色鮮やかなニナ・ハーゲンに首ったけ
ニナ・ハーゲンの曲を初めて聴いたのは、学生時代に観た映画『ヘルター・スケルター』だった。映画冒頭、主人公が全身に巻かれた包帯をほどいて、整形によって美しくなった自分と対面するシーン。高らかに歌い上げられるその曲は、オペラだとばかり思っていた。
ヘルタースケルターの音楽担当は、戸川純とのユニット『ゲルニカ』や、キューピーたらこパスタのCM曲(た〜らこ〜た〜らこ〜ってやつ)で有名な上野耕史氏。80年代の、いわゆるニュー・ウェイヴの時代から活躍する音楽家だ。
小生意気な高校生だった私は、やっぱり上野さんの選曲センスは素敵〜と思いつつ映画館から帰宅。その後、YouTubeで「ヘルタースケルター 音楽」と検索したら、すんごい化粧の女性が出てきて仰天した。画質と照明も相まって、当時流行っていたレディーガガなんて目じゃないほどの強烈さ。その女性こそニナ・ハーゲンだった。
東ドイツ出身、社会主義体制を敷いていた同国から亡命し、パンクの母となったニナはとにかく予想外。
亡命前の東ドイツ時代、アイドル女優的な売り方をされていた時の彼女の写真がこれだ。まるで矢沢あいの書く少女漫画から抜け出たような可憐さ。
東ドイツ時代のニナの代表曲『Du hast den farbfilm Vergessen(カラーフィルムを忘れたのね)』は聴いたことがある人も多いかもしれない。ラブソングに体制批判をしのばせたこの曲は、当時多くの人の共感を呼んだ。
『Du hast den farbfilm Vergessen』の歌唱風景を亡命前後でミックスした動画がある。顔が変わったわけではないので、薄いメイクだと面影はバッチリ残っている。メイクやファッションは美醜ではない、自己表現だと言うことをニナは教えてくれる。
私のお気に入りの一曲が1982年発表の「African Reggae」だ。
時代を感じさせるエレクトロニクスサウンド(って言うのかな)に、ちょっとヨーデル調も入ったこの曲。どこら辺がレゲエなのかは分からないが、曲の感じが好きなのでヘビロテしていた。
ニナの歌詞は基本的にはドイツ語なのだが、この曲は途中英語が入る。意味をもっと知りたくて、歌詞を全部翻訳にかけてみた。その1部が以下だ。
<自主規制>部分はぜひ調べてみてほしい。白人歌手によるこの手の歌詞は現代ならアウトな気がする。当時も、大衆に受け入れられているわけではなかったようだ。(パンクってそう言うものか)フランスのテレビ局に出演した際の映像が残っているが、おじさん達のドン引き顔と、パンクに振る舞うニナの対比がシュールすぎて何度も見てしまう。
ヒマラヤを第二の故郷と公言するニナは、「月間ムー」に出てきそうな発言を繰り返し、ついでに結婚と離婚も繰り返しながら、67歳の今も現役バリバリだ。音楽学校仕込みの技術と深い人生経験に培われた歌声はいつも胸を打つ。
ちなみに、ジブリの名作『千と千尋の神隠し』のドイツ語吹き替え版では、ニナは湯婆婆を演じている。ピッタリすぎて笑った。
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