目も当てられない

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2024/08/19

私たち、今週の月曜日はお部屋の中で気まぐれにチュウをしてた。生まれたままの姿。ふわふわの布団にくるまって、近づいたり離れたり、時々ぴったりくっついたり。全面ガラス張りの入り口は燦々と陽の光を部屋の中に誘うけど、たくさんの緑に隠されて私たちは誰にも見つからない。生まれたての私たち。華奢な骨格と薄い体があいまって少年のように見える。 私の左手首に巻き付いた華奢なバングルは26歳になった日から一度も離れずそばにいる。アレが欲しいコレは嫌だと言い散らかした私の言葉を残らず拾い集めて私

    • AM06:10

      近頃の湿気は私の思考回路を曇らせて、ねっとりとした糸をひきながら私の体にまとわりつく。前髪がおでこにへばりついて気持ち悪い。全身から吹き出たじっとりした汗は胸にお腹に背中に太ももに、くまなく服を癒着させる。化粧はとうに溶けた。ぼろぼろでろでろ液状化人間の私は前に進む。進まねばならない、這いずってでも。なぜならばそれすらできない人間には価値がないので。職なし、希望なし、未来なし。25歳。 倉橋ヨエコのアンドーナツを聴きながら何とか辿り着いた学校。ずるずると足を引き摺りながら座席

      • 悲しかったことを悲しいと思わなくなることが悲しい

        あんまりにもあっさりと剥がれたものだから、なんだか間抜けで笑いが漏れた。 畳んだベッドカバーを棚に入れようとしただけでジェルネイルが剥がれた。とてつもなく、あっさりと。マルっと剥がれた爪の抜け殻は1枚レイヤーを余分に持ってったみたいで、撫でる指の腹にザリザリと感触を残す。洗い物の時、ゴム手袋をつけなきゃなあ。ウニウニしてて苦手なのに。でも、つける。しょうがない。だって薄い爪、割れやすいんだもん。なんで幸せそうな女は揃いも揃ってふっくらとした白い手に桃色の爪がついてんだ。しょ

        • 気がつくまではここにいるね

          あの人としたはじめまして、の記憶がおもしろいほどすっぽりない私は、上京祝いとお詫びを兼ねて、銀色のカンカンがとってもかわいいお香を買った。おぼろげな記憶を頼りにして選んだ香りはウッディなやつ。大変失礼な自覚はあるけど、なんと顔も覚えてなかった。ただ、ものすごくいい匂いだった事と、女の子なんだから気をつけなきゃと、わりとシッカリめに注意してくれた事、はなんとなく覚えてる。なんとなくしか覚えてないの、ヤバい。申し訳ないことをした。もう2度と会わないだろうし、贈るのは消えモノがいい

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        記事

          同棲解消・風俗・殴打

          -2024/01/27 同じ家で過ごして、同じベッドで眠り、同じごはんを食べる。寝食を共にする。1ヶ月もすれば他人になる人間と。当たり前に配慮してくれてた部分がスコンと抜け落ちた、恋人だった人間と。 私と別れてから、あの人が誰かの為に使った真夜中は実に数回。朝日を背負って帰ってきたコートは、BURBERRYのHER EAU DE TOILETTEのにおい。それと、もう冬も終わるのに、ベットリとへばりついた甘すぎるバニラ。が、かすかに。センスねぇな。朝帰りのときは決まって香水の

          同棲解消・風俗・殴打

          ママ

          ほっそりとした体に、ころころと鈴が鳴るような可愛らしい声、同性をイライラさせる甘えた口ぶり。小さな顔には、全てのパーツがキュッとお行儀よく並んでいる。不幸を背負って立つような生き様で、どう足掻いてもどう転んでも幸せにならない道を選んでしまう私のママ。誰がどう見ても美しい、私のママ。いつも泣いてるママは、不気味なくらい綺麗だ。

          負けブスの遠吠え

          非常に個性的な顔に産まれた私には、人並みはずれて美しい母と、頭ひとつ飛び抜けて美しい姉がいる。 母は、授業参観とかあるたびに注目を集めて、あれ誰のお母さん?ってクラスをざわつかせた。同級生が話題にあげる、"あの美人なお母さん"は、私の母のことだった。アレからコレが?みたいな目線が、本当に辛かった。 姉は、中高大すべてのミスなんちゃらに選ばれた。姉が美人だと自覚したエピソードとして1番身に覚えがあるのは、高校時代に姉とのツーショットをSNSに載せた時、あれだれ!?って聞かれま

          負けブスの遠吠え

          2023/12/16 京都・モーモールルギャバンを見て

          東京から京都まで1人で行くのは、実に初めての経験で。1人で乗る新幹線は出張で何度も経験してるからもう随分慣れているはずなのに、頭も体も信じられないくらい重い。きっと、寝不足のせいだけじゃない。 モーモールルギャバンのライブに向かっていた。 元恋人と行くはずだった。 私と元恋人は音楽の趣味が面白くらいあわなくて、同棲中の部屋に流れるのは決まって私が好きな音楽だった。耳馴染みのない音を聞くのは苦手だ。元恋人が好きな音楽は部屋に流れない。流させない。いくつも我慢してもらっていた

          2023/12/16 京都・モーモールルギャバンを見て

          2023/12/06

          ひんやりと透き通った空気の中、布団に縮こまる。暖房は苦手だ。乾燥するんだもん。眠ることを諦めて、ぼんやりと天井を眺め始めたのは、きっと大分前で。いい加減うえを向くことに飽きて目線を下げた眼球は、狭いくせによそよそしい、殺風景な6畳一間を捉える。何もかもが呼吸を止めたような部屋。底冷えしたフローリングはやけに冷たかった。随分前に、そろそろ眠らなきゃまずいな、ってベッドに向かった素足が、未だにシトシトと足跡を残しているような気がする。唯一鼓動を続けるのは、点滅するWi-Fiの青い

          故・同棲

          着替え、パジャマ、下着、靴下。いつも飲んでるサプリに歯ブラシ、あわだてネット、洗顔、歯磨き粉。会社のパソコンに個人のパソコン、マウス、充電器。 なるべく最低限に、ってまとめたはずの荷物は、ベッドの上に並べると思いのほかドッサリとした印象で。人ひとりが生きる上で抱えるモノの多さに改めてうんざりした。 ラベンダー色が好きなことは高校生の時から変わらない。修学旅行のために買った、当時としては無駄に大きかったスーツケースは、やっぱり私の大好きな色で。いつもなら、日常で使わないモノた

          好きな人のことを、その人が聞いたことがない言葉で褒めたい

          好きな人のことを、その人が聞いたことがない言葉で褒めたい

          えがたい男友達

          何をどう足掻いたって女という生き物である私は、男という生き物と本当の意味で仲良くなる場合、大方は部屋のコンセントが、PCの配線がぐちゃぐちゃで、床には埃が溜まっていて、本棚には雑然としたよくわからない漫画が突っ込まれている必要があると思う。 マンションのフロントオートロックは少し親しくなった友人ならば大抵解錠番号を知っていて、もはや意味をなしていない。開けっぱなしの玄関ドアは信じられないくらい無防備で、扉を開くと、高い靴も安い靴も関係なく所狭しと積み上げられている。 天井まで

          えがたい男友達

          元恋人と、私を初めて組み敷いた人についての思い出

          毎週顔を出していた二丁目も随分と疎遠になった。ワイワイと賑わう人が眩しかった鳥居も、ハロウィン時期限定のパフェが楽しみだったココロカフェも、店子さん仲間とお通しを買いに走った100円ローソンも、最後にいつ行ったのか思い出せないくらい、記憶が遠い。 レズビアンバーの空気は、薄いオレンジの甘ったるい靄が常にかかっているようだ。誰も彼もが上気していて、歩き方がふわふわしている。ここに来る人はきっと、甘い薄いオレンジの靄を吸いにきてるんだな。そう思っていた。テーブルの陰で絡まる細い指

          元恋人と、私を初めて組み敷いた人についての思い出

          すぐ私に好きって言えちゃうのは正直舐めてるよね

          会ってすぐに好きって言われるの、正直舐められてる気しかしない。簡単で、お手軽そうで、インスタントっぽいから、とりあえず"好き"って言ってみてるだけなんでしょ。ちがう?ていうか実際、私もそういう"好き"を言ったことがあるし。端的に言えば自分が寂しいんでしょ、誰かそばにいて欲しいんでしょ、肌の暖かさが欲しいんでしょ。そんで、それは誰でもいいんでしょ。だって人のことを本当に好きだったら相手に嫌われるのも怖いはずだし、そしたら軽率に好きなんて言わないはずじゃん?ちゃんと相手のことを知

          すぐ私に好きって言えちゃうのは正直舐めてるよね

          誰かを盲信するということ

          私が盲目的に信仰している存在と出会ったのは8年と少し前。正確に言えば、2015年の7月30日、渋谷のライブハウス。下手側の最前列に体を捩じ込んで、こりゃあなんだかわからないけどすごいものに出会っちゃった気がする、と思いながら、必死に動画を撮った。モッシュでもみくちゃにされながら撮った動画は、誰が何だかわからないくらいブレブレだったけど。いまでも私の携帯のアルバムの中にある。 そのバンドはあっという間に解散してしまって、残ったのは、しつこくしつこくその人のSNSを追いかける私

          誰かを盲信するということ

          2023/09/26

          1998年の8月生まれ25歳の私は、3回くらい上司に嫌味を言われながらフルリモートに移行した私は、考えすぎですっかりシワシワになった脳みそを隠すように、2回、髪の毛をブリーチした。色を抜いた前髪は長くてもあんまりうっとおしくない。文字通り、目の前をサラサラと横切る髪の毛が、私の世界だけ不透明度20%のきいろいレイヤーを重ねる。 私と同じく25歳の恋人の寝息を聞いた回数は、きっとリアルに800回くらい。熟睡すると、何かを咀嚼するみたいに、歯をガチッ!ガチッ!っと、心配になるく