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はにかみ笑顔の九州男児
2000年。19歳だった俺はケータイでホームページを作った。魔法のiらんど。
日記を書いたり、他のホームページへ行ってBBSに書き込みしたり。キリ番ゲットしました!とか日記の感想を書いたり。
ホームページを通して交友関係が広がった。自分の同世代のゲイの人、年上のゲイの人、バイセクシャルの人やレズビアンの人。
そして自分と同じようにホームページの管理人をしていた人と、20歳になる少し前に付き合うことになった。
18歳の終わりにゲイデビューというものをし、たった1年ほどで4人目の彼氏。サイクルが早い。
九州出身で大阪で仕事をしていた人。24歳だったかな。それぐらいの年齢の人。
俺がイメージしていた九州男児とは違って細身。毛深くもない。顔も濃くはない。
「なんやぁ~」
はにかんだ笑顔が可愛かった。そんな人。
うちにも何度が来てくれた。4人目の彼氏は弟にも優しかった。
「これ食え」
って感じでお菓子を渡してくれたり。彼氏が家族と関わっているって不思議な感じがした。
カミングアウトをしていた女友達にも紹介した。3人でカフェで色々と話をしたな。
2001年。20歳の誕生日の日、彼のホームページのトップページに俺への想いが書かれていた。めっちゃ恥ずかしいけれど笑える。どんな言葉が書かれていたのかは覚えていないけれど、嬉しかったことだけは覚えている。
後にお気に入りになるゲイバーにも連れていってくれた。騒がしい店ではなく、落ち着いた雰囲気の店。
仕事帰りに会いに来てくれたり俺が大阪まで行ったり。そんな楽しい日々を過ごしていたけれど、夏に別れを告げられた。たった数ヶ月の関係だったのに大泣きした。大好き過ぎて別れたくなかった。
泣いている俺に優しくハグをしてくれた。だけど更に号泣してしまった。目の前で大泣きされて困ったと思う。
彼は俺と付き合う前まで神戸で半同棲していた男の子がいる。その子を忘れられないらしい。
俺と同い年の大学生の男の子。俺と違って可愛くて男前で、カバンの中からケータイを出そうとしたらテレビのリモコンが出てきた天然な男の子。
当時、その子には新しい彼氏がいた。年上の男前なお兄さん。
この子もホームページの管理人をしていた。存在は知っていたけれど、このときはまだ会えていない。のちに一緒に飲んだりご飯を食べたりする仲になる。
別れを告げられた日は悲しかったし悔しかった。俺じゃダメなんやと思った。
「俺、追いかけられるより誰かを追いかけている方が良いんだよね」
そんなことを言われる。
そっか。めっちゃ好きってのを出し過ぎていたし重かったんかもな。
たまに電話をする程度だけれど、別れた後も交流は続いた。
26歳の終わりに、会社は違うけれどこの人と同じ仕事を始めた。
そして俺は今も同じ業界にいる。
東京で暮らしていた頃に本格的に交流が復活した。
彼が出張で来た時に飲みに行ったり。向こうが転勤してきてからも飲みに行ったり。仕事のことをよく相談した。
その頃の彼は別の仕事をしていたけれど、自分の経験から的確なアドバイスをくれた。
昔話も良くした。ホームページの更新をしていた頃の話や共通の友達の話とか。
「お前に会いに奈良に行ってた頃は......」
そんな話をされ、恥ずかしかったけれど嬉しかった。短い期間だったのに彼にも楽しい思い出として残っているんだな。
彼は俺と別れて数年後に男性同性愛者向けの仕事をしていた。ゲイビデオやDVDのレーベルだったり、男性同性愛者向けの風俗の経営だったり、色々している会社の社員になっていた。
「俺、彼氏と動画に出たんだよね」
そう恥じらいもなく普通に言ってくる。
どういうつもりで俺に話したんだろ。絶対に見ないのに。元彼のそういう姿は見たくはない。
その後にサムネイルが目に入ったことがあるけれど、その先は進めなかったっけな。すぐに閉じた。
「売り専のマネージャーしてくれない?」
そう誘われたことがある。興味はあったけれど結局はしなかった。でも誘われたことは嬉しかった。俺を頼ろうとしてくれている訳だし。
最後に彼に会ったのが2012年の夏。俺は31歳に、そして彼は35歳になっていた。
東京に行ったときに居酒屋へ行き、彼の行きつけの二丁目のゲイバーへ連れていってくれた。
「俺の元彼」
そう紹介された。めっちゃ恥ずかしい。何年前の話をしてるんや。
「昔は可愛かってんぞー」
笑いながらそう言っている彼。そうか、可愛いと思ってくれていたんか。当時は全 そんな風に言ってくれなかったもんな。
ゲイバーを出た後、彼はハッテン場へ消えていった。相変わらずだなと思った。
俺はホテルへ戻り、何度も吐きそうになるのを我慢して眠った。そして翌日は二日酔いだった。
あの日以来、彼には会っていない。
たった数ヶ月の付き合いだったけれど、いま思い出しても幸せな気持ちになれる。はにかんだ笑顔が素敵だった人。
きっと彼は今も元気にしていると思う。彼は今年48歳になるんかな。俺ももうすぐ44歳になる。2人ともええ歳になったな。
そんな青い思い出。