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【Column】これぞハリウッド版怪獣映画の最高峰!「パシフィック・リム」シリーズ

「ウルトラ怪獣」や「ゴジラ」への限りない‘‘愛’’を公言し続ける鬼才ギレルモ・デル・トロが、日本の怪獣映画へ敬意を払い、その‘‘愛’’を爆発させた、映画『パシフィック・リム』。「巨大怪獣への美しい詩である」とさえ語られた同作の魅力とは一体どこにあるのだろうか?

現在、庵野秀明が仕掛ける「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」が大きな注目を集めている。映画『シン・ゴジラ』、『シン・エヴァンゲリオン』、『シン・ウルトラマン』、『シン・仮面ライダー』の4作品で形成されたユニバースには、日本だけにとどまらず、全世界から期待感を膨らませた声が多く寄せられている。
庵野は幼き日に『ウルトラマン』や『仮面ライダー』から多大な影響を受け、それを自らのアプローチで現代に蘇らせているが、ハリウッドにもまたそれらの作品から大きな影響を受けたフィルムメーカーがいる。
2017年の『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞を受賞した、鬼才ギレルモ・デル・トロだ。
デル・トロは、幼いころから自宅のTVでホラー映画や怪獣映画などを観て育ち、その映画監督としての才能を養ってきたことで知られている。
中でも『ウルトラQ』や『ウルトラマン』といった作品に登場する「ウルトラ怪獣」や『ゴジラ』など「東宝怪獣」から受けた影響は多大なものだったという。

庵野秀明が「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」なら、ギレルモ・デル・トロは「パシフィック・リム」だ。
今回は、デル・トロが自身の‘‘怪獣愛’’を爆発させた映画「パシフィック・リム」シリーズの魅力に迫る。


「怪獣は人間が着ぐるみを着ているように見えてこそ怪獣と言える」

2013年に公開された映画『パシフィック・リム』は、あくまでも現代を舞台にストーリーが繰り広げられる。
2013年に、突如、太平洋グアム沖の深海に異世界と繋がる時空の亀裂のようなものが現れ、そこから巨大怪獣が出現。
世界は恐怖のどん底に突き落とされる。
その後、なんとか米軍の総攻撃によって撃退に成功したのだが、次々と別の怪獣が出現し、主要な都市が潰されていく惨状が続いた。
人類はこの脅威に対抗するために、怪獣迎撃用兵器「イェーガー」を開発。
世界各地で怪獣退治のヒーローとして歓声を浴びる存在となった。
ところが、怪獣の出現ペースは早まるばかりで、最初の怪獣が出現してから7年後の2020年には、すでに人類は劣勢に立たされているのだった…。

そのストーリーは、かなりハリウッドSFよりのものになっているのだが、デル・トロ監督の‘‘愛’’を感じさせるのは、やはりその描写である。
まず劇中に登場する巨大モンスターの呼称を‘‘カイジュウ(Kaiju)’’としているところがすごい。
ハリウッド映画における巨大な生物は「モンスター」や「クリーチャー」と呼ばれるのが通例だったが、日本の特撮作品へ敬意を払い、あえて‘‘カイジュウ’’という表現を使ったのだ。
それだけではない。「怪獣は人間が着ぐるみを着ているように見えてこそ怪獣と言える」というデル・トロ監督のこだわりから、劇中に登場する怪獣たちの動きが実に‘‘人間臭い’’。
これまでのハリウッド映画のモンスターに見られた生物的な質感ではなく、あたかも‘‘中の人’’が存在しているかのような良い意味でのぎこちなさのようなものを感じさせるのだ。
ここに、怪獣の巨大さを印象づける足元からのカメラワークなどを加えれば、もう怖いものはない。
まさにハリウッドが総力を結集して作り上げた「怪獣映画の真骨頂」を体感することができる。

日本の特撮作品へのアンチテーゼ

『パシフィック・リム』は、日本の特撮作品へのアンチテーゼでもある。
無限に広がる宇宙、その中のごくごく小さな地球に怪獣が現れたところで、どこからともなく‘‘光の使者’’がやってくることはあり得るのだろうか?
特撮ファンとしては信じたい気持ちは大いにある。しかし、地球で暮らしている以上は地球人でどうにかしなければならない。
『パシフィック・リム』では、そうしてドイツ語で狩人の意味を持つ「イェーガー」を開発するのだ。
「イェーガー」は2人の操縦者がそれぞれ右脳と左脳で役割を分担し、神経とマシンを接続する「ドリフト」という方式を執り操縦される。
完全にパイロットと「イェーガー」の動きがシンクロするわけだが、この描写には思わずガンダムを思い浮かべてしまう。
世界中から代表選手のようなパイロットが同じ場所に集う部分からも、筆者はとりわけ『機動武闘伝Gガンダム』を想起した。
つまり『パシフィック・リム』は、「怪獣映画」だけでなく「ロボットアニメ」ファンにとっても堪らない作品なのである。

そして、「怪獣映画」ファンが最も狂喜したのは、やはりエンドクレジットでの一言であろう。
ラストに「この映画をモンスターマスター、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」と綴られているのだ。
レイ・ハリーハウゼンは20世紀に特撮技術を作り上げた第一人者であり、本多猪四郎は「怪獣映画」の始祖と言っても過言ではない人物。
この2人に敬意を表するあたりは、さすがの特撮オタクといったところだろう。
本多猪四郎といえば1954年の『ゴジラ』の生みの親であり、『帰ってきたウルトラマン』の伝説的第1話「怪獣総進撃」の監督としても有名だ。
『パシフィック・リム』では数多くの怪獣が登場し、人類を圧倒していく描写が印象的であるが、まさしく本作はハリウッド版「怪獣総進撃」であると言えるだろう。
やはり本作は、全怪獣映画ファンにとって、これ以上ないハリウッド映画なのである。

さらに世界観を広げた続編の存在

2018年に公開された続編の『パシフィック・リム:アップライジング』では、怪獣と人間の戦争が終結してから10年後の世界を舞台にストーリーが展開された。
物語の主人公となるのは、前作でその身を賭して世界を救ったスタッカー・ペントコスト(イドリス・エルバ)の息子であるジェイク(ジョン・ボイエガ)。
かつてはイェーガーのパイロットであったが、今は落ちぶれ、戦争の産物を売りさばくことで生計を立てている男である。
そんな彼が、ひょんなことから出会ったアマーラ(ケイリー・スピーニー)と共に逮捕されてしまったことから、軍に再び復帰することになり、そこで人間としても教官としても成長していく姿を描く。

いわば1作目で活躍したパイロットたちの‘‘次の世代’’を描く作品であるが、より人間ドラマの深堀ができているような印象を受ける。
同時に「怪獣映画」として成立していた前作と比べて、続編では「ロボット映画」としての魅力を遺憾なく発揮しており、『トランスフォーマー』や『機動戦士ガンダム』といった作品からの影響が色濃いと思われる。
デル・トロは製作というポジションに回ったが、監督に抜擢されたスティーヴン・S・デナイトがしっかりと系譜を受け継いだ形である。
そのため、前半部ではイェーガーとイェーガーの対決を観ることもできるし、前作よりもさらにパワーアップしたジプシー・アベンジャーの迫力あるアクションを堪能できるのだ。
巷での評価は1作目ほどのものはないが、それでも日本のポップカルチャーへ敬意を表した描写が印象深い作品に仕上がっている。

そして、『パシフィック・リム』シリーズは、これで終わりではない。
2021年に、今度はアニメとなって帰ってきたのだ。
Netflixにて配信されたオリジナル・アニメーション『パシフィック・リム:暗黒の大陸』は、オーストラリアを舞台に、少年少女がイェーガーに乗り込み、怪獣たちと激闘を繰り広げる姿が描かれる。
こちらは『GODZILLA』3部作などを手掛けたポリゴン・ピクチュアズ製作のもとで展開。
実写に加えて、アニメーションでもその世界観を大きく広げることに成功した。

「怪獣映画」をこよなく愛するギレルモ・デル・トロが作り出した、驚異のハリウッド版怪獣映画「パシフィック・リム」シリーズ。
シリーズが続くにつれて、ますますその世界観は拡がりを見せており、今後はどのような舵取りがされるのかにも注目である。
願わくば、もう一度、ギレルモ・デル・トロが監督にカムバックし、その‘‘愛’’を爆発させてほしいものだ。

(文・構成:zash)

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