


「じゃあね!」


とはじける笑顔で僕たち星屑に手を振って去っていった。



「じゃあ、おれも帰るわ!また!」


i村さんも帰り、僕とTっさんが取り残された。




行き交う雑踏の中で、肩を落として佇む僕はTっさんに問いかけた。




「…Tっさん、今日はなにがいけなかったんだろう…」



するとTっさんは僕の肩をポンと叩くと、ニヤリと笑った。






それは店長が…






「坊やだからさ」






この後2人でカラオケに行きました。







※実話です。






to be continued➡︎






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