レイハラカミの店

東京を離れるまで、あと3日。明日は育児に費やされ、明後日は2泊3日の引っ越しに備えて準備、明々後日は梱包と搬出と掃除。つまり、東京を偲ぶ時間はもう無いのだけど、もしも奇跡的に東京を偲ぶ時間が1日貰えたら1番行っておきたい所が「レイハラカミの店」だ。失礼ながら正式な店名を失念してしまった。

社会人以降の独身時代、1番の友人と「千駄木会」というのをよくやった。大学の実習で通った谷根千に魅了された私は、友人と千駄木で待ち合わせをして何時間も谷根千を満喫するのが楽しみだった。まず、駅前のレストランでパスタを食べる。幼い頃からの家族のような友人との会食とあって、安心しきっている私は決まって1番ニンニクの効いたパスタを頼んでいたのを覚えている。昔はその向かいにボルシチが美味しい素朴なレストランがあって、恰幅の良い青年(だったと思うが、もしかするとかなり年上かもしれない。よく覚えていない)が給仕してくれるボルシチとトーストのセットを楽しんだりもしたのだけれどその店は無くなってしまった。

食事が終わると腹ごなしにひたすら練り歩く。準備の良い友人は地図を持ってくれたりしているので、行きたい所があれば行ってみたりする。駅のそばの店は頻繁に寄るので記憶によく残っている。飴細工の店にはよく寄った。そして半分セルフサービスなのが特徴の、人懐こそうな青年がやっているカフェも定番。そして、「レイハラカミの店」でお土産を見たりする。

そこは縮緬細工をはじめとした和風の雑貨が多数置いてあって、いつもレイハラカミの曲がかかっていた。その取り合わせがなんとも不思議で、「レイハラカミの店」という名前で定着してしまったのだった。私はそこで、桜の模様の箸を一膳と、柚の香の練り香水を買った。この、練り香水に未練があって、私はもう一度行きたいとつい考えてしまうのだ。練り香水には色々な種類があって、私はずいぶん悩んだのだった。柚子ともう一種類で長いこと行きつ戻りつして、結局柚子の方にしたのだけれど、いつかまた通って買い揃えようと思った。それっきり、結婚して子供が生まれ、千駄木会はできなくなってしまったのだ。

今の深刻な社会情勢で、大変失礼な話だがあの店も危機に晒されていないかと気が重くなる。東京に戻ってきたら、また千駄木に行きたい。


追記:調べ直すとボルシチが美味しかった店は本店が残っていて営業しているようだ。逆に、行きたかった雑貨店はどう調べても無かったのでもしかするともう行けないのかもしれない。そして欲しかった練り香水も廃盤になっていた。寂しいがそれもまた思い出だ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?