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【クライ・マッチョ】「人生のオアシスを探して」

・御大クリント・イーストウッド最新作「クライ・マッチョ」を鑑賞して参りました。

・かつてはロデオマンとしてその威光を轟かせたテキサスのマイク。様々な人生の苦難を経て老人と成り果てた彼は恩人であるハワードにメキシコから息子を連れ出して欲しいと頼まれる。その息子ラフォは欲に塗れた母親に縛られる13歳の少年。母親は毎晩パーティを開催する事が出来る程に裕福な金持ちだ。しかし様々な男と色欲に溺れる自分を批難する息子を憎み、子育て放棄をしているロクデナシでもある。その上厄介な事に息子が自分の手から離れる事を許さない独占欲に満ちた女でもあった。マイクはそんな母親の手からラフォを連れ出し、メキシコからテキサスへの逃走劇を始める…。

・この映画の内容は実にシンプルであるが、その実深く熟成されたヒューマンドラマでもある。90歳を超えても尚、俳優であり監督であるイーストウッドだからこその説得力がこの作品には満ち溢れている。人生とは困難や苦悩の連続性、それは時に神の存在さえも疑いたくなる程であり自己の存在を酷く悔やむ物かもしれない。しかし、自分にとってオアシスと呼べる終点を死にゆくまで探し続けるのが本当にマッチョな生き方なのだろうとこの映画からは思わされてしまう。

・自己の決断と選択により、苛烈な環境から抜け出す事こそが真の自由である。その先に再び辛いことや理不尽な事が待ち受けているとも限らないが、自分で見つけ出すという意思を持ったという事が大事なのだ。

・自分の利益や損得といった欲望に支配された人間も居れば他者に無償の善意を与える人間も当然ながら居るのが現実だ。そんな当たり前の世界をこの作品は真摯に暖かみを持って描いている。ストーリー展開としてはご都合主義な状況がチラホラと感じられるのだが、この点は映画が描こうとしている本質とは関係ないと思うので個人的には評価の云々からは省かせて貰いたい。

・ある意味ではこの映画は古い映画とも言える。目新しさには欠けるし、大胆で激しいドラマ性も無い。描かれているのは普遍的な人間の人生そのものだ。だがしかし、自然や大地、人々の交流と暮らし、人間という存在が持つドラマ性を鋭い洞察力で映し出した秀作である事には違いないだろう。

・酸いも甘いも経験し年老いたマイク、若く夢を見る少年ラフォ、彼の相棒である闘鶏マッチョ、2人と1匹のロードムービーを是非その目で見て欲しい。

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