先輩に目を付けられてしまった話

幼い頃から畑仕事が好きで、将来は農家になる事を夢見ていた私は、中学2年生の頃に地元の農業系学科のある高校へ1日体験入学をした。
私は人見知りするタイプなので知り合いのいない環境では、かなり大人しくなる。
体験入学では、参加者1人1人に在校生が付き、先輩方の指導のもと実技授業を体験していく内容となっていた。
言われた通りにやることが精一杯で先輩との会話が弾む訳もなく、ただ淡々と用意されたメニューをこなしていく。
その中に洋蘭の植え替えがあったのだが、根に絡みついた水苔が取れず苦戦していると妙に前方から視線を感じ、気になって目を向けると別の体験入学者を指導しているはずの先輩がこちらを凝視していた。
手際が悪いと思われイライラさせてしまったのだろうか?怖くなりサッと目線を逸らして再び水苔と格闘し、何とか新しい水苔へ交換する事ができた。
その作業が終了し、次の体験場所へ移動しようとした時、先程私を凝視していた先輩が声をかけてきた。

「ねぇ、君って女の子なの?」

質問の内容に戸惑いながらも「え?あ、はい」とどうにか返事を返すと

「うそー!男の子だと思ってたぁ!」

と少し残念そうにしていた。
中学時代は、小規模校ということもあり時期によっては部活(テニス部)と長距離走、陸上大会などの練習が重なる上に自転車でほぼ毎日片道4km、しかも心臓破りの坂を越えて通っていたため、かなりのスリムボディとちょうど良い具合に焼けた肌にベリーショートカットの髪型をしていたので男に間違えられることが多々あった。
おまけに体験入学には、中学のジャージで参加していたため制服で性別判断する(近年では失礼に当たるのだろうか?)事はできない状況にあったため、彼女も勘違いしてしまったのだろう。
間違われる事は良くあるので別に気にもしなかったのだが、その後が大変だった。
なぜか実習中にその先輩がやたらと声をかけてきたり、肩が振れるほど近くに寄ってきたりと距離感がかなりバグった状態になっていた。
しかもやたらと褒めてくる。
休憩中に先輩が友人と話している時スイカに塩をかけるか、かけないかの話になった時先輩はどうやら塩をかける派だったようで

「かけるよね?」

と私の話を振ってきて、当時塩をかけて食べる美味しさを知らなかったため

「いや…かけたことないです。」

と答えた。すると「だよねー!」と意見を180度変えてきた事には苦笑いするしかなかった。
その後キュウリ苗の接木を行う実習で、用意された10本全てを成功させ教員にも褒められる程の腕を披露すると、またあの先輩がバグった距離感で近づいてきて

「すごい!普通初めては何本か失敗するんだよ!ほんとすごい」

と褒めちぎってきたため、えらく恥ずかしい思いをした。
教員が「なに?えらく褒めるじゃん」と言った事に対して先輩が「この子ね超タイプなんだ!めっちゃ可愛い!でも女の子なんだ…私、男の子だと思ってて…」と答えているの聞きながら、苦笑いしかできずにいる私の様子に教員が

「大丈夫。君が入学する頃には彼女は卒業してるから。」

と優しく声をかけてくれた。
その言葉にホッとした事を今でも良く覚えている。

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