【NHK】終戦スペシャルドラマ 百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~
少し前に放映されたものだが、NHKオンデマンドで、第二次世界大戦周辺の情報を色々探っている中で出会った。これまで見てきた戦時中の映画やドラマとは違い、国外からの日本や戦況を見つめる独特な視点のあるドラマだ。
戦時中の諜報活動の一端を知る
陸軍武官の小野寺 信は戦時中に、中立国だったスウェーデンのストックホルムに派遣される。そこを拠点として、ドイツ・ソ連の動向を探るためだった。妻の百合子(のちに、ムーミンなどの翻訳で著名になる)は、日本への暗号電文を作成し夫と共に諜報活動に携わる。
このドラマを見て、当時のスウェーデンには、各国の諜報員が闊歩していたことを知った。
小野寺の戦況分析は正確で、ドイツがソ連に侵攻することを突き止めたり、ヤルタ会談の情報を入手したりしていた。正確な情報に基づき、米英との停戦を勧める小野寺の情報は、大本営にとっては「弱気」なものに映ったという。(結局は、読み通りだったわけだが)。諜報の力を使って、何とか戦争を食い止めよう、停戦を推し進めようとした夫婦の物語だ。
見たいものしか見ない
第二次戦中、ドイツが不利であるという情報を繰り返し送る小野寺の報告は陸軍の参謀たちにとっては「弱気」なものに見えた。軍部にとっては、同盟国のドイツがイギリスを倒し、ヨーロッパを制覇してほしいという「願い」が、現実を退けたのだ。
吉田茂や白洲次郎のドラマを見て気づいた点だが、当時、海外から日本を見ていた人の多くが、米英との戦争に否定的だった。外から見れば日本の戦力と連合国軍の戦力差は歴然としていた。なんといっても人口が違う。
情報がどれほど集まっても、それを活用する人たちが、狭い見方しかできないのであれば、まったく意味がないことを痛感する。小野寺のように海外から、独ソの動きを相当に正確に報告していた武官がいたわけだから、せめて、原爆前に停戦を決められなかっただろうかと悔やまれる。まあ、敗戦の歴史を振り返ると、悔やまれることだらけだ。
先日、聴講した出口氏の「最後の講義」で学んだように、タテ(歴史)ヨコ(世界)数字(ファクト)で情報を読み解かないと、何度もこの失敗を繰り返してしまうと感じた。(参考:成り行きの人生哲学【NHK】最後の講義「大学学長 出口治明」)
正しくても評価されるとは限らない
ヒーローもののハリウッド映画とは異なり、現実は厳しいものだ。正しいことを行った人が必ず評価されるわけではない。
小野寺の場合は、帰国後、巣鴨プリズンに収容され諜報活動について洗いざらい話すことを強要されたが、戦犯にはならなかった。それだけでも良かったというべきだろうか。国を滅びさせないために、必死で諜報を行い、正確な情報を本国に送り届けた小野寺の功績が評価されるようになるのは、ずいぶん後のことだ。
正しいことをしているのに、なぜ理解されないんだ!と感じることは多い。特に、組織の中で働いていると、大なり小なり、そういう経験をするものではないか。それでも、そんな経験をする自分は特別ではない。戦時中の日本軍に関わる証言を聞くと実感する。
時代の大きな荒波の中では、正しいことも押し流されるような時もある。柔軟なビリーフを獲得するための良い教材だと感じている。
小野寺武官の働きをまとめたノンフィクションを発見。また、違った角度から、第二次世界大戦を見ることができるかもしれない。