黒い岩魚
私の実家は東北の物凄い大自然の中にある。未だに下水道すら通っていない物凄い田舎でもある。でも、夜になると網戸にゲンジボタルが現れるくらい綺麗な場所でもある。
実家の奥には2軒しか家が無く、家の裏側には清流が流れていて、子供の頃はよく川で毎日のように遊んでいた。
というか、遊ぶ場所が川しかなかった。
幼い頃はこの川で近所の大人は洗濯をしていた。
清流は山から流れるとても綺麗な川で、サワガニや岩魚・山女なども生息している。どうやら岩魚や山女は現在も生息しているらしい。
私は小学生の頃、この川を上流まで渡る遊びが大好きだった。
まず、2メートルくらいの岩を登ってそこから降りたところに小さな滝があり、そこまで行かないと川登りが始まらない。
ただ、この岩を降りた場所にとても静かで流れの穏やかな窪みがある。
この窪んだ川に黒い魚がいることを知ってから、川登りの途中でこの黒い魚を探すことが日課になってしまった。
黒い魚を見つけてはしばらくその魚を見ているのが好きだった。
魚はただじっとしていて、私のほうを向いて浮かんでいるようにも見えた。
警戒心が無く、私が行くとその魚は必ず姿を現してはじっと私のほうを見ていた。
言葉を交わしたという感覚は全くないが、私が近づくと魚も近づいてくれる。お互いに敵意が無いということを知ってか、魚はただ私の近くにいるような感じであった。
言語にはできないけど何かしらのがコミュニケーションを魚ととっていたような感覚がある。言語化するなら日常会話をしているようなものかもしれない。
ただ一つだけ覚えているのは、この魚は何年も同じ場所にいること・仲間はおらず、1人で(1匹で)生きているということ。
この魚との関係は私が川登りをやめるまで続いた。
余談だが、この川の上には小さな小川が流れており、春にはスミレやタンポポが小川の周りに一斉に咲き乱れる天国のように美しい場所であった。
この小川の水が少しだけ清流側に滝のように流れる場所があり、私はそんな美しい場所で毎日のように遊んでいた。
魚が岩魚だとわかったのは、父親から「岩陰に隠れていたり、日の当たり方によって岩魚は黒く見える」ということで判明した。
私は、この岩魚とのコミュニケーションを始めてから、動物とのコミュニケーションが取れるようになった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?