私たちは問題視することが多すぎる。だからこそ「保留する力」が重要だ!〜ネガティブ・ケイパビリティ〜
「負の力」とは言い換えれば「保留力」ともいう
”知性を高めていく唯一の方法は、どんなことについても断定した考えを持たないこと。つまり、あらゆる思想に対して聞く耳を持つということである。”
ージョン・キーツ(詩人。ネガティブ・ケイパビリティの生みの親)
昨日、レベッカソルニットの著作の書評を書いたんですけど、その中で出てきた
ネガティブ・ケイパビリティ(負の力)
について掘り下げていきたいと思います。
と言うわけで今回紹介する作品は精神科医であり、『閉鎖病棟』などで有名な作家である帚木蓬生(ははきぎほうせい)氏の著書『ネガティブ・ケイパビリティ』。
本書は
不確実性には「ネガティブ・ケイパビリティ」がとても重要になる!
と言うシンプルなテーマでかつ200ページの読みやすい作品となっております。
ネガティブ・ケイパビリティって何ですか?と言いますと
答えが出なかったり、対処できない事態に耐える力
のことです。言い換えれば
性急に理由や答えを求めず、もやもやした思考にとどまることができる力
ともいえます。
逆の用語に、「ポジティブ・ケイパビリティ」と言う言葉もございまして、こちらは
問題が生じれば、的確かつ迅速に対処する能力
のことです。
余談ですがそもそも「ケイパビリティ」は「能力」で「能力」とは
力に能(あた)うこと→その力を持つに「ふさわしい」こと
ですので、
ポジティブなケイパビリティ→より速くその力にふさわしくなること
ネガティブなケイパビリティ→その力についていったん遠ざけること
とも言えます。
だから、ネガティブ・ケイパビリティを言い換えるなら「保留する力」と言うとイメージしやすいかもです。
あらゆる事象をいったんおいといて、より良い思考や解決法を模索していく、まさに不確実性の高い時代に必須のスキルと言えましょう。
「生産性を高くすること」は古くなってしまった
ポジティブ・ケイパビリティの高い人は言い換えれば
機械的に、より手早く処理ができる人→生産性の高い人
という意味に捉えられます。
これだけ聞くと、文字通りポジティブな印象を受けます。
しかし、それはもはやロボットの方が得意な領域になりつつあります。
それに、性急な処理は早いだけであって、それがイノベーションや考え方を変えることにはつながりません。
生産性は確かに高くなるかもしれませんが、結局のところ自分がやっていることの延長線上でしかないのです。
今求められていることは「イノベーションを起こすこと」であって生産性を高めることではございません。
なぜなら、現代は需要が目まぐるしく動くからであり、生産性を上げてもその市場が冷え切っている状態にあるから。
それよりは、自分から変革を起こして市場というフィールドを転々とできる力を高めた方が生き残る可能性は高い、それくらいに技術進歩は目覚ましいものです(小売業の店員がなくなるだけでも相当かと)。
また、WEF会長のクラウス・シュワブ氏も2021年のダボス会議テーマの取材の際、
"資本主義という表現はもはや適切ではない。金融緩和でマネーがあふれ、資本の意味は薄れた。いまや成功を導くのはイノベーションを起こす起業家精神や才能で、むしろ『才能主義(Talentism)』と呼びたい"
とはっきりと明言されており、資本主義から「才能主義」へと徐々にシフトしていくのではないかと思われます。
ダボス会議は世界経済や環境問題など幅広いテーマで討議しますが、各界から注目され、世界に強い影響力を持っております。
と、なるとこれからの社会はその「イノベーション」が起こしやすくなるようなインフラを整えていくんじゃないかなと思われます。
そして、「イノベーション」に必要な力(近いうち取りあげたい本が・・・)のひとつに、ネガティブ・ケイパビリティ(保留力)がございます。
保留するということは、よりアイデアをぶつけるということ
私たちが生きていく現代では昔と違い明確な正解がなくなりました。
昔なら
収入よし!
家よし!
配偶者よし!
みたいな社会的ステイタスが理想と言われているみたいですが、現代では科学のおかげで
収入で幸福になるのは年収800万が限界!
家のローンのストレスで幸福度は下がりやすいから賃貸の方がいい!(諸説ある)
独身でも十分幸せは築ける。大事なのは人間関係!
という統計結果が出ていたりしているものですから理想のステイタスを得たからといって幸福度は上がらないのです。
故に、社会人になってからどういう振る舞いをするかが分からなくなりました。
出世することに魅力をあまり感じない時代なので、何をモチベーションにやっていけばいいのか分からない。
だからこそ、「保留する」ということが大事かと思われます。
どんなライフスタイルが送りたいのか?
キャリアはどう過ごそうか?
現実ではどんな人が自分の理想に近いのか?
というアイデアをぶつけまくれば、より精密な解に近づくかなと思います。
冒頭の名言の通り何事も安易に答えを出さないことは、人の意見もより多く受け入れることができるので、結果として満足しやすいです。
保留することを、ネガティブに考えるのではなく、「よりよきものにするため」に行うのだと思えるいい本でした。