感想:素晴らしき日々 〜不連続存在〜【ネタバレ注意】
ある日オタクの家に遊びに行くと、帰りにこのエロゲを渡されました。パッケージ版で。
名作だという話だけ聞いていたので気にはなっていたのですが、箱で渡されたのがおもしろすぎてそこでプレイを決めました。
そんなわけでひとまず完走しましたので、思ったことをつらつら書いていこうかと思います。
当方考察系のコンテンツが得意ではないので、そういったものを期待してる人にはがっかりされちゃうかもしれません。またちょうど1周した状態での感想(各シーンを見返して感想を思い出していたから実質2周分かも)なので、そもそも細部への理解が足りていない可能性が高いです。お手柔らかにどうぞ。
※記事タイトルにも書いてますが、ネタバレ注意です!具体的な内容に触れてますので、それでも平気な方のみ続きを読んでください。
序章 “Down the Rabbit-Hole”
・考察ゲーだと腹を決めて挑み始めたため、ここはわからない部分があっても後に説明があるだろう、伏線ばら撒きパートなんだろうという前提のもとで進んでいました。特に『終ノ空』と題されたお化け屋敷のところなんかてんで意味がわかりませんでしたが、どうやら本作がその『終ノ空』に対するアンサーのような作品みたいなのでファンサービスか何か、もしくはこの先明確に回収される展開なんだろうと思いました。
・プレイしながらの感想だと、「下調べせずにプレイしてるから知らなかっただけで、これって実は百合ゲーだったの?」というのが大きかったです。だって全裸で王様ゲームとか始めるし・・・司と鏡のルートそれぞれ用意されてるし・・・。
・シリアスパートで言うと、ざくろから語られる"空の少女""世界少女""世界の限界"といったキーワードを主軸とした話は、「きたきた、セカイ系の話だ!」とかなりワクワクしました。自分は考察系の作品にそこまで触れておらず、得意でない自負があることもあって本作に自分がハマると考えていませんでしたが、かなりの評価を得ているという意味で「エロゲらしさ」を吸収できるんじゃないかと予想していた側面もあったので、その期待を膨らませてくれる展開でした。
さらに、この序章が序章であると察せられる終盤。ここで見ている世界は現実世界ではないと明示されます。そして『銀河鉄道の夜』になぞらえて進むストーリー。オタクならここでテンション上がらないわけがない!私『銀河鉄道の夜』読んだことないんだけど!
・何よりオチが良かったです。この夢オチで始まる系の物語、もっと摂取したい!夢オチENDについてはかなり賛否の分かれるところだと思いますが、夢オチで始まる話と聞いたらなんだかワクワクしませんか?これまでにやりとりしていた登場人物たちは実際に会話していたわけではなかったということなので、現実世界ではどういうことになるんだろうという期待でいっぱいでした。
1章 “Down the Rabbit-HoleⅡ”
・え?怖くない・・・?ホラー要素のあるゲームだとは微塵も聞いていなかったんですが??私はホラーは苦手なんですが???
特に家の中に得体のしれないモノを認識するシーンと背負っていたはずの鏡がウサギのぬいぐるみだったと判明するシーン。怖すぎるだろ。前者は何の予備動作も伏線もなく家にいるってところが怖いし、後者は序章からの付き合いである鏡が!?というシーン。由岐がおかしくなったってことか・・・?もしくは今までの認識が間違ってた・・・?といった感じで急に先の見えない展開になったなと感じました。
ただ謎を明かしていこうというミステリ的な進行だったのでそこは楽しむことができました。だからこそ時折挟まるホラー展開に泣きそうになったんですが・・・。
・終盤の鏡の顛末については衝撃の一言です。これまでに幾度か人の死に触れていたわけで、これまで物語の中枢に"世界の終わり"があったので何が起きてもおかしくないとは思いましたが、こんなにも語り部である由岐が道中を見守ることもできず結末にのみ触れることになるとは思いませんでした。鏡はツインテールで好きだったから普通に悲しかった・・・。
・すべてプレイした今振り返ると、序章以上に設定や布石を撒きつつ序章からの予想を空回りさせる意図だったのかなと。空回りさせないでくれ。ここでそれっぽいサブキャラを匂わせる人物もいろいろ登場するのですが、全部がブラフ!草!
ていうか後からもう一度読むと、彩名さんの言葉意味深ですね・・・。
・這い寄る混沌についてもここで既に触れられていますが、そこではまだ明確にクトゥルフ神話を採用したものとは思わず、ただ似たような要素があったから引用したに過ぎないんだなと考えていた記憶があります。ただ、この章が終わってエンドロールが流れる、その後・・・。世界の終わりを匂わせる空の禍々しい球体に一つ目が浮かび上がるのを見て、「もしかしてこれってマジなやつ?」という認識になりました。
2章 “It's my own Invention”
・まず、第1章のあの終わりを経てこの始まりに非常に驚きました。第2章の語り部は、1章で黒幕だとされた間宮卓司だということに。つまり間宮は真の黒幕ではない?もしくは途中で豹変する、あの後の話はこの章で語られない?とか考えていた記憶があります。
・そう思いながら読み進めていくとすぐにわかります。ああこいつは異常者だと。初めて話す女の子とのやり取りの途中で急に文脈を無視してぶっ飛んだ方向にえっちな妄想を広げていくんです。「電波ゲーってこういうもんだよ」って教えてくれてるのかと思うくらいに支離滅裂な思考。これを経てこの章では語り部の間宮卓司くんがここよりもどんどん狂っていって、やがて1章中盤以降のような"悟り"を手にする過程が描かれていくんだな、と予想しました。
・実際その予想は大きく間違ってはいなかったのですが、想定したより電波でした。そしてあまりにもクトゥルフでした。ここをプレイしている間「クトゥルフは聞いてないよ~~~~~!!!!」と何度も言いましたねw
・あとはざくろちゃんが秘密基地を教えてもらったことで自分の秘密も言わないとフェアじゃないって話をしたくだり。卓司があまりに気持ち悪いっていうのももちろんあるんですが、「これってエロゲによくあるやつじゃないか!」って卓司が興奮してたのに対しては「ほんとにエロゲによくあるやつなの?」となりました。直後に本人が「エロゲだってもう少し必然性がある」と言っているので盛り上がった勢いで言ったことなんだなというのがわかりますが。
その後にパンツ見せろと言ってから「明言したからにはこの件を言いふらされないように絶対にここで"彼女からパンツを見せた"という状況に仕立て上げなければ」とか言ってるくだりは、自分の論理が正当化されすぎてて誇張抜きでキモかったです。これはまだ序盤も序盤なので、彼はこれくらい常軌を逸したキャラクターですよという提示なんだろうと思うので、そういう意味では正しい反応ではあるか。またここで見せられるシーンは卓司による妄想だということもわかり、1章中盤以降での"覚醒"に至るまでの下地となる人格が既にあるなぁ・・・と感じました。
ただ、その直後に壮絶ないじめを日常的に受けていることが判明し、実際にひどい暴力や過激な凌辱を受けるシーンも入るので、この歪んだ性格を形成するだけの経緯はあるんだなと思いました。このあたりは割とあっさり書かれているので、ひどいことをされているという事実だけを受け取るような形になってしまったのですが。
・その後は精神的恐怖を与えるようなシーンがてんこ盛りですが、元々壊滅的だった人間性がさらにがらがらと崩れていく様子が臨場感たっぷりに描かれます。エロゲでこんなに悲鳴を聞くの初めてだよ私・・・。あと机に興奮し、あまつさえ行為に及んだ人物を見るのも初めてです。
・「てけ・り」とか言ってた化物はクトゥルフ関連のやつですよね?(実際にはテケリ・リだったような気がしますが)1章の"ないあらとほてぷ"の話はもののたとえかと思ってたけど、これの前フリだったのかよ・・・!
・あと本章で卓司は本編中で眠ることをかなり象徴的に書かれています。このことから最初は覚醒後の卓司は元々存在していた別人格で、それが後半で顕在化するのだと考えていました。このへんは実際に回収される伏線ですね。
3章 “Looking-glass Insect”
・2章の語り部は意外でしたが、3章の語り部もまた意外でした。高島ざくろ、彼女は序章ではメインヒロインのような立場であり、ここが回収されるのは最後だと思ったからです。つまり、もっと見るべきクライマックスに繋がる要素がまだ隠されている?とちらっと思いながらストーリーを進めることとなります。
・しかし、彼女の性格が序章、1章とまるで違う。2章で登場した時と同じ、陰の濃い少女といった感じです。この作品は章ごとに視点が変わりますが、同じ時点からスタートするわけではないので時系列ではどの章が最初に来るのかということを考える必要があります。ざくろちゃんも卓司と同じで、どこかで"覚醒"したって可能性もあるのか?と思いながらプレイしていきます・・・が、ここもまぁ怖い。1章2章のようなホラー展開とは違い、精神的負荷を強いるような文脈のない怖さ。中盤以降登場する神様が意味不明すぎて心がジリジリと削れていくような感覚がありました。ビジュアルでいうと2章の神(リルルのお父さん)に接触する時に近いですね。
ただ、卓司の時とは違って狂っていく経緯が明確だったので(卓司は最初から狂ってたから、きっかけはあっても共感できなかった)、唐突すぎるという恐怖はありませんでした。むしろ心が闇に沈んでいく様子を丹念に書いていて、胸が痛かったです。
・ざくろが歪んだ方向に舵を取ることで物語は一気に加速し、そして1章、2章と同様に他2人を巻き込んでの飛び降り自殺という凄惨なラストへと着地・・・。
この章を見届けて思ったのは、彼女の結末に対する悲しみではなく、「ざくろは物語の鍵を握る人物ってわけじゃなかったの!?」ということでした。ここまでの時点で物語の歯車を動かしたキーパーソンであることは間違いないのですが、自分はてっきり彼女は何か真意があって意図的にそうしたものなのかと・・・。カゲプロのアヤノみたいな・・・。
そうなるとあの二人は(最初こそ自分達から接触したものの)本当に巻き込まれただけで、深堀りとかないってこと??そしてそうなるとこのお話は、苛烈な環境に置かれ続けて壊れてしまった二人の生徒から発生した事件ってこと??そうなると終ノ空が何だとか世界が何だとか、ここまで張られた伏線はその2人の解釈によって生み出されたようなもんで、いわゆる真相のようなものが隠されているってわけではないの??
といった、そんなクエスチョンマークだらけの感想を抱いたのがこの第3章でした。
・他にこの章でポイントとなるのは、おそらくですが「ざくろ視点では由岐が卓司に見えている」という点です。そして、本当の卓司と見える場面もある。由岐や司、鏡から見た視点とざくろから見えている人間像が違う、つまり視点によって見え方が変わっている人物がいそうだなと。
由岐の姿が見えるのは現状由岐視点である序章1章のみで、卓司の姿は卓司視点の2章以外の1章、3章でも他の人から視認できているシーンが確認できています。思うに、卓司の中にある別人格が由岐なのではないかという予想を立てました。この予想が正しいとしても、じゃあ由岐と卓司が互いを別人と認識しているのはなぜなのかとか、鏡と司は由岐を認識できているのはどういうことかとか、いくつかの疑問が残りますが、それがこの後回収されるということなのかなと思いました。
・あとは、本編との繋がりがわかっていなかった序章ですが、ここで同じ展開が登場することでここの時系列なのか、と気付きました。ただ冷静に考えるとこの推測はかなり怪しくて、現実では序章のように最終的に銀河鉄道に乗ったりはしないからです。伏線を回収しつつも新たな謎を植え込むようなシーンでした。
※総括部分で書く
そのターニングポイントでざくろを引き留めようとした音無彩名・・・これはプレイヤーの「そっちの道に進んでほしくない」という思いを反映させたのかな、と思いました。
4章 “Jabbarwocky”
・「え、こっからどうなんの?」という最後の3章でしたが、この章での語り部は悠木皆守。2章にて暴力の限りを尽くしているシーンを多数見せられた人なので、彼視点での展開が見れるというのは驚きました。
・3章で窺えた「由岐は卓司の別人格」説がありますが、皆守もまた別人格の1人なのではないかと思うところがありました。別人格同士である由岐の視点では皆守と一切接触していないということ、3章でざくろと会話している卓司が(たしか希実香ルート)ある時以降は皆守に似た語り口に見えることが理由だったのですが、果たしてそれは予想通りでした。思えば2章での皆守との最終決戦で、卓司は皆守が負った致命傷と同じものをもらっていましたね。
・この章を見る限りここからが種明かし編、真相編なんだなというくらい設定の開示が進んでいきます。薄々感じてはいましたが、鏡と司は現実の存在でなく、羽咲と彼女が常に携帯しているうさぎのぬいぐるみを認識を歪めて見ていること。卓司、皆守、由岐はそれぞれを別個に認識できるだけでなく、それぞれ異なる見た目で視界に捉えることができること(第三者からは卓司一人しか認識できない)。あくまで主人格は卓司であり、由岐と皆守の存在は曖昧なものであること。しかし卓司はどうやら自分が消えることを望んでいて、皆守は卓司を殺すための存在、由岐は卓司が死んだ後新たな主となるための存在であること。この人格分裂を起こしたきっかけとなる事件が羽咲をも巻き込む形で過去にあったこと。
・中でもポイントとなるのが、"新しい由岐"のこと。どうやら主人格を由岐に託す上で「元の由岐から記憶を切り離した新しい水上由岐」としての人格を形成しているようで、そして代わりに元々の由岐は消滅していく・・・。そして"新しい由岐"は人格分裂について無自覚であり、自分の意識が浮上するまえでの間に別の人格が起こした出来事は認識を歪めて整合性をとっているとのこと。
つまり、卓司は自分も含めると4つもの人格を内包していることになります。そりゃ第2章でめちゃくちゃ眠ってるわけだ。でなきゃ他の人格と交代できないよ。
・後半では2章でも描かれた卓司との最終決戦のために修行パートに入る皆守ですが、ここで体得する奥義もまた"認識の操作"。認識というのが本作の大きな要素のひとつだと改めて感じます。
・最終決戦の直前に皆守の口から語られた生の祝福と呪い、これも何やら作品のテーマに関わるものなのではないかと思いました。エピソードの挿入がかなり突然だったし。
・種明かし部分については基本「へ~」か「え、てことはどういうこと?」といった感想で、対してストーリー部分については思いの外少年漫画のように直情的な皆守にかなり感情移入できる章でした。少なくとも2章3章と比べると遥かにわかりやすいし共感できる。
・この章から本格的に登場する羽咲がめちゃくちゃかわいい!3章の終わりまではざくろを本作のメインヒロインと位置づけてプレイしていたところを心折られそうな気持ちだったんですが、この子の登場のおかげで新たなモチベーションとなりました。
メタ的に見ても前半となる3章まではざくろを追わせるような形で、それが済んでからは後半戦として真打ちとなる主人公格の皆守のメインヒロイン足り得る羽咲(もしくは由岐)を強調するという構図で、そういった意味では不自然ではないのかもしれない?
5章 “Which Dreamed It”
・4章からヒロインとしてにわかに存在感を上げてきた羽咲からの視点で進行するのが5章です。上で判明した卓司/由岐/皆守の多重人格について、4章では人格のひとつである皆守からの視点であったため視覚的にわかりやすく描写されていましたが、それが第三者からだと非常にわかりづらいものだというのが伝わりました。
・そして羽咲がなぜ主人格である卓司でなく皆守の方を慕っているのか、その理由の片鱗がわかりました。皆守と由岐は実在する人物で卓司の本名こそが皆守、卓司の方が故人であると。それがどういうわけか皆守の中に卓司と由岐の人格が宿っている状態なのだと。
・この章は新たに明かされた重要なシーンがあるというよりは、これまでの章を第三者から見た時の内容を見せてくれるとか、卓司/由岐/皆守の言動を羽咲がどう受け取ったかといった意味のものが大きいのかなと思いながらプレイしていました。
・4章終了時点より後には2章終盤にもあった鏡を惨殺する場面が出ましたが、ここは幸いにも責め苦を負うのは羽咲でなくうさぎのぬいぐるみだったので安心しました。ここまででどちらがどちらか明言されたところがあった気もしますが、もしここで羽咲が餌食になってたらブチギレ不可避でした。そして惨殺前の凌辱シーンは、うさぎのぬいぐるみとして見るとシュールなことこの上なかったですね。薬物を注入してラリった生徒の『射精の瞬間・・・・・・優勝・・・けってい・・・・・・』というセリフには笑いました。
・そしてこの後由岐がウサギのぬいぐるみ(1章では鏡の姿)を背負って変えるシーン、ここで語られた司の思い出話が羽咲の実際に経験した話に繋がっているとは思わなかったのでびっくりしました。あと冷静に考えたらこの由岐も体は卓司と同じなので、腹切られてここまで休みなしなのは本当に死ぬぞ?というハラハラした気持ちになりました。
・ここで彩名が"終ノ空"を「この世界の臨界点」「魂が何度もやり直すための地点」と言い表していますね。臨界点とはやはり生と死の境界だということ、魂が何度もやり直すとは輪廻のことを意味しているのかなと。
ただその後「出口を見つけないかぎり何度でもやり直す」と言っているのは、このゲームのエンディングとかセーブポイントとか、そうでなくてもターニングポイントといったメタ的な意味を含んだ言い回しなのではないかと後から思いました。
・最後に卓司が飛び降りる前、卓司は明確に羽咲のことを認識していましたが、これはどの人格がしゃべっているんでしょうか?1章の最後を見る限りでは卓司の人格だとは思うのですが、卓司は羽咲を認識できないはず・・・。
6章 “JabbarwockyⅡ”
・ついにきた回想編!皆守、由岐、羽咲、そして卓司を巻き込んだすべての騒動の発端となる事件が紐解かれるのがこの章。羽咲がかわいすぎる。
・卓司が今の卓司とは覚醒前とも覚醒後とも違うねっとり系悪役キャラなんだが・・・?このあたりの性格の乖離について何か解説あるのかなーと待っていたのですが、全END見てもありませんでした!!なんでないんだ!!
・これまでに示されていた事件の内容については、正直想像の範疇を超えることはなかった・・・というか、別にからくりを説明してくれたわけではないので今に繋がる重要な伏線回収があったとか、そういったことはほとんどなかったと思います。本当にただエピソードゼロが淡々と語られたようなもので、何らかの謎が明かされた感覚はありませんでした。なんですかこれは。
・「幸福に生きよ!」という考え方についてはすごく好きだなと思いました。神は人を救わないし、7日で世界を作ったりもしないけど、ただ人々の隣を歩いて「幸福に生きよ」と囁きかける・・・。END1でも同じ話がされている内容ですが、これはこのゲームが伝えたいメッセージのひとつなんじゃないかと。幸福に生きるとはなんぞやと考え始めると、その先に4章でも語られた生の祝福と呪いの話が登場してくるのですが、個人的にはあまり難しいことを考えずともこの言葉のパワーが気に入りました。
幸福に生きよ。うん、いい言葉ですね。
・話の展開以外にこの章はかなり重要な役割を持っています。エンディングの分岐です。実際の分岐は4章での選択肢が起点となっていますが、そこでとった選択がこの章の一部の展開、そして後に待ち受ける未来を変えるといった構成になっています。そのため、全エンディングを見た後で再度この章を始めからやると、どのエンディングに繋がる展開を見るかこの時点で選ぶことができるようになります。
選べるのは水上由岐(END1)、間宮羽咲(END2)、終ノ空Ⅱ(END3)、そして夢の中(序章)。ここに関して思うところがありますが、6章の話とは離れるので最後の総括で話そうかと。
END1 "素晴らしき日々"
自分は2周目でたどり着いたエンディングです。羽咲のことは作品内で一番好きといっていい広いんですが、このエンディングは羽咲と幸せになるエンディングのはずなのに羽咲にフォーカスされることがほとんどないし、メタな視点から情報を増やして引っ掻き回されたような気分になる後日談でした。元凶となる母親も根っからの悪人ではなく、ただ方向性が間違っていただけだという補足が入ったり、本編中の騒動を「何が世界の終わりだ」と完全否定したり、その上で「でもそんな馬鹿げたこともありふれたものなのかもしれない」と混ぜっ返される。この一幕が他人の著作を多分に引用しながら死生観、人生、存在、そして世界について話し合っているシーンなので、俯瞰視点で本編を振り返ったところよりもそこから作品のテーマに近しいところを語ることに意味があるのだとは思うのですが、意図的に物語を無意味化するような行為には夢オチエンドに似た脱力感を味わいました。私は羽咲が幸せになるところが見たいんだが?
これが羽咲エンドとされていることに私は意義を唱えたいです・・・。登場の割合で言ったら木村エンドだよ・・・。
END2 "向日葵の坂道"
最初にたどり着いたエンディングがこれ。ここまでのプレイで個別ルートは脇道でそれを避ける選択肢を選ぶことで本編が進む構成だということがわかっていたので、4章で羽咲エンドを先に見た後にもうひとつの選択肢が本命だとして進めたのですが、それがこのエンディングに繋がっていたというわけです。
そんなわけで特に意図もなく辿り着いたエンディングですが、これが一番ハッピーエンドの趣ですね。このエンディングを通るとタイトル画面が変わるので、ストーリー的にはこれがトゥルーエンドという扱いにされているのかなと思います。END1は、この作品のテーマとかメッセージを深堀りした位置づけとか?
END3 "終ノ空Ⅱ"
END1が作品のテーマについて、END2がストーリーについて決着をつけたとするなら、このENDは前作「終ノ空」に決着をつけるためのエンディングなのかなと。自分は終ノ空をプレイしたことがないのでどんな内容なのかも全く知らないのですが、この「素晴らしき日々」と何らかの繋がりがあるらしいということは調べて把握していました。初見時は前作キャラの再登場みたいなファンサービス程度の要素があるくらいかなと思っていたので、まず作中に「終ノ空」がキーワードとして使われていることに驚きましたし、こんな名前のエンディングが用意されていたのもびっくりです。
肝心の内容ですが、END1で感じた上から俯瞰視点で混ぜっ返しているような印象を、悪い意味でさらにその先をいかれたなあという感じでした。物語は一応の決着を見ましたが、プレイヤー視点で解消されていない謎や矛盾がいくつかあります。それを解決する強引な仮説のひとつが、「すべての存在が一つの魂から作られている」。ひとつの魂がすべての人物の視点を持っているとしたら、その時点で知るはずのないことを知っていても不思議ではない。そんなん言い出したら無限に言い訳できるじゃんという感想に「説明なんていくらでもつけられる」と開き直る解説役の彩名さん。
END1で語られた死生観や世界の限界とは違い、こちらは明確に物語の根本を揺るがすような提示です。これが電波ゲーの本領ってやつかぁ・・・。END1で思ったような夢オチエンド、いや夢かどうかすら明言されない分こちらの方がより悪質に感じます、個人的には。キャラの深堀りや背景描写が足りてないなと感じる箇所が随所で見られましたが、それはこの仮説に繋がるような引っ掛かりを作っていたのかな、と嫌な納得をしてしまいました。
また「すべての視点を1つの魂が持っている」とありましたが、プレイヤーの私達も全視点を持っていると言えますよね。メタだメタだとここまで言ってきましたが、実際にメタフィクションのような仕掛けが入っているのかな、と思いました。それで考えるなら彩名さんはプレイヤーを認識しているキャラということになりますね。ただ、そんな彩名さんも最後にはひとつの魂に収束されていく・・・。わけがわからない・・・。
総括
この総括部分で語りたいのは、主に2つ。"序章"と"終ノ空"についてです。
まずは序章から。これは本編ではどの時点で起きた出来事なのかという予想です。私は6章最後で皆守と羽咲が屋上から飛び降りた時点で見たものなんじゃないかと思っています。
理由としては、まず序章が頭を強く打ったことによってこの世界に来たものであるらしいこと。序章においては屋上から落ちるざくろにぶつかったとされていますが、この頭を打ったタイミングというのは、本編中ではこの屋上から落ちた時と、回想で卓司に落とされるのをかばって一緒に落ちた時しか存在しません(高所からの落下に限らないとするなら皆守に思いっきり殴られた時とかもありますが)。回想で落ちた時とするのは時系列的に自然ではありません。
他に、全ENDを見た後に6章を始めるとその後の展開を選ぶことができるという仕掛けがありましたが、その選択肢がエンディング3つと別に序章の夢の内容も入っているんです。ここでの選択肢は6章中もしくはその先のルートの数だけ用意されていると考えると、序章の夢は6章以降に起きた出来事だと推測することができます。
またこれは理由ではなくただの解釈なのですが、6章終盤で由岐が皆守に別れを告げるシーン、あそこでのやりとりから由岐は自分の自我が消滅するだろうと考えていることがわかります。ここはどのエンディングでも通る展開のはずですが、END2では少なくとも皆守と羽咲に存在を認識されています。これは、皆守に別れを告げた後皆守が屋上から落ちて頭を打ち、そこから夢の世界で銀河鉄道に乗り、光に包まれて目覚めることで現実世界に留まることができたのかな、と思うのです。
次に"終ノ空"について。自分もちょっとよくわかってないのですが、わかりやすく考えるなら終末の象徴ですよね。7月20日が世界終末の日とされていて、その日の終わりに見えるのが終ノ空。この終末に怯える人たちを救済しようというのが覚醒後の卓司の行動です。終末とはすなわち死。死を克服するために"空に還す"という行いを試みた、というのがこの一連の騒動。
END1で木村が言っているように「死から救われるために死のうってどういうこと?」と思いながらプレイしていましたが、ここで考える手がかりになるのが4章で語られた生の祝福と呪い。この生による祝福と呪いによって、人は死を恐怖する。そして恐怖とは、見えないから、認識できないから、経験できないから恐怖するのです。こちらも作中で(彩名だったかな?)によって言及されているものです。であれば、死を経験すれば人間の持つ絶望から解き放たれるのではないか。そういった思いからの"空に還す"だったのではないかな?と思いました。死から救われるためと先ほど書きましたが、正確には「死を認識することで死の恐怖から解き放たれるため」となります。
つまり、終ノ空とは認識できない死に触れる接点。もしくはもっと解釈を拡げて、認識できない物事との接点であり、自分に見える世界の臨界点と考えることもできるかもしれません。というか本編で自分の認識とか世界についての言及が散見されたことを考えると、後者の方がありえそうだなと個人的には思ってます。
蛇足ですが、この終ノ空と死について考えた時、エルデンリングのラニを思い出しました。『生命と魂が、律と共にあるとしても、それは遥かに遠くにあればよい 確かに見ることも、感じることも、信じることも、触れることも …すべて、できない方がよい』『はるか遠くに思うがよい 恐れを、迷いを、孤独を そして暗きに行く路を』とラニは語ります。死が取り除かれて生命の歪んでしまったエルデンリング世界に端を発したセリフなのですが、今回の話に似通った部分があるとは思いませんか?
おわりに
総括の後にあとがき!?と思われるかもしれませんが、こちらは考察というよりただの全体を振り返っての感想です!
全体を括って「こういう話だよ」と言うのは難しい作品だな、と思います。物語だけを取るなら「終ノ空を乗り越える話」みたいな感じと言えるかもしれませんが、そこに重きが置かれているような感じはあまりしません。
個人的な感想ですが、好きな作品ではなかったです。序盤の精神的恐怖なシーンがあったこともありますが、回収されない布石、意味ありげでいてその実意図を見いだせない展開、話を前提からひっくり返す示唆といった、無意味さや虚脱感を感じるような要素が散りばめられていたことが大きいです。
ただ、エロゲのいち分類として存在し、カルト的な評価を受けている"電波ゲー"の一端(というか金字塔?)を垣間見ることができたという点で楽しめました。本編中に一度登場した、同じ内容の選択肢を画面いっぱいに表示させるという手法。あれを見た時なんかは「きたきたきたきた!!!」と非常に盛り上がりました。
ただ、ここまで1万字以上の感想を書いているわけなので、好きとか嫌いを超えてそれだけの質量を持った作品だったということは間違いないです。人を選びそうですが、ハマる人はとことんハマるタイプの作品かと。
そして最後に。この作品に対する感想はこんな感じになりましたが、続編・・・というか密接な繋がりがあると言われている同ブランドの「サクラノ詩」という作品はどうなんでしょうか?というところが気になっています。これを聞きたいがために筆を執ったまでありますw
サクラノ詩もまた傑作との呼び声高い作品なので気にしてはいるのですが、素晴らしき日々と同じ系統と言われると非常に手に取りづらいな・・・と思いまして。どうなんでしょうか?より万人受けな方向だとありがたい・・・。
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