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ショートショート「人生を変える枕」

#ショートショート

「人生を変える枕」

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…ピピピッ、ピピピッ



「なんだ、もう朝か。」



あぁ、今日もひどく眠い。



重たい身体をなんとか持ち上げ、

いつものように洗面所に向かう。



昨日の夕飯の食器が目の端に見えたが、

朝の僕にはそんな奴にかまう暇はない。



仕事に間に合うギリギリの時間に起き、

トップスピードで朝のルーティーンを終える。

今朝は自己ベストを更新する勢いだった。



ここ数日は毎朝そんな感じ。

いや、ここ数年かもしれない。



毎日憂鬱な朝の時間は、

毎晩スマートフォンに捧げる時間の代償

ということは頭では理解している。


「朝は後悔するんだけど、夜には不思議と忘れちゃうんだよなぁ。」

独り言をつぶやき、この虚しさを昇華した。







満員電車に揺られて職場に向かう。


“人生の本番は睡眠!毎晩どっぷり夢の中でお過ごし下さい!”


半開きの眠い目を狙い撃ちするような

広告が目に入ってきた。


"人生を変える枕【ドリームピロー】"



「枕だけ変えて人生変わるもんかね?」


そんなツッコミを心の中で唱えたところで

上司から仕事のチャットが入り、

本日二度目の目覚めとなった。






平日は毎晩動画三昧、

週末は遊びの予定でいっぱい。


そんな僕が圧倒的な仕事のパフォーマンスを

維持できるはずもなかった。


寝不足で頭に膜が張ったような日々。


仕事のパフォーマンスは上げたいけれど、

毎晩の至福の時間も削り難い。


「楽して効率的な睡眠ができればいいのになぁ。」



いつも間にか僕は"ドリームピロー"を購入していた。







「いやー、この枕にしてからさ、毎朝スッキリ目覚められるようになったよ!おかげで仕事も絶好調さ!お前も買ってみ!絶対後悔しないから!」


"ドリームピロー"を購入して数日後、

飲み会で職場の同期に僕は意気揚々と話していた。


「確かに睡眠が大事なのはわかるよ。職場での集中力も変わったのは俺から見てもわかるわ。でも枕だけでそんなに変わるかな?」


「俺も最初はそう思ってたよ?でもさ、なんでも試してみるもんだな。本当に人生変わっちゃったよ。おまけに毎晩見る夢が最高でさ。」


「夢の話は勘弁してくれ。お前の夢といえば、どーせアニメやらアイドルの夢だろ?」


「あのなぁ、アニメもアイドルも上質なエンターテイメントだぞ?その世界に入れるなんて素晴らしいと思わないか?こんな話は永遠に......」








それから僕は、ずっと幸せな夢を見ていられるようになった。


夢の中ではなんでも出来る。


あの枕のおかげだ。


あの枕は、本当に人生を変えてくれた。









「あ、あいつが言ってた枕、これか。ん、大丈夫かな?」



“人生の本番は睡眠!毎晩どっぷり夢の中でお過ごし下さい!

人生を変える枕【ドリームピロー】

◎注意:夢から出られなくなることをご了承の上、ご購入ください。"


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