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東京タワー

東京タワーが好きだ、という五百文字くらいの恋文を書いて、東京タワーのメールアドレスに送ったら、東京タワーへのチケットが二枚贈られてきたことがある。僕はその二枚を、当時の恋人に、厳密には、恋人のように慕っていた女性に手紙と一緒に差し渡した。そうしてその女性はチケットを二枚とも失くした。僕らはそれから、いつでも行こうと思えば行けるのに、何年も東京タワーに行かなかった。僕にとって東京タワーは、人生で初めてデートをした場所であり、夜とか雨とか憎悪とか比喩とか、そういうものを幾十年も浴び続けた絶望の象徴であり、この世で最も陳腐で愛おしい、宝石のようなものだ。

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