短編小説 「終わりの少女」

 先生は言ってたんだ、良い子にしてたら私は此処から出る事が出来るって。

 私は産まれてからこの世界しか知らない、一面真っ白な空間に小さなベッドだけ、そこで寝て起きての繰り返し。そして毎日検査室に行って先生とお話しをして、たまに身体の検査をちょこっとする、それだけが私の人生。

 そんな日々だけど検査室に行って、先生とたわいの無い会話するのはとても楽しい。私は先生が好き、先生は私に多くの事を教えてくれる。優しくていつもニコニコしている先生はいつか私は外の世界という所で自由に暮らせると言う。外の世界については何も知らないけど、先生が熱心に教えてくれるので凄く楽しみだ。


 その日もいつもの様に検査室に連れて行かれて、先生の待つ部屋の扉を通された。そこには初めてみる人が居た、金髪の女の人だ。部屋に入るなり、こっちの方を睨め付けてくるので少し嫌な気分になった。

「リー先生、貴方本当にこの子が終わりの少女の器だと思っているの?私には到底そうは思えないのだけど。」

「おいミアン、彼女だって生きているんだよ。今はまだ教育課程の段階にあるんだ、大功は何事も綿密な計画に沿ってなされる物なんだ。」

「こんなひ弱そうなガキが世界をどうこう出来るとは思えないんだけど!?」

 何だかよく分からないけどその金髪女は先生に酷く詰め寄っていた。先生は困った顔をして苦笑いを浮かべていた。私には何だかそれが凄く不快で、胸の辺りから腕の方へと少しずつ熱が広がり続けるのを抑えきれなかった。

 だから私はあの女を刺したんだ、先生を困らせる悪い女。湧き出る感情に共鳴し私の両手はナイフみたいに鋭く鈍く尖った。鮮血が辺りに散らばる。私の服も壁も先生の白衣も真っ赤だった。それは白い世界しか知らない私の心を満たす、安心感のある光景だった様に思う。ふわふわと肉体と精神の分裂を感じ始める、私は私の目で私の後頭部を見ている気分に成りつつあった。

 そんな意識の中で先生が大きな声で慌てているのが聞こえる、でも刺したこの女の口元にはニヤリとした笑みが張り付いていた。気持ち悪い、消えてしまえばいいのに。意識が途切れていく、空気に触れている匂いが徐々に分からなくなってしまう。そこからはもう記憶が無くなっていた。

 それから先生は私と会ってくれなくなった。白い部屋から検査室に移動する時も今までとは違う。部屋の中にガスが充満して私は暴れる、でも力無く倒れ込み意識も消える。目が覚めると検査室に居て、私は拘束されている。そして先生は来てくれない。

 ねぇもう悪い子にはならないよ、だから先生。私に笑いかけて欲しいんだ、いつも見たいに私の世界を満たして欲しいんだ。


 調査ファイルNO.238

 対象/被験体LG:NO.6

 今日6がミアンを刺した。これは完全に僕の失態だ。彼女を他者と合わせる事について軽率な行動をとってしまったと反省しても仕切れない。徐々に慣らしていくつもりだったがミアンは常に計画の進捗具合を急かしていた。強引なミアンの姿勢に折れて、6と接触させてしまったのはやはり時期尚早であった。ミアンからすれば己の死は遅かれ早かれの問題であったのだろうが、僕とってのこれは大きな痛手だ。だが6の備えた肉体の変質は期待以上の能力を秘めていると改めて確信した。この力はいずれ世界を終焉に導いてくれるはずだ。僕たちが目指すのは「終わりの少女」。世界の全てを破壊し尽くしても尚、清く在り続ける新人類。だからこそ、彼女達の成長は慎重で無くてはならないのだ。外の世界に出た時に無垢なまま殺戮の天使にならなければならないからな。残念だが6も廃棄処分を決定するしかないだろう、また一から育成のやり直しは歯痒いが何事もトライ&エラーだ。一先ずは彼女の素体として優秀な部分のみ抽出し、次の肉体の構築を急ごう。

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