【メンタルを強くする映画】牧羊豚を目指す子豚の「ベイブ」
奥さんの強い要望でAmazonプライムで「ベイブ」を鑑賞。もう20年以上前になるけど、奥さんはベイブを見に映画館まで行ったらしい。子豚のベイブが、牧羊犬コンテストに衆生して、牧羊豚を目指す破天荒なサクセスストーリー。不器用で、一般的には優秀とは言えない我らADHDが、この世界の中で、健やかに生きていくコツを子豚のベイブに学べる。
「ベイブ」のあらすじ
ホゲットさん( ジェームズ・クロムウェル)の農場にもらわれてきた子豚のベイブは、牧羊犬のフライに気に入られ、やがて牧羊犬のトレーニングを受けることになる。ベイブには周囲を巻き込み、動かしていく特別な力があったのだ。このベイブの能力に気づいたホゲットさんは、ベイブを牧羊犬コンテストに出場させようと考えるのだ。幾多の困難を乗り越え、ベイブは見事に、牧羊犬コンテストのトリをつとめることになる。
ADHDベイブ
意地悪な猫からベイブは「役立たず」であると信じ込まされそうになる。犬は牧羊ができるし、猫は愛玩用動物だ、鶏は卵を産めるし、時を告げる力を持っている、牛はミルクを出すし、羊には羊毛がある。しかし、豚はどうだ。なんの長所も持っていない。食べられるほかに意味がない存在なのだ。そんな風に信じ込まされたベイブは落ち込んでしまう。
さすがに「ブタ」と罵られることはなかったが、万年、「のろま」とか「グズ」と呼ばれて育ったADHDボーイの私にとって、ベイブは涙なしでは見られない映画だった。そんな私がベイブから学べた3つの教訓を(無理やり)引き出してみよう。
教訓1:お願い型のリーダーシップ
何もできない・食べられるだけの存在と罵られたベイブだが、実は彼には他の誰にも負けない長所があったのだ。それが、抜群の「コミュニケーション力」によって、周囲をリードする力だ。ベイブは誰をも悪く思わず、すべての動物と対話によって問題を解決できると信じている。そして、そのベイブの信念のゆえに周囲が変化していく。
印象的なシーンは、ベイブが初めて牧羊に挑むシーンだ。トレーナーの牧羊犬フライからは「羊になめられてはならない。脅しつけて言うことを聞かせる。どっちがボスかを示すのよ」と言われるんだけど、ベイブにとっては、その方法はうまく行かない。ベイブが牧羊犬の真似をして「ワンワン」と吠えると、羊たちは笑うばっかり。
そこでベイブは牧羊犬の真似をやめ、脅しつけたことを羊たちに謝り、お願いから始める。すると、羊たちは「性格の良い子豚ちゃんだねぇ」とベイブを評価し、進んで言うことを聞いて動いていくようになる。
牧羊犬のフライから「頼んだりしちゃダメよ」と言われるベイブ。でも「羊さんたちは言うことを聞いてくれたよ」と。結果として、ベイブは牧羊犬顔負けの成果を挙げることができたのだ。大事なのは結果だ。そして、そのための方法は、必ずしもセオリー通りではない。
特にリーダーになった人は、ベイブの姿勢から学べることがあるだろう。リーダーになった瞬間に「なめられない」ようにしようと虚勢を張っている姿は、逆に「なめられる」。それなら、お願いしたほうが良いんじゃないか。特にADHDはできないことが山ほどある。私もそうなんだけど、虚勢を張って、弱点を見せないようにしようと思えば思うほどボロが出る。だませるのは、最初の1時間くらいなものだ。
それなら弱さをさらけ出した上で協力を願い出るほうがいいんじゃないか。チームリーダーとして仕事をする時の私のスタンスはベイブのまんまだ。
教訓2:結局は人に助けてもらうこと
ベイブは何でも自分の力でやろうとはしない。だからと言って、裏から人を上手に使おうとか、そういう姑息な手段も使わない。とにかく一生懸命にお願いし続けるだけだ。その姿を見て、周囲の人(動物)がベイブのために自ら動いて協力するのだ。
印象的なシーンは、ラストシーンの牧羊コンテストだろう。初めてベイブに会う顔の黒い羊たちは、ベイブとの対話を拒否する。このままでは、牧羊コンテストが無残な失敗に終わる。そのことを悟った牧羊犬フライはベイブのために、奔走する。ベイブのために、仲間の羊たちから、羊だけに通じる「暗号」を聞いてきてベイブに教えるのだ。ベイブはひたすら困りながら、そこに身を置いているだけ。でも、周りが「放っておけない」キャラなのだ。だからこそ、自分一人ではとてもできないことができる。
社会人になって20年以上が経ち、最初は何でも自分でできる(自分でしなきゃならない)と思い込んでいたけど、実際は多くの人の協力がないと何も達成できないということに気づいた。ほんと、恥ずかしいくらい徐々に気づいたことなんだけど。結局、人は人を必要とする。
誰をも侮らず、目の前にいる人を大切にしていくと、必ずその輪が連鎖して、大事な時に自分を助けてくれるのだ。飛びぬけたスキルを磨いて他者を圧倒するより、たくさんの味方を作れるコミュニケーション力のほうがはるかに有用だ。
教訓3:可能性を伸ばしてくれるトレーナーにめぐり合うこと
結局、自分の力ではどうしようもないことなんだけど、ベイブの成功の秘訣は、農場主のホゲットさん( ジェームズ・クロムウェル)に見込まれたことだ。本来であれば、奥さんの要望でベイブはクリスマスの日に丸焼きにされるはずだった。ホゲットさんは、ベイブが上手に動物を扱うのを見て、ベイブを「牧羊豚」にする訓練を始めるのだ。いくら能力があっても、牧羊の機会を与えられなければ、ベイブが牧羊豚になることはなかっただろう。
コンテストの前日、ベイブが家出をしてしまっても、ホゲットさんはベイブを責めない。そして、ベイブの気力・体力が回復するや、再びベイブと共にコンテストに出かける。コンテスト会場では、牧羊犬コンテストにブタを出場させることが審査員の間でモメて大変なことになるが、ホゲットさんは、ベイブを出場させるために一歩も引かない。皆の前に引き出されたベイブは笑いものになるが、ホゲットさんは平静だ。
ベイブが羊たちと会話をしながら、なかなか牧羊ができなくても、ホゲットさんはベイブを信じて何もしない。最後のシーンで、ホゲットさんはベイブに「よくやった」と2回声をかける。ホゲットさんは、ベイブが期待に応えてくれることが分かっていたのだ。信じてみているって、こういうことだよなぁとホゲットさんの姿に理想の上司・トレーナー像を重ねた。
ADHD・発達障害は、できることが凸凹すぎる。その可能性が花開くためには周囲の絶対的な支援が必要だ。これは、今、放映中の朝ドラ「エール」の中でも描かれている。結局のところ、この辺は自分では選べないのが切ないところだけれど、凸凹の子供や部下を持つ親・トレーナーは、このことを意識してほしい。私も、これまで何名もの上司に恵まれてきた。今考えると、ありがたい。
感想まとめ
「ベイブ」を、もとに教訓を3つまとめてみた。子供向けの映画に見えるけど、当然、作っているのは大人だし、そこには温かく強いメッセージが込められている。私は、ADHDという弱み(強み?)を持つので、自分とベイブを重ね合わせてみていた。ベイブほど愛される存在ではないけれど、もっともっと、皆に助けてもらえるべくキャラクターを磨かなければと思った。
ベイブの良いところは、感情を素直に表現できるところだ。悲しい時は悲しい。嬉しい時は嬉しい。その感情が、周囲を動かしていく。もっともっと、正直に自分の感情を出していきたい。「強靭なメンタル」とか「強力なリーダーシップ」という言葉からは、まったく想像もしないタイプの映画だけれど、この映画を「メンタルを強くする映画」シリーズの第一弾としたい。
このご時世に、心が温まる映画は多くはないので、時々は見返したい映画になった。特に吹き替え版のベイブの声がかわいいのでおすすめ。