パンセクと自称するフェミニストの怪 パンセクシャルの台頭の謎 その1
最近、巷で安易にパンセクシュアルを自称する人が増えてきたように思う。
しかも興味深いことに、フェミニストを自称する人に、このパンセクシュアルを自称する人が多いように思われる。
この記事では、パンセクシュアルの謎についてコメントしていこうかと思っていましたが、少し長くなりそうなので2つに分けることにしました。
なのでこれがその1。内容は「勘違いのパンセクシュアル」についてです。
実際にパンセクシュアルである方を批判する意図は一切ありません。
パンセクシュアルとは、簡単に日本語にすれば「全性愛」、つまり、男性、女性というジェンダーの垣根を超えて、あらゆるSOGI(sexual orientation/ gender identity[性的指向/性自認])の個人に対して恋愛感情を持ち、同時に性的欲望を覚える人をさす、近年勃興してきたノンバイナリー(二項対立的でない)なカテゴリです。
これは、元々あったバイセクシュアルというカテゴリが実際にはバイナリーといって、男女の枠にとらわれていたのではないかという発見から発生した言葉ですから、今までバイセクシュアルだと言っていた人がパンセクシュアルと名乗ったり、あくまでもバイセクシュアルとパンセクシュアルとは別物であるという定義づけをしている人もいて、まだ定まっていない用語であるように思われます。
さて、フェミニスト(の女性)がパンセクシュアルを自称するというのはなかなか興味深い現象です。
そもそもバイナリー的な社会の枠組みの中で暴力的な改革をしていたフェミニズムが、ノンバイナリーにたどり着くというのはいよいよどこを目材ているのかわからなくなってきたある種の「疲れ」の表出ではないかと思うのです。
つまり、女性が「男性社会」の中の多様性枠として社会進出を認めてもらうために、LGBTのような多様性の権化を引き入れて共闘しているという状況の中で、フェミニズムとLGBTが本質的に同質のものではないという感覚から、自分自身を性的マイノリティと位置づけるという不可思議な状態が発生しているように思われるのです。
パンセクシュアルはヒューマニズムか
前述の通り、パンセクシュアルはバイセクシュアルの派生系、ないしはポリティカル・コレクトネスの結果であると言えます。
パンセクシュアルにおいて絶対に無視してはいけないのが、性的欲求です。
しかし、最近の実態では同性での生行為の経験がないor少ないにも関わらずパンセクシュアルを自称する人が後を絶ちません。
これは、「多様性」を内面化しようとする努力が現れているだけで、本人が実際にパンセクシュアルであることをなんら意味しません。
ですから、「他者を愛する」という非常に抽象的な概念が、パンセクシュアルという名を持ってしまっているという事実があります。これは明らかな誤用であり、根本的な誤解から発生してしまった悲劇であると言えます。
しかし、必ずしも当人たちを責めることはできません。それは、パンセクシュアルとヒューマニズムという用語には実用的差異があるからです。
ヒューマニズムはそもそも、〈神〉対〈人間〉をいう時の人間尊重を基本とします。
人間をすべて愛するということは現代の社会生活では当然のこととされていますから、現代における基本原理であるとも言えます。
ですが、ヒューマニズムを標榜したところで、今の「多様性」の文脈のサポートには一切ならないために、あまり使われない傾向にあります。
それもそのはず。変革をもたらそうとしている中で水のように全般的な話を持ってきたところであまりにを弱すぎます。
むしろ、フェミニズムやLGBTの運動を一般化して牙を抜こうという勢力がよくヒューマニズムという言葉を使っていますね。
一方のパンセクシュアルというのはLGBTの文脈から出てきた言葉です。
後者のパンセクシュアルという言葉は、「人類を愛する」という発想に最も近い(と勘違いされる)性的マイノリティのカテゴリなのです。
実際にパンセクシュアルであるかはともかくとして、パンセクシュアルを名乗ることによって、明確にLGBTの仲間としてこの活動をサポートすることができます。
しかも、「当事者」という立場はLGBTの活動において単なる「アライ(賛同者)」よりも強い地位にあります。
ですから多様性の問題にコミットしようとすると、自分も「当事者にならなければならない」という使命感が出てくるのだと思われます。
これはフェミニズムもLGBTも同様で、「当事者」の強い意志から成り立っているムーブメントだから仕方のないことですが、この「当事者」の域を出ることによって初めて、問題意識が広く広がって改革につながります。
とりあえず今日はここまで。
いわゆる「パンセクシュアル」についてでした。
次回はパンセクシュアルの定義の違和感についてもう少し触れていこうと思います。
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