【連載】舞台「楽園の女王」(2024年再演)の感想 Ⅱ 統合版
※本作「楽園の女王」(2024年再演)は初日夜と千穐楽を観劇。
事前に「楽園の女王」(2019年初演)「赤の女王」(2022年再演)鑑賞。
あくまで個人の感想です。なお、期間が空いたため別日公演も併せて
Brue-Rayにて鑑賞した。
舞台の進行に沿い、感想を詳述していく。
1日目
夕べの豪華客船 低地帯の怒りを宥める楽団だ。
かつての主 スペインと、ポルトガルとが先陣を切った世界には未知の広さがあった。そこを彼らは慎重にルート開拓した。ユダヤ職人のアムステルダム定住を呼び込んだ、いつ始まったのか世代が代わっても独立戦争は継続中らしい。
港は今日も太い声でごった返る。
いま、失敗を重ねて準備された道を辿ろうと船団はめいめいが可能な限り武装をして化粧に忙しい婦人を番号順に最後まで一望する。船こそは東インド会社の所有する財産なのだ。
北部一帯は王国を名乗りフランドルは結局独立を先送りにした
凪を震わす櫂は「敬虔な」自由の愛する腕っぷしの強さ
遥か 現在のインドネシアに分散する島々に、王国や住民と交渉する。
点と線を連絡する時代は終わる。会社は面の支配を望むのだ。
”古いオランダ”「バタヴィア」の名を刻まれる新鋭船が出航の鐘を待っている。
野心を深く潜ませて
乗船
―暖色の階段を足早に駆け上る客は希望でいっぱいだ。
前後して聞き覚えのない、
軽快な音楽が流れ、歩いてくる
豪華な衣装に身を包んだ人にハッとする。
DVDで観る(初演・2019)より照明が強い気がするが
目の覚める「赤」だ。
すこし距離を置いている人が従者だとわかった。
衣装が旅に出るんだと、言っているから。(つばの広い帽子、
二人とも自然な距離を逃れてきたのだから、対岸のイギリスから。
見せ場は「間」だった。
ふと、時代よりシリーズとの関係が疑われる。
二人は行方不明の身でどう支えあったのだろうか。
それこそ産業革命はまだき、バリエーションに富んだ悪路を歩いてきたのだし、
たった今、歴史が入ったが初演と比べて
「悪魔崇拝」というどぎついギャグも、アン王女の中で過去の一ページのような雰囲気が良かった。つまり観ていて自然なのだ。
殺伐とした雰囲気は徐々にあがっていくのが今回の大きな流れではないだろうか。
そんな王女に影となって従うのは、
旅はまんざら嫌いじゃない従者グレンダ。
ベルギーに行けるなら船はより大きなものを予約するべきだったろうか。
どっちの発案か気になる。
会話に配慮すら感じられる二人に、古ぼけた時代の余裕がある。
「しかし、触れてしまっては!」
旅を計画したのを後悔したのか、これで支え合えるのか。
時代考証は当てにならない個人的なモットーが口を突いた。王族がどうのというより、グレンダがあまりに恩義を感じていて手が出ない。本当は紛れもない内向型でまともに主人を見て居ないのだろう。
修羅場は共にしていないか、身分の低い家来だった。
騎士団のエスター、マリアは掛け合いで時間尺をばっちりと回す魅力だ。
巡礼者は想像だにしまい、大剣を帯びた敬虔な黒衣の人を畏れる。
幽霊船のゴシップは彼女たちを明確な期待へ誘うから楽しい。
エマ、イザベラは家事仕事からの解放をその場で合い言葉に出来るポジティブモンスターだから、船内の宴はカリビアンプリンセスも髪をはらって見入ったことだろう。芽吹いた友情に、血糊をつけるのはしがらみだけの関係に過ぎない。
だからリリィの捉えどころのない大きな瞳は誰よりも霧を払うために調っている。想定外が起きたとき対処に孤独になれる黒い服を着て。
船の一部になる海賊、海の藻屑になる男たち、自由を手に入れられるのは男ではないときがある。生まれているから時間を孤独に出来る――
♪M1最後まで
「悪魔信奉者」の言葉が出て来ると、当時の私はいざ知らず今は笑ってみせるだろう。「黒死病」のフレーズが最初の乗船で検査の名の下に実行された。
紅の照明はなぜなら、対岸の思い出を悪夢の中でうなされたから。20年の初春から時がまだ経っていない。で、ホールは「そんな顔してる?」誰もみないい旅をしたい。
主題はそこになかった。「人間の沙汰とは思えませんね」
キャラクターの個性はリリィの――貴族、修道者、婦人の状況説明の過程でゆっくりと当時の身分制を解体し、本来の主題を戸惑わせる。
悲しいのではなく、霧だ。
「いつかあなたの一部に」という美化された偶像は辛いものが双方に横たわっている。
だから台詞は切ない。
分離した、M1にある「誰かの命を生かすというなら」は主人公たちの主題を脅かすが実は、強く暗示を吹き込むのだ。
ビーコン島
時折、波の音を聞いて上を向く姿は可愛い。
妄想では掴めないものがいっぱいある気づきに、胸がざわつく。
空いっぱいの星と罪とを背負ったことがあるかと、自分に問うてみた。
映像で見る景色と無人島から見る景色がかけ離れるように、ちっぽけな自分に生き物の姿が重なる試練だ。彼女の実験は無防備だからこそ生き物は死を乗り越えた先にいるのではないか。
島にはそういう人智の及ばない生き物たちがきっと「当時の」西洋医学の生物講習などでは習わないでいいものだ。
寝静まる夜に埋葬を続ける、歌を歌うのは滅んだ種族の代わり。
スラウェシの洞窟壁画を見よう、白人の遠足は船を組み立てるところから。人間が人間を狩るだけではない。だからきっと帰り際はみんながいてお祭りが近くて楽しい。
実は尺がきっちりあって、メアリーとカーミラは会話する。
カーミラの影に隠れるようにエメラルド色して踊るメアリーは乗り気じゃないカーミラを夢中にさせるほどうっとりする笑顔を湛えていた。2人でぐるぐる回って手を取り合って目指した終わりの見えない道で誰かに秘密を打ち明けた夜を、世界を護るために。
だから影のフリしてかくれんぼをするし、動物の森で2人だけの狩りに励んだりできる。岩場を縫う
見たい景色だけではなく、動けるこの身が自由な間に、しなやかで丈夫な腕を受け継いでいるから。
ビーコン島の続き
「メアリー!!」
ベルがゾーイと一緒に呼びに来る。
すると散り散りに去って行く、好きだった生き物たち。
「ゾーイのせいで行っちゃった」
呆気にとられるゾーイ
一瞬舞台を切り取るが、ベルのメアリーへの好奇心から来る質問は
答え合わせが一方的だからメアリーはもやもやする。沖侑果は明るい演技で作意に応えている。
「わたしがみんなのこと好きだから、彼らも分かってくれるのよ」
言葉の真実はやがて、ゾーイの「(メアリーのことを)変わり者っていってやれ」の台詞はみんなに無邪気な笑顔を残して消化する。
メアリーが見つけたカーミラとみんなの現実はリンクしているが(※これが本作のテーマである)
実験の過程を思ってどれだけメアリーが悩んだのか。沖侑果は賢いからそれとは頭の中で分けている。でも言葉にするときは「わたし⇒みんな」へ好きが飛んでいってカーミラの自尊心を満たしてる。
辛いときは1人でいる窓から彼女の見上げた空に祈るときだって、事務作業で手堅く以上に命と対峙するからこそ、想像を越えた刺激を仕事に求めるのはわかるから、技術で突破するためにバランスを求めて、想像力が前より少し元気になるだけだ。カーミラはそこでぬっと現れる。
ルイーズ社長のあくまで明るい性格は、台詞一つとっても明らかだ。
「キュアーズ株式会社は世界の希望なの」
その〆の台詞にも暗示はなく、社員5名の一体感を感じて楽しい。
ザザー みんなだけの世界、1丁目1番地に荒波が押し寄せる。
「もう少し待っててね」
ここまでは、広く意識の埒外を求める未完成の自由に
強い憧れだ。
だが、「命は・・・」からのくだりは彼女の「メアリーは不思議ちゃんで」苦しかったという舞台終わりの配信で言っていた内容を思い出すから、つまり奇妙な説明文が挿入される。
声が通っていて、アイドル時代の歌唱の記憶も醒めるほど嵐の予感がくっきりと伝わったのは素敵だ。
「もう少し待っててね」(2回目)
と、やることが残っているからという、期待をにじませた地平線をみやるのは
彼女が空を見上げる時のようで2回目は可愛い。
バタヴィア号の受難
「どう思う」
台本には「甲板で」とあるがリリィは暗がりに腰掛けて手紙を広げた。「・・・舞踏会へ招待します」
リリィを演じる大滝紗緒里は、「赤の女王(再演)」の眼鏡をかけた智者から、今はより自信のある声で1人結論へ一直線だ。
「そんなはずない!」と笑みを浮かべて下を向いているのは、親友を喪った辛さがこみ上げているから、だから過去を見たい。
(マリエルと踊ったの”も”)40年も昔・・・と言うのは、この時代からだといつだ、1500年代末。
楽園という南の島らしいから、そこで一部だけ知る舞踏会があるという。
「舞踏会なんて雰囲気じゃないけど・・・」と打ち消している。過去をも参照できてかつ己の血への誘惑に抗するかのような、獲物にときめく目の動きは堂々としていた。
先ほどの船客の説明では拭いきれないあなた何者感は、後退してくる。
「この匂い・・・!!」
「(甲板員)嵐が来ます!」雨期の到来だ。
目の醒めるような赤がアン王女の清純な幻想をあらわしているのか。
殺陣で階段を使っていた。
「悪魔もついに私を見離したか・・・」
船が、船が、
船が難破して直ぐリリィがアン王女をみすみす逃すのに、この装置は海賊同士の近接戦闘のようだった。
混乱する船内の様子も、青色LEDだ。
あの長いレースは深い海の底から手を伸ばすリリィのもがく姿を表現している。「最ッ低ッ!」と。
島への漂着
カーミラが嬉しそうに、いや足が勝手にふらりと死者らしき影に寄って確かめる。
「王族らしい」
無人島=怪しい
「もう駄目かと!」
自分達が怪しい存在だと自覚している。
「まるで楽園のような場所ですから」
王族だろうと、誰だろうと治療は本当にあなたを救えるのだろうか。
メアリーは即回答できる。
女王になるテーマは急速にクローズアップされ
主人公メアリーの波打ち際でのキスを記憶させるに充分だ。
「楽園の終わり」
「崩れゆく」
「花は咲き乱れる」
報われない世界で生きられて、幸せです
という沖侑果が終演後の配信で一般へ向けて呟いた言葉は素直にその世界で生きられる喜びを汲んでいてなお足りなかったのだ。
Ⅱ 了
M2の歌からⅢに書くこととする。