立体音響でのサウンドスケープのすすめ。
「凪の海を作りたいと思った。」
サウンドスケープとは、音でみる世界の風景のこと。
私事の話になりますが休職レベルで心身ともに疲れてしまい
何もかも嫌になってしまった時期がありました。
そんな時、訪れた笹川流れの碁石海岸。
荒々しい日本海のイメージとは裏腹に
波の律動
岩に砕ける水しぶき
泡の繊細な音色など
穏やかな海のサウンドスケープに心の底から安らぎを感じました。
しかし都会の喧騒、店舗のBGM、ワイドショーの音、周りの余計な音もまたサウンドスケープの情景といえます。
そんな不用意に急かされるノイズをマスキングして、心から安心できる音像を再現したい。
さらにいえば、そこに僕の大好きな場所の海を持っていきたい。
思い立ってバイノーラルマイク（詳細は後述）とフィールドレコーディング用のマイクを用いて
何日も何時間もその瞬間を捉える挑戦がここからスタートしました。
さらに海や非日常の音を再現するべく複数本のスピーカーを用いる調整を追究しました。
”聴く”のでなく”体感する”までの空間演出をより身近に、より没入できるようにしたのが
「海を聴くということ。」というサウンドスケープ企画です。
得られるもの科学と音楽療法が示す
音響体験の可能性
正しい音 × 安心 ＝ サウンドスケープ
実際にサウンドスケープの概念を用いて得られる恩恵の一例です。
環境音に限らず、シチュエーションに噛み合ったのBGM選曲、解像度の高いスピーカーの組み合わせでも恩恵を高めることができます。
逆にその組み合わせに齟齬があり、音が悪い、違和感があるなどのちょっとした変化で恩恵は失われるどころかマイナスに作用してしまいます。
下記の例を読みつつ、自分が安心できるシチュエーションを想像してみてください。
この空間演出がない場合の居心地の悪さも想像しやすいと思います。
身近で感じにくい音の影響はけしてバカにできないものなのです。
滞在時間のコントロール：待合室など、不安になりやすい場所をより落ち着いた空間にできます。
不要なノイズのマスキングを行うことで「ここにいて良いんだ」という安心感を演出します。
知覚の再調整: 不要な環境ノイズから解放され、感覚が洗礼され、リラックス効果を高めます。
注意の転換: 海の音に意識を向けることで、一時的にネガティブな反芻思考を抑えます。
時間感覚の変容:思考の 忙しさから解放され、自分と向き合う贅沢な時間を提供できます。比較的ローコストで高級な空間演出が可能です。
認知症患者のケア: 患者が育った時代の音や思い出の音楽を用いることで、記憶の喚起や感情の安定を図ります
システム概要と制作プロセス。
具体的なサラウンドシステムとしては以下のようなプロセスでの制作になります。
１．フィールドレコーディング
海などの環境音をバイノーラルマイク（立体音響で収音するマイク）で全体の要となる
一番心地よい環境の場所で収音します。
そのほかにもフィールドレコーディングようのマイクで、その場所の細かな面白い音、特徴的な音を収音します。
2．編集
そのまま再生するだけでは不要な音が入ったり、小さな音を再現できないため編集作業を行います。
実際の音像を再現するため、また一番心地の良い瞬間を継続的に再現するための加工を行います。
ほかにも立体感をより強調するべく収音した特徴的な音などをサラウンド的に各方向に散りばめます。
3.設営
基本的には5.1chのサラウンドで最小で４本のスピーカーで再現できるように調整しています。
空間は正方形の空間が理想ではありますが、実際の海の環境も各施設もそのようなことはありません。
各会場にあったスピーカー配置、チューニングを行うことでお客様の座る場所ごとで差異の少ない空間演出を行います。
好きな音・空間を作る付加価値について。
先述の通り、僕は「凪の海を作りたい。」と思いました。
それは憔悴した心の癒しでもありましたが
時間的な贅沢を体感する気付きでもありました。
レコーディング中では穏やかで風も少ない”凪の波の音”
これが年間で何日あるのか、その日の中で何分続くのか。
そんなランダマイズされた時間のなかで切り出した希少な時間でもあります。
そして、笹川流れの碁石海岸という環境。
これもまた不滅の環境というわけではありません、波にもまれた砂利は年々と小さくなり
いつかは他と変わらない砂の海岸へと変化していきます。
波の律動
岩に砕ける水しぶき
泡の繊細な音色など
これらを余すところなく再現して保管していく。
映像とも違う体感できる新しい情報としての保存のカタチであり
その希少な情報をたくさんの人と共有する技術だと思っています。
海に限らず、雨季の林道の空気感、湖の白鳥に囲まれた音など
あらゆるシチュエーションでレコーディングを行っており
癒しだけではなく、普段味わえない非日常的な自然音。
また、没入感を活用した物語の美術展示など様々な分野で技術提供しています。
以下導入・活用事例
店舗BGMとして
美術作品の楽曲提供