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心理学コラム/パワハラにならずに部下をやりこめる方法
先日、某企業の管理職にパワーハラスメント(以下パワハラ)研修を実施した際、終了後にご相談を受けました。私が厳しめに講義をしたことで思うところがあったようです。「なんでもかんでもパワハラって言われているように感じて、部下指導がしにくいですよ」「なんでそこまで気を使わないといけないのか」という声は他でもうかがうことがあります。指導とパワハラは別です。しかし、グレー部分を含むので、難しく感じる方が多くいらっしゃるようです。
先にもお話しましたが、パワーハラスメント防止が法制化されており、その定義は、
『職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素全てみたすもの』
です。
昔はパワハラなんて当たり前だった?
昔はパワハラという言葉はありませんでした。過去に上司から受けたことは今ではパワハラに当たることもあるでしょう。
■「契約取れるまで帰ってくるな!この給料泥棒!」と怒鳴られた。
■「上司の虫の居所が悪いと、灰皿が飛んできた」などなど。
思い出すだけで腹立たしく思うことがある一方で、そうした厳しい指導?のおかげで奮起し、現在のご自身があるわけで、今では感謝しているところもある、という方もいらっしゃるかもしれません。過去の経験を踏まえ、自身が成長したという意識があれば、自分も部下に同じような指導をする、というのは自然なことかもしれません。
しかし、上記のような定義付けまでされている現代社会では、同じ方法を取ると処分の対象になってしまう可能性があります。熱血指導も状況次第、ということでしょうか。せっかくの熱意も相手(部下)に伝わらなければそもそも有効な指導とは言い難いのではないでしょうか。
パワハラにならずに部下をやりこめる方法
管理職は部下を教育指導し、成長を促すという役割を持っています。一時の感情に任せて怒鳴りつけ、しばらくは言うことを聞いていたが、その後退職してしまった、または訴えられたというのでは、部下を成長させた、とは言えないでしょう。一瞬すっきりするために「やりこめる」ことが良いとはとても思えませんが、熱意ある管理職の気持ちを全く理解しない自由気ままな部下がいるのであれば、気持ちはわからないでもありません。ここではあえてパワハラにならずに部下をやりこめる方法を考えてみたいと思います。
例えば、毎朝数分の遅刻をしてくる部下Aがいます。Aは出社時刻だけでなく、社内会議にも遅れてくるし、提出物の期限も守らないような、時間や納期にルーズな人物です。管理職のあなた以外に、同僚たちもたまに注意はしていますが、本人はあまり意に介していないようです。一向に改まらないとします。
あなたは、怒鳴りつけて人格否定するなど、先の定義に当てはまる言動は一切NGです。そして、冷静に、合理的に、就業開始時間や会議時間、提出物の期限を守っていないことを指摘・指導します。1度で行動が改まるような部下なら、そもそもやりこめたいとまでは思わないと推測されますので、Aの行動は改まりません。これを毎日、頻度高く繰り返します。相手がうんざりしても、反抗的態度を取っても管理職であるあなたは冷静に、合理的に指導・指摘を続けます。加えて指導事項、日時を全て記録に残し、業務改善命令書を作成し、面談を実施します。それでも改善が見られなければ評価を下げます。これを延々と続けます。仮に改善が見られたとしたら、他の業務に関し、至らない点を全て探し出し、同様に延々と繰り返します。
Aは自分が至らないにもかかわらず、自分だけが標的にされ、重箱の隅をつつくような陰険なやり方で責められていると感じ、これはいじめだ、パワハラだ、と訴えを起こすかもしれません。訴えを起こされても合理的な説明ができるよう準備をしておきます。また、周囲にそう思われないように、あなたはAだけでなく、部下全てに対して出社時刻、会議出席時刻、書類提出期限その他もろもろ、全て記録に残しておきます。更に「あなただってできていない」という指摘を生む元にならないよう、ご自身も遅刻はおろか、会議出席、各種書類の提出期限を全て守ります。他の業務に関しても、日々見直し、改善努力を続けます。
いかがでしょうか。そもそも部下を「やりこめる」こと自体、部下を成長させるという役割からは外れているだけでなく、パワハラの可能性を秘めているため、お勧めするものではありません。しかし、仮にやりこめる方法があるとしたら、①定義に当てはまるような言動はせず冷静、合理的に指摘・指導し続ける ②部下全員へ同様の対応 ③ご自身が実践できていること を備えている必要があるのではないかと私は考えました。多少しつこいところを除けば、自律した管理職が本来目指す姿勢ではないかとも思います。ご参考にしていただければ幸いです。そして、相手をやりこめることにエネルギーを費やすよりも、楽しくて早く出社したくなるような職場、納期を守る方が達成感ややりがいにつながることを身につけていただく方が望ましいのだよなぁと改めて感じたのでした。