【感想】目撃にっぽん!「ママの夢はみんなの夢だから」
今回の主役は、東京五輪を目指すママさんアスリート。100mハードルの日本記録保持者、寺田明日香さんだ。明日香さんは天性の才能を持ちつつ、周りからの期待というプレッシャーに負けて、若くして陸上を引退した過去を持つ。その後、結婚して娘(果緒ちゃん)が生まれる。親になった明日香さんは、夢をあきらめきれず、もう一度挑戦を始めた。
明日香さんは、2年前から陸上に戻り、現在は東京五輪でのメダルを目標にしている。その夢を家族みんなが応援している。家族の姿、とりわけ果緒ちゃんのママへの気持ちを見ながら、ジワっと来るドキュメンタリーだ。
気持ちを伝えあうこと
明日香さんが現役に復帰した時、2年前だから、おそらく果緒ちゃんは3歳~4歳。周囲からは「なぜ、子供が一番母親を必要とするときに」というバッシングも多かったという。俊一さんは「なぜ、母じゃないとダメなのか。」と、とても悔しかったという。そして、明日香さんの夢を応援するため、自分も最高のサポートをするために主夫となった。
明日香さんは合宿でいないこともあり、果緒ちゃんのお世話や家事は、ほとんど夫でマネージャーの俊一さんが行う。果緒ちゃんは、なかなかママに甘えられない。でも、一生懸命にママに応援の手紙を書き続けている。壁には一面、果緒ちゃんが書いた手紙が貼られている。コロナ禍によりステイホームになり、明日香さんも果緒ちゃんと過ごす時間が増えた。果緒ちゃんは、ママとすごして、とてもうれしい反面、これまでにないくらいイヤイヤをすることが増えた。
果緒ちゃんは、果緒ちゃんなりに、ママを応援するために色々なものを我慢していたのだ。だから、ママと一緒にいられるようになると、今までの気持ちがどんどん出てくる。やがて、果緒ちゃんは、ママにたくさん書いた手紙に返事が来なかったのが寂しいという気持ちを言い表すようになった。
明日香さんも、コロナ禍の期間に果緒ちゃんとできる限り時を過ごし、気持ちを理解できるように心がけることになった。明日香さんも、次の合宿に行く時には、果緒ちゃんに手紙を書くことにしたのだ。親子の絆はいっそう強まっただろう。そして、やっぱり時間を一緒に共有することは欠かせないんだという、当たり前のことが痛いほどに分かる。
率直に言って、東京五輪を目指すアスリートにとって、この時期のコロナ禍は身を切るような痛さがある経験に違いない。しかし、明日香さんと果緒ちゃんにとっては、この時期は必要だったのかもしれない。コロナ禍で失ったものも多いけれど、得たものもある。それは私の実感でもある。一度止まらないと見えない景色がある。
一番になること
明日香さんは、一度、挫折して陸上を去っている。だからこそ、果緒ちゃんには勝ち負けだけで一喜一憂してほしくない。夫婦は大切なことを果緒ちゃんに教え込もうとしていた。
果緒ちゃんはお母さんが二番(銀メダル)になると悔しくて泣いてしまう。「なんで二番なの、なんで一番になれないの」。でも、俊一さんは果緒ちゃんが落ち着いたところで「果緒の行っている公文で果緒ちゃんは何番?(12番らしい)。もしお父さんが1番じゃないの、え~!って言ったらどう思う?」と考えさせる。また、一緒に見に行ったレースでは「二番の人なんかに手紙はあげないよ」という果緒ちゃんに「今日はお母さんが一番早く走れたんだよ。ほめてあげないと。」と促す。
レース終了後に、果緒ちゃんが明日香さんに「なんで一番になれないの」と話しかけると、明日香さんはしっかり目を見ながら「みんな一番になりたいと思って練習しているんだよ、でもね、、、」と話して教える。実際、実力もある明日香さんが銀メダルを一番悔しく思っているはずなんだけど、お見事なセルフコントロールだ。
親ってすごいと思った。明日香ちゃんには、勝敗以上に大切なものがあることを知ってもらわなければいけないのだ。
9月下旬に行われた日本選手権の決勝で、明日香さんは、宿敵に敗れ、やはり銀メダルだった。果緒ちゃんは泣き崩れるんだけど、お母さんが帰ってくるまでには持ち直して、お母さんに手作りの金メダルと手紙をあげるのだ。なかなか泣ける展開じゃないか(涙)もちろん、勝負の世界、勝ち負けがあるし、それを競っているのだけれど、それ以上に伝えたいことがある。明日香さんからも、俊一さんからもそれを感じた。
一番になることは、すごいことだし、そうできればうれしいけど、現実にはそこまで行けないこともある。そうだとしたら、すべては無意味なのだろうか。現実は、0か100か。白か黒かではない。スポーツに本気で打ち込む人の姿が、いかに楽しそうで、いかに美しいかを明日香さんは教えようとしているに違いない。
今、果緒ちゃんは大切なことを学んでいる。きっと芯の強い女の子になるだろう。明日香さんと、俊一さんの子育てに感動した。
感想まとめ
単に世界的なアスリートとしての明日香さんではなく、家族の視点から、特に果緒ちゃんの視点から描かれたドキュメンタリーは見ごたえがあった。家族にとっても、この放送が良い思い出となることだろう。コロナ禍で東京五輪どころではない様相となってきているが、今後の明日香さんの奮闘を期待したいし、いつかのスポーツニュースでお名前を拝見したいと思う。
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