【感想】NHKスペシャル パンデミック 激動の世界（４）問い直される"あなたの仕事”
コロナ禍は一時的なものではなかった。異常な状態が始まり、それが日常になりつつあり、もう半年以上経ってしまった。100年に1度の大災害だ、時代がこれからどこに向かっていくかは、しっかりとウォッチしていなければならない。これまで、NHKスペシャルの「 #パンデミック激動の世界 」を見続けてきたので新作もチェックした。
8月からジョブ型の人事制度を取り入れたKDDI。夏のボーナスの引き下げで、医師や看護師のストライキが起きた千葉県船橋二和病院の特集だ。テレワーク・リモートワークにより、働き方の大きな変革がもたらされている企業と、日々疲弊していくエッセンシャルワーカーたち。全く違う職種であり、直面している課題も違うけれど、新型コロナによって岐路に立たされる仕事を行う人たちの姿に日本の未来を考える。
新型コロナとジョブ型人事制度
KDDIでは今年の8月から、ジョブ型の人事制度がスタートした。終身雇用、年功序列による評価制度から、事前に定められたジョブを達成したかどうかがすべての評価となる。すでに欧米ではスタンダードな働き方だ。社員は、より良いジョブを、そして評価を得られる職場を探して、次から次へと転職を繰り返していく。KDDIも優秀な人材を獲得し、より生産性を向上させなければ会社が持たない。
新型コロナに背中を押されて、従来の日本企業の枷を捨てる選択に踏み切ったのだ。評価する立場の管理職たちも、まだ戸惑いを隠せない。KDDIは今後、管理職にもジョブ型人事制度を導入する。これにより、管理職を10％削減することになるようだ。管理職たちも目の色が変わる。ジョブ型で、部下の生産性を上げなければ、自分の首が飛ぶ。
新型コロナをきっかけに「GDPではない価値を～～」という議論や、「グリーンニューディールが～～」という議論は、こういう現場では机上の空論に過ぎない。現場は、いかに生産性を上げ、効率を上げ、企業として生き残れるかに全力を傾けるようになっている。もっといえば、管理職を含め自分が生き残れるかということだ。KDDIのジョブ型人事制度は、その象徴だ。
エッセンシャルワーカーの苦悩
その一方で、新型コロナにより、テレワークやリモートワークができないエッセンシャルワーカーの待遇の低さに焦点があてられるようになってきた。夏のボーナスカットで、医師・看護師のストライキが起きた船橋二和病院の看護師たちは、疲弊しながらも日々の職務を果たしている。激務にも関わらず、低賃金は変わらない。割に合わない仕事だが、目の前の患者さんのためには仕事を放棄できない。
例年以上に厳しく労働時間の多かった今年、夏のボーナスが低水準だったことに、納得できない看護師は多かった。しかし、そこには生産性をひたすら向上させることを目指してきた社会のしわ寄せがあった。国の方策で診療報酬の引き下げが続き、もともとギリギリで回し続けないと利益を獲得できないようなシステムだったところに、新型コロナだ。
例えば、この病院の場合、黒字経営になるためには、ベッドの稼働率9割を達成しなければならいが、新型コロナ以降、感染を防ぐためにベッドを空けなければならず、それだけで毎月4750万円もの赤字が出ている。また新型コロナ以降、外来患者数は激減し、病院経営は非常に厳しい状況だ。新型コロナの患者を受け入れてきた病院ほど、ひどい経営難にあえいでいる状況は知っておかねばならない。
現在、日本の病院の3分の2が赤字経営だと言われている。これは、単なる一つの病院の問題ではない。生産性・効率を追求し、無駄を省いてきた政策の結果のひとつなのだ。
感想まとめ
KDDIのジョブ型人事制度と、エッセンシャルワーカーの疲弊した姿を並行して見せつつ、生産性を追求するシステムが本当に正しいのかどうかを問う姿勢を感じた。一企業・一病院の岐路ではなく、日本（世界）全体が決断の時にいることが分かる。これは木を見るような視点ではなく、森を見る視点で考えていかなければならないことだ。
その意味では、過去に放送された NHKのBS1スペシャル コロナ危機未来の選択 シリーズで様々な分野の知の巨人たちのロングインタビューが参考になった。時代の波がどの方向に向かっているのかが分からない限り、本当に適切な舵取りはできないだろうと。
いいなと思ったら応援しよう！
