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【感想】NHK-BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「エマニュエル・トッド~グローバリゼーションを超えて」

世界の知性と語るコロナ後の世界、第四回のゲストは歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏。トッド氏は人口統計分析を用い、世界の変化を読み解いてきた実績を持っている。

ソ連が崩壊する直前には、乳児の死亡率が上がっていることから、もっとも弱い立場の国民を保護できないほど国力が落ちていることを見抜き、ソ連崩壊を予言した。また、近年では、米国において白人労働者の死亡率が上がっていることから、トランプ大統領の誕生を予告したという。ファクト(数字)をもとに世界を分析し、これから起こることをあぶりだしていくというのは極めて興味深いアプローチではないか。

心なしか、インタビュアーの鎌倉千秋氏も、前のめりになりトッド氏に、聞いてみたいことがたくさんあるという雰囲気だった。それだけに、トッド氏の「歯切れの悪い」インタビュー(後述する)が際立った。深く深く考えて一周するとこうなってくるのかという、ある意味の「悟り」を感じた。

トッド氏の専門の「グローバリゼーション」は、私にとっては理解が簡単ではなかったので、誤解しているかもしれないが、理解したことだけ書き残しておく。

グローバリゼーションのひずみ

トッド氏はファクト(数字)をもとに、世界を分析できる稀有な学者だ。鎌倉氏は、コロナによって大いにマイナス成長している各国のGDP(米国-8%、日本-6%、EU-10.2%・・・)をあげ、これをどう見るか尋ねた。それに対しての、トッド氏の答えは「GDPは時代遅れの指標で意味がない」というものだった。

GDPを成長させるという、目に見える豊かさ(経済成長)は幸せの指標にはなっていない。例えば、医療サービスや教育サービスは、対外的な利益を生まないかもしれないが、欠かすことができないものではないか。コロナ危機により、そのことが明らかになったのではないか。トッド氏の住んでいるフランスでは、コロナ禍によりマスク不足が深刻となり、医療崩壊しかけた。価格を安く抑えるために、フランス国内のマスク生産をやめ、中国やブラジルからの輸入にたよってきたからだ。

今後、世界的に、脱グローバリゼーション(国内回帰・保護主義)が進むだろう。これは、いたずらなナショナリズムについて述べているわけではない。確実に内需を優先し、国内に力を蓄えることが、将来的には他国との健全な協調関係への道となるのだという。トッド氏は、これを「保護主義のパラドックス」と呼んでいる。

米中対立の行方

トッド氏は米中対立を深刻視していない。両国が戦争になることはない。むしろ、この対立は、新しい世界への扉となる。脱グローバリゼーションだ。アメリカはすでに中国に輸入を頼る構造に疲れを感じており、トランプ氏の中国企業締め付け・排除に見られるように脱グローバリゼーションに進んでいる。この流れは、民主党だろうが、共和党だろうが変わらないはず。

中国は、これまでアメリカのグローバリゼーションの波に乗せられて利益を得て急成長してきただけなのだ。トッド氏に言わせれば、中国も「グローバリゼーションの囚人」だという。中国国内でも、繰り返し、輸出頼みの経済体制を変えるべきだという意見が出続けてきた。中国はこの機会に内需に目を向けることで、健全な国家としての経済を確立できるようになっていく。

コロナ後の世界

コロナ後の世界はどうなっていくか。トッド氏は「わからない」という。少なくとも、コロナで人類が賢くなることはないだろう。これまでも無数の人が死んできたが、死は人を賢くしてこなかった。これからも同じだろう。トッド氏は、これから将来への予測や、米中対立が日本に及ぼす影響、トランプの再選などに関しての質問には「私にはわかりません。」と繰り返した。

鎌倉氏は、視聴者が聴きたいことをズバリと聞いてくれるのだが、トッド氏は肝心なところに関しては何も語ろうとしなかった。あえてなのか。過去3回のインタビューよりも、取材映像が多く、トッド氏が語っている分量も少ないことが予想された。インタビューは、いまいちシマラナイ感じで終わったのだ。

インタビューの最後の方では、彼が、過去に、ある歴史学者と飲んだ時の話をしていた。「トッド氏がそんなにも苦しんでいるのは、歴史を理解し、世界に働きかけようとしているからだ。安心してほしい。歴史を理解しようとしなくても、働きかけなくても、歴史は続いていく。」

歴史の教訓に学び、考えて、考えて、考え抜いた結果として、やる気をなくして、「別に」(エリカ様風)みたくなっちゃっているのか?「何を言っても無駄だ」と悟りきっているのだろうか。これまで、歴史の転換点ごとに、有意義な指摘をしてきたトッド氏だけれど、将来予測屋のように見られたくないという抵抗なのか。一番聞きたい質問には、終始、そっけない対応なのであった。
熱弁をふるっていたのは、フランスのマクロン大統領が役に立たない!という政府批判をしている時だけだった。

このシリーズ、確かに大物を招いての見ごたえあるインタビューだったが、シメは正直??だった。一番、面白かったのはナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」かな~?

#NHK #BS1スペシャル #コロナ危機 #未来の選択 #エマニュエルトッド #グローバリゼーション

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq