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ラーメン屋である僕たちの物語1st ③


「Roller coastar」





ジェットコースターみたいだった。


一度乗り込んだらゴールまで、起伏激しく走り続けるジェットコースター。


後日、仕事終わりに迎えに来てくれた先輩の車の中で、僕の想いは様々に駆け巡っていた。


目指すゴールの向こうには、あの親父がいる。


5年も会っていないのに。


何を


どうすれば


いいんだろう


僕はひたすら不安だった。

心臓の鼓動が早くなる。

アドレナリンが出てる。

臨戦体制だ。

緊張から口数が増える。
(僕はそういうタイプなんですw)

先輩たちに冗談を言ってる最中

店に入る時、なんて言おう?

そればかり考えていた。




「よっ、久しぶり」




いやいやいや、フレンドリーか!あほか!





「親父、元気?」





無理無理無理!


頭の中でずっとソロリハーサルが行われていたが、最初の一言が何も思い浮かばないまま「藤沢駅南口入口」の信号が見えてきた。


ここを曲がれば、すぐ親父の店だ。











…着いてしまった。

藤沢時代のめじろは
スナックの居抜き物件だった



先輩が店の前に車を停めた。
(当時は路駐も緩かったのです)



「ここか!腹減ったな!大西!先行けよ!」



事情を知らない先輩が僕を促す。



「…はい」



僕は暖簾をくぐった。




…覚悟を決めろ。



「ガチャ」



小さくて軽い黒塗りの扉のノブを捻り、開ける。


重くて遠い一歩を踏み出す。


オレンジっぽい屋台のような電球色の店内で
親父がお客さんたちと談笑しているのが見えた


「…よう」


緊張した僕は精一杯の一言を捻り出した。


「…!」


一瞬、親父は言葉を失っていたように見えた。



すると、




「…ぼくの息子です!」




と大声で常連と見えるお客さんたちに紹介した。
(この親父の反応は予想外だった。すごく悔しいけど、少し嬉しかった)


「おお〜!長男?初めまして〜」


…長男?ああ、そっか祐貴のこと知ってるお客さんたちか。ていうか祐貴はいないのか。


「はあ、どーも」と僕。


(この頃の僕は本当に無愛想(人見知りともいう)で、その後当時の常連さんに「もっと愛想よくした方がいいぞ」ってよく叱っていただいた。本当に感謝してます)


「大西!腹減ったから早くラーメン頼もうぜ!」


後ろから先輩が言う。

これは僕には助け舟で、すぐに券売機に向かうことで、親父ともお客さんとも話す機会を奪ってくれた。

お客さんがオススメとか言っていたけど、僕はあえて聞こえないフリをしていた。


券売機の前で驚いた。

メニューが多すぎるのだ。

この時は確かめじろ名物の「一文字メニュー」ではなく、「東京ラーメン」とかそんなメニューだったと思う。よく覚えてないけれど。

僕が働き始めた頃のめじろのメニュー
常連さんの名前をメニューに当ててたりした


その中で僕が頼んだのは「油ねぎら〜めん」


親父はラーメン業界では「ねぎの魔術師」という異名を持っていた。


そんなめじろの名物のねぎ油がたっぷり入ったスープに、焦がしねぎ、白髪ねぎなどがたっぷり乗ったら〜めんだ。

(後日知ったことだが、実は「ねぎの魔術師」と言うのは親父が自称したのが先で、それをメディアが広めたらしい。親父はセルフブランディングしていたのだ)

親父に券を渡し、奥の三席あるカウンターに座る。

その席は親父に背を向けて座る席だったから
また助かった。

程なくして、ラーメンが出来た。

「いただきます!」

先輩が大きな声で言う。

僕は手を合わせた。


…食欲を唆る、ねぎ油の香ばしい良い香りが立ち上る。


ズズッ



…ん、なにこれ、なんかパンチのないスープ
薄くない?


先輩たちも僕も無言のままラーメンを啜った。


…あれ?だんだん味が変わってくる?? 


食べ終わるまではあっという間だった。


先輩たちもほぼ同時に食べ終わっていた。




「ごちそうさま」



僕たちはそう言うと、そそくさと店を出た。



先輩たちは食後に一服しながら


「うーん、美味いんだけどパンチがないよなあ」


とかなんとか色々言っていた。



正直、僕は、親父のラーメンはよくわからなかった。


「ま、うちのいい加減な親父が作るラーメンですから、そんなもんですよ」

と言って笑った。

アトラクションから降りた後のような、緊張から解放された安堵と清々しさがあった。


ミッション完了!


その日はなぜかクタクタで、飲みにも行かず解散した。




➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖





数日後




「大西。今日終わったら親父さんの店行かないか?」

仕事中に先輩に声をかけられた。

「どうしたんすか?パンチないって言ってませんでした?」

「いや、それがさあ、なんか無性に食べたくなるんだよな、あのラーメン。な?行こうぜ!」



…僕も同じだった。

親父のラーメンを食べた日から、日に日に「もう一度あのラーメンを食べたい」気持ちが膨らんでいた。

(これはめじろの常連さんたちも同じこと言ってましたね)


「…わかりました。お付き合いしますよ」


2回目の訪店が決まった。




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「よう」

「おう」


2回目のやりとりは確かそんな感じだった。

(これも後日、親父から聞かされたのだが、
初回の「ぼくの息子です!」発言は、その日のカウンター席に親父の彼女が座っていて、その関係を知っているお客さんに「息子が来たから余計なこと言うなよ!」というメッセージだったらしい。あの一言は嬉しかったから知りたくなかったけど、親父はそういう男なのだ)

今回は塩ら–めん。


いい香りだけど、やっぱり一口目のインパクトは弱めだ。


でも後から後から旨味が追いかけてくる不思議な感じ。

なんなんだこれ。

あっという間に食べ終わる。

またそそくさと店を出る。

先輩はすっかりハマってしまったようで

「いやー、大西の親父さんのラーメン、美味いわ!おれわかってきた!」

店の外で感動していた。


認めたくなかったけど、僕も少しずつわかってきていた。



あのラーメンの美味しさを。


そして、少し知りたくなっていた。



自分の父である男のことを。




僕は先輩がラーメンについてなにやら語っているのを聞き流しながら一人考えていた。


吹き抜ける夜風が紫煙を攫っていった。






…to be continued➡︎






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