とっておきの美術館 in 福岡県
福岡県にある魅力的な美術館を紹介します。掲載は開館年順。
タイヤメーカー生みの親が郷里に寄贈、久留米市美術館
ブリヂストンの創業者・石橋正二郎が久留米市に寄贈する形で1956年に石橋美術館として開館。管理団体の方針転換を受け、所蔵品の入れ替えを経て2016年に久留米市美術館(Kurume City Art Meseum)として開館。
久留米市の文化芸術の発信・創造の拠点として発展していくように、
「とき・ひと・美をむすぶ美術館」
というビジョンを掲げています。
青木繁や坂本繁二郎ら、久留米市出身の優れた洋画家たちを中心とした九州洋画のコレクションを形成しています。移築復元された坂本繁二郎のアトリエも見どころ。
コレクションは約1万点、福岡県立美術館
1964年に美術館と図書館の複合施設として福岡県立文化会館が開館、1985年に美術館が独立して福岡県立美術館(Fukuoka Prefectural Museum of Art)となりました。福岡市地下鉄天神駅から徒歩10分、須崎公園内に位置します。
近世から近現代にわたる幅広いジャンルの美術資料を約1万点所蔵。次の3つがコレクションの特徴です。
日本の近代洋画:約140点に及ぶ国内随一の髙島野十郎作品をはじめとした福岡にゆかりある作家の作品。
尾形家絵画資料:江戸時代、黒田藩に絵師として仕えた尾形家において代々引き継がれてきた約4,700点の粉本(模写、下絵等)。福岡県指定文化財。
工芸:博多織や久留米絣などの染織、上野焼や小石原焼に代表される陶芸など福岡県内の工芸。
館内4階には開館以来収集されている全国の展覧会図録、美術に関する図書、最新の美術雑誌など約4万冊が閲覧できる美術図書館があり、アーカイブには力を入れ続けています。その一方で2010年にTwitterアカウントを開設、2021年には福岡県立美術館の作品をウェブ上で楽しめるどこでもケンビを開設するなど時代に応じた取り組みも行われている美術館という印象です。
大濠公園への県立美術館移転を2020年1月に当時の県知事・小川洋が発表しました。元々、美術館としての建物ではないため展示や作品の搬出入に支障があること、老朽化による温湿度の安定性への懸念などが背景にあるようです。大濠公園には福岡市美術館があり、市美術館と県立美術館のコラボレーションによって東京の上野や京都の岡崎、石川の金沢城公園のような文化地区に育っていけば……と夢が膨らみます。
今の県立美術館の建物自体は2014年に耐震工事されていて、移転後も活用する想定とのこと。古さは否めませんが素敵な空間なので、壊さず残していくのは嬉しいです。
国内でボランティア初導入、北九州市立美術館
1963年に5市が合併して誕生した北九州市は1978年まで九州で最多の推定人口を誇っていました。成長真っ只中の1974年、西日本における公立美術館の先駆けとして設立された北九州市立美術館(Kitakyushu Municipal Museum of Art)。
小倉、戸畑、八幡にまたがる美術の森公園の丘の上、双眼鏡のようなユニークな外観は磯崎新デザインです。
美術館2階にあるカフェ・ミュゼは大窓から響灘と市街を一望できる素敵な空間。
「市民の生活に潤いと心の豊かさを創出し、地域とともに成長していく美術館」
を基本理念として掲げるこの美術館は、開館と同時に全国で初のボランティア制度を導入し、来館者に対する作品解説や教育普及活動を推進しています。
2003年に開設された分館は小倉城に隣接するリバーウォーク北九州の4・5階にあり、アートをより身近に感じられる都市型ギャラリーとして位置付けられています。
年会費2,000円(2021年9月現在)の友の会はコレクション展が無料、企画展が半額、カフェ・ミュゼでの飲食10%割引などの特典があります。北九州市立美術館に通いたい方、北九州市近郊に住んでいて美術館に行くきっかけがほしい方にはおすすめです。
ミロ、ウォーホル、ダリに出会う、福岡市立美術館
1979年に開館した福岡市美術館(Fukuoka Art Museum)は、都心に近く水と緑に恵まれた大濠公園にあり市民の憩いの場となっています。建築は東京文化会館や岡山県庁舎などを手掛けた前川國男。磁器質タイルの赤茶色の外観が特徴的です。
旧福岡藩主黒田家や薬王密寺東光院から寄贈を受けた茶道具、仏教美術のほか、九州出身の近代洋画家、ミロ、ダリ、ウォーホルをはじめとする20世紀の作家の作品、さらには現代美術作品と幅広いコレクション(福岡市美術館のコレクション)で、その数は約16,000点に達します。
かつては、国宝の金印や大身槍 名物「日本号」も収蔵されていましたが、1990年の福岡市博物館開館に伴い、移管されました。
ホームページの見やすさも素晴らしいのですが、ホームページ上で学芸員個々の経歴も紹介されているのは公立の美術館としては珍しいのでは?と思います。この方がこの企画を主導で手掛けているのかな……などと妄想させてくれる仕様、好きです。
「福岡市美術館は、人が美術を通して交流し、未来を創造する場となります。」
開館40周年となる2019年に大規模リニューアルを果たした福岡市美術館は、ミッションステートメントとしてこの言葉を掲げています。
さかのぼれば、1972年に当時の福岡市長・阿部源蔵が美術館建設を意向表明した時点から美術館が具体的な構想となっていくのですが、この1972年は福岡市が政令指定都市となった年でもあります。政令指定都市でトップの人口増加数を誇る福岡市ですが、その躍進の秘密はこの美術館にもあるのかも?
アジア近現代美術の唯一の専門館、福岡アジア美術館
1999年、アジアの近現代美術を収集し展示する美術館として開館した福岡アジア美術館(Fukuoka Asian Art Museum)。20周年を迎えた2019年には開館以来の観覧者が500万人を超えました。
古代からアジア文化の受容口だった福岡。先述の福岡市美術館では開館当初からおよそ5年ごとに「アジア美術展」が開催され、アジア美術のコレクションが築かれていました。福岡アジア美術館はこのコレクションを礎に、西洋近代の価値観でつくられた従来の「美術」の枠にとらわれない、アジア美術の独自性や固有の美意識を示す作品を収集しています。アジア23ヶ国・地域の多様なジャンルの作品を網羅する約4000点(2021年現在)のコレクションは、質・量ともに世界でも類をみないユニークなものです。
開館時からレジデンス事業も手掛けています。アジア各地で活躍する美術作家や研究者・学芸員等を招き、滞在制作、研究やワークショップ、展覧会、講演会など美術交流をおこなっています。アジアにおける交流拠点都市を目指す福岡市ならではの美術館ですね。
基本理念として、
アジアとの交流拠点、福岡
世界に唯一、アジアの近現代美術の専門館
創造・発信する交流の場
「まち」の中のライブな美術館
の4つを掲げています。
館内のオープンスペースにあるアートカフェには、国内外のアジア・アート・旅に関する約1 万冊の書籍が国別やテーマ別に並べられていて、アートもカフェも本も楽しめてしまう心地良い空間となっています。そんな福岡アジア美術館は福岡市地下鉄中洲川端駅の6番出口からすぐ、とアクセスもとても良好。
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福岡県内の美術館をこのように書き出してみただけでも、館内で過ごした豊かな時間が思い起こされて幸せな気持ちになれます。年代順にしてみると、県庁所在地の福岡市よりも久留米市や北九州市での美術館開設が早かったことにも気付けて、意外でもあり納得もできるような。
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