ショートショート ロウソク×列車
「ロウソク」×「列車」
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「え〜、間もなく〜、ロウソク列車が発車いたしま〜す。覚悟を決めた方から、お早めにご着席ください。」
「ガチャン」
「ポッポー」
窓から見ることのできる
キラキラとした真っ白い景色は、
まるで、雪国が創り出す芸術作品だ。
都会から離れたこの病室を、
最期の場所と決めたのには
たくさん理由があったが、
それがどうでも良くなるほどの絶景だった。
ついさっき、入院患者にとって
唯一の楽しみである食事の時間が終わった。
今日も1人、あとは時間が過ぎるのを待つだけだ。
「お熱と血圧測りますね〜。」
「点滴の確認です。」
残り少ない寿命のために、先週会ったばかりの女性が今日も定期的にやってくるだけ。
ただ、こうしたつまらない我慢も気にならないほど、窓から見える雪国は美しかった。
「子どもの頃は、こんなにキレイで、良いものだと思わなかったな。」
いくら探しても出てこない記憶だが、
幼少の頃はこの景色が当たり前だったのだろう。
一度はこの故郷を捨てた私が、
何かに導かれるよう
人生最期の場所として、ここを選んだことに
私自身驚いている。
「...ロウソク列車はね、必ず幸せを運んできてくれるのよ。」
...。
いつの間にか眠っていたみたいだ。
外はまだ明るい。
「ばあちゃんが夢に出てくるなんて、お迎えもそろそろかな?」
口元を少し緩ませながら、
私は独り言をつぶやいていた。
その日の夜は、ひどい吹雪だった。
ただ、そんな外の天気を気にする余裕がないほどの息苦しさに私は襲われていた。
気が遠くなる。。
あぁ、看護師さんが私を呼んでいるなぁ。。
でもさぁ、苦しくて眠いんだよ。。。
気がつくと私は、駅のホームにいた。
どうやってここに来たのかは覚えていない。
ただ、駅の周りは美しい雪景色で、
見るからに寒そうな景色に反して、
私は心地よい暖かさに包まれていた。
駅に停まっているのは、
見事に真っ白い列車だ。
「どうしてここにいるんだっけ...?」
そんなことを考えていたら、
聞き覚えのある優しい声が聞こえてきた。
「ここにいるってことは、準備が出来たってことだね?いいのかい?ロウソク列車は片道切符だよ!」
あれ?
夢に出てきた
ばあちゃんが元気に話しかけてくる。
あぁ、そういえば
むかし、ばあちゃんが話してたなぁ。
「ロウソク列車は片道切符。火が消えちまうと帰ってこれない。覚悟を決めたらさっさと乗りな!」
ということは、私にもお迎えが来たのか。
「まさか私を呼ぶとはね。まったくいくつになっても可愛い孫だわ!」
ばあちゃんがとっても嬉しそうにしてる。
そうか、最後の幸せってのは、
1番好きな人に会えるってことなのね。
嬉しくなった私は、
真っ白なロウソク列車に乗ろうとしたが、
ばあちゃんに止められた。
「最後に1つやりたいことがあるんじゃないのかい?ロウソク列車は片道切符だよ。私はここで待ってるから、少しだけ戻るといい。」
「え?やりたいこと?」
「え〜、間もなく〜、ロウソク列車が発車いたしま〜す。覚悟を決めた方から、お早めにご着席ください。」
「ガチャン」
「ポッポー」
...。
私は病室で目が覚めた。
夜は明け、美しい朝が私を出迎えた。
また夢を見ていたのか?
「朝食の時間ですよ〜。昨日は大変でしたね。朝を迎えられて良かったです。」
眠そうな目をした夜勤の看護師さんが言った。
...。
と、ここまで書いたところで、
また昨日のように息苦しくなってきた。
ばあちゃんの好きだった美しい雪国の様子、
そして私の好きなロウソク列車の話は
あなたに伝わっただろうか?
これが私の文筆家としての最期の仕事になるだろう。
さて、
私はこれから、
大好きなばあちゃんの待つ
あの駅に戻るとする。
ロウソク列車の汽笛が聴こえてきた。
「ポッポー」