自分にできることの探し方「救急医の気骨 型破りの挑戦」(NHK・逆転人生)
私は過去に医療関係者と一緒に仕事をする機会が多かった。中には、救急医の先生たちもいて、彼らがどれほどの過酷なストレス(心身共に)と闘っているかを垣間見た。給料のためにやっているわけではない。命を救う使命感がなければできない仕事だ。
そういうわけで、医療従事者の頑張りに焦点を当てるドキュメンタリーは、もともと、かなり好みではあるのだが、NHK逆転人生の中で登場した「個人開業した救急医」のストーリーにも心動かされるものがあった。
救急クリニックを開業するという選択
主人公は川越救急クリニックの院長、上原淳氏だ。上原氏は、若いころに病院の当直バイトをしていた際に、緊急搬送された患者の受け入れがままならず、4時間、受け入れ病院を探し続ける問題に直面する。その時に感じた、自分に何もできないという気持ちや、どこも受け入れてもらえないという見捨てられたような気持ちがきっかけとなり「できるだけ断らない」救急を目指し、転職し、救急救命医としてのキャリアを積み始める。
救急医療について少しでも知っている方であれば、なかなか受け入れ先がない現状はよく分かっているはず。高齢者が増える日本では、年々、救急搬送が増えているが、救急医は減少している。専門医がいなかったり、スタッフが不足していたり、ベッドが満床だったり、本当に受け入れられない状況は少なくない。上原氏のすごいところは、この状況に甘んじず、その中で「自分にできること」を探し、救急救命医になろうとしたことだ。
番組では、この時の上原氏、すでに30代で「あえて」救急救命に行かなくても安楽な医師生活を送れたはずなのだ。その後、上原氏はぐずぐずせず転職し、救急救命医となる。あらゆる病気を診ることができるように、膨大な勉強をし、二次救急の現場でたたき上げ、やがて三次救急(高度救命センター)で働き、医局長にまでなる。
しかし、これほどの大病院でも、できるだけ断らないという彼の方針に、他科が協同して動けなくなってくる。受け入れてくれる病院に人が集まるのは当然なのだけれど、負担もその分大きくなる。病院経営の現実や、他科との連携を考えると「しょうがない」とあきらめても仕方ない場面だった。しかし、ここでも上原氏は奮起する。
できるだけ断らない救急の可能性を目指し、なんと40代の後半で、個人で行う救急専門のクリニックを開業することになる。彼は、ここでも自分にできることを探したのだ。
一次救急の病院が、運ばれてくる患者の重症度を見極めて、二次救急、三次救急に回す、もしくはそこで処置することで、本当に重傷者に三次救急を割り振ることができる。自らが最初の関門になり、地域全体の救急医療負担のために動き出したのだ。もし、地域にこうした病院やクリニックがひとつでもあれば、地域全体の救急医療が救われるだろう。
おそらく、莫大な負債を抱えて起業をしたであろう・・現在の、川越救急クリニックは、ほぼ年中無休。番組では、週に数回は、他の病院の手術に麻酔科医として働きに行く上原氏の姿(上原氏のもともとの専門は麻酔科医)が映し出されている。院長ブログには、この10年の歩みも簡単ではなかったことが書かれている。
開業救急医に学ぶ「自分にできること」の見つけ方
多少なりとも、医療関係者と付き合いのある私は、上原氏がどれほど、いばらの道を切り開いていったのかがよく分かる。当直医師として救急搬送を断られた時、三次救急の医局長として受け入れられる患者数に限界があるという現実と「できるだけ受け入れる」理想との間に板挟みになった時、上原氏は、いつでも「自分にできること」を探すのだ。
他の人を批判したり、システムの不備を嘆いたりするのではなく、では「自分には何ができるのか?」と考えることで、次から次へと新しい道が開いていった。医師になり始めた頃の上原氏には想像もつかない人生ではないか。
ほんと「気骨」という言葉でしか表現できないほどの働きだ。(お金の面でも、ステータスの面でも一般的には報われないだろう。)
上原氏の救急医としてのキャリアから、問題にぶつかった時には、いつでも「自分にできることは何だろう」と問う姿勢を学べる。あきらめてしまえばそこまでだ。しかし、たとえ小さなことでも、自分にできることを一つずつ行うことで、確実に影響の輪が広がる。
埼玉県の、この地区においては、上原氏の働きが功を奏し、間違いなく地方の救急医療を助けていることが分かる。一次救急にこのような優れた経験と技術を持つ医師がいることで、地域の三次救急には余裕ができ、結果として貴重な命が救われるきっかけになっているのだ。
自分以外は変えられない
誰もが問題にぶつかることや、フラストレーションを抱えることがある。今の私もそういう状況を経験している。でも、そんな時に、環境や状況を批判し憤ったところで何一つ変えられない。他者も、この世界も、私たちのコントロール下にはないのだ。しかし、同時にそれは、自分はコントロールできるということだ。
自分の「考え」と「行動」はどうにかできる。自分が変わりだすと、他者も、周囲も少しずつ変わっていくものだ。まるで亀の歩みのように思えるかもしれないけれど、それこそが、私たちができることなのだ。
自分以外のものを変えようとしないこと。選択理論でも学んだ考えだった。
大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq)