感想:andLOIDs -All time best of Nanou-
今回はボカロPナノウさんのベストアルバム、「andLOIDs -All time best of Nanou-」について、各曲の感想を書いていきたいと思う。
andLOIDs -All time best of Nanou-
https://www.amazon.co.jp/andLOIDs-All-time-best-Nanou/dp/B00DTTIQ1E
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21877113
(ヘッダー画像はこちらの動画のスクリーンショットになります)
このアルバムを手に取った時は、ナノウさんは「Waltz Of Anomaliesと3331が好きだから買うか」というくらいの印象で、店に置いてあったのを見つけたから、好きな曲がいくつかあったから、という偶然が重なったものだったのだが、この時購入を決意した自分を心から褒めてやりたい。今はそう思えるほどにナノウさんを好きになることができた。全てはこのアルバムのおかげだ。
それでは、アルバムの曲順に拙いなりにではあるが感想を並べていきたい。
1.プレゼント
未投稿曲。CDを購入した人のほとんどが最初に聴くことになるのがこの傑作だ。冗談でも誇張でもない、この曲のためにこのアルバムが作られたのではないかと思うほどの作品だ。
私もこの曲がどれだけ好きかを伝えたくて筆を取ったと言える(もちろんどの曲も素晴らしいからすべての曲の感想を述べようとしているのだが)。
とにかく一度は聴いてみてほしい。
この曲で歌われているのは誰もがぶつかる苦悩だ。人はどんなに悲しいことやイライラする事があっても、明日がくれば何もなかったように、それができなくてもそれなりに目を逸らして過ごすことができる。そう振る舞うことができる。そうしていつしか、なんでもないことになっていく。
明日を迎えるために昨日を忘れることができるのだ。
しかし捨てたはずの過去は知らずどこかに蓄積されていく。少しずつ募っていった「悲しい」や「切ない」や「苦しい」は、ふと振り向いた時に束になって襲い掛かってくる。そしていつのまにかうず高く積まれたその黒い煤に、気付けば飲まれそうになっている。
『それならいつか私の心にはイヤなことばかり残るはずで』『なのにそれなのにどうしてこんなに君の笑顔は優しいんだろう』
これは未来を生きるために、過去を守るために、今を戦う「おれらのうた」だ。
2.カナシキヒステリックガール
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5342008
ナノウさん初投稿作品。”あの娘”の隣にいる”貴方”を遠巻きに眺める片想いの少女の歌。
かわいらしい歌声とは裏腹に、歌詞はずいぶん攻撃的だ。ジャジーなメロディだがひとたび心の棘が歌に乗ると、それに呼応するかのようにオケもまた激しさを増していく。
全体的にカラッとした曲調が彼女の内なる嘆きやどうしようもなさを際立たせ、胸を締め付ける。
『シアワセを願うのなら「あの娘と上手くいきますように」って? 出来るわけないじゃない』
ですよねー。
3.朝焼け、君の唄。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6179041
前曲に引き続き片想いの唄。しかしこちらは前向きさ、ひたむきさの側面が強く感じられる。
サビのメロディをなぞったギターのクリーントーンが叙情的な雰囲気を演出し、フィルを最小限にとどめた飾らないドラムが等身大の少女の輪郭を鮮明にする。
朝焼けを見た彼女に灯る希望と静かな決意に、背中を押されるような気持ちになるのは私だけだろうか。
この唄の先が作者のピアプロに少しだけ書かれているので、興味のある人は見にいってみてほしい。
余談だが、この動画におけるCメロの『響け』で形成される”響け”弾幕。私はあれが好きだ。うまく説明できないのだが、あの一体感が好きなのだ。
4.Insomniac
未投稿曲。タイトルは直訳で”不眠症患者”。
今度は打って変わって重い音、ボーカルも眠れない苦しみを表すかのようなくぐもった声だ。
床についても寝ることができず、なんとなく不安や寂しさが募っていくのを感じたことがある人は多いだろうと思う。あの形容しがたい靄のような感情をここまではっきりと、説得力のある歌詞に落とし込んでしまうナノウさんはやはりただ者ではないと感心させられる。
”明日”や”朝”はしばしば歓迎されるものとして扱われるし、このアルバムでもそのように描かれている曲があるが、この時だけはそれがひどく恐ろしく感じられ、二度と来なければいいのに、なんて思ってしまう。眠れない夜にとって、朝日とは絶望の象徴なのだ。
夜聴くと影響されて眠れなくなること請け合いなので、夜以外、もしくは眠りたくない時に聴くのをオススメしたい。
5.「ねぇ。」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7028126
発信音、繋がらない電話。この曲は留守番メッセージという形式で始まる。
そこで打ち明けられるのは、”あなた”との思い出の日々、二人の行く末への漠然とした、しかし切迫した不安、自分の心にいつまでも残っている大切なもの。
最後に彼女は『ごめんね』と謝って電話を切る。この想いが独りよがりで一方的なものだとわかっているからだ。それでも伝えずにはいられなかったのだ、その利己的で些細な願いを。
このメッセージは”あなた”に届いたのだろうか。できることなら正しく伝わっていたら・・・視聴者としてはそう願うことしかできない。
6.[it's not]World's end
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8098201
きっと誰もが考えることなのだろうと思う。
終わらせてしまえば楽だと。
一度後ろを向いたらせきを切ったように黒い感情があふれてきて、視界に映っているはずの光を閉ざす。あれこれと理由をつけてはそれだけが唯一の解決法なのだと結論を迫る。
それでも”君”は全力で名前を呼んでくれる。
『満たされてるの』という嘘を探し当て、手を伸ばしてくれる。
世界の終わりから救ってくれる。
ナノウさんはこういったどこにでもある小さな、それでも果てのない救いを描くのがとても上手い方だ。
私もきっと、この曲に果てしなく救われている。
余談その2だが、この動画の2サビ終わりの”届け”弾幕が私は好きだ。うまく説明できないのだが(以下略
7.文学少年の憂鬱
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9340347
氏の出世作。気怠げなボーカルに呼応するような起伏の少ないリズムだが、サビでしっかり盛り上げて感情を叩きつけてくるのはさすがナノウさんだ。
静と動の感情を穏やかなAメロとノイジーなサビでしっかり分けられているため、耳にした時に歌詞が引っかかることなくストンと落ち着く。
きっとライブ映えする曲なのだろうな・・・
【et nuライブ映像】文学少年の憂鬱(Ver.et nu)【atドキ生6】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13592267
ということで、ここにライブ動画がある。ナノウさん本人の歌唱も本当に素晴らしいので、ぜひ見てもらいたい。
また、この曲は同氏の所属するバンド”CIVILIAN(ex. Lyu:Lyu)”でカバーされている。そちらもよろしければぜひ。
8.ハロ/ハワユ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm11448603
氏の出世作その2。この曲でナノウさんを知ったという方も多いだろう。私もボカロPナノウをはっきり認識したのはこの作品からだ。
そのため最初は違和感はなかったが、今こうして改めて聴いてみると、ナノウさんの曲の中では特殊な立ち位置だと感じる。
何しろロックではない。いつものギターサウンドは後ろの方で雰囲気を出す程度にとどまっている。
また曲構成では、おそらくサビの次に印象的だろう冒頭のメロディは2番では鳴りを潜め、ラスサビ前にやってきたりとおもしろい構成になっている。
フレーズの最初にタイトルを含めたカタカナを持ってきて、それをイントロを挟んで2回聴かせることで、間奏の後に突然やってきても違和感なくラスサビへと繋げてくれる効果的な手法だ。
個人的には最後のラララ、あの部分のGUMIのコーラスがとても好みだ。
9.うたうたいのうた
http://www.nicovideo.jp/watch/1293212284
ナノウさんは2016年の11月におよそ5年ぶりのボカロ新曲である「靴磨きとマリア」を投稿したわけだが、それを聴いた方はこの曲のことを思い浮かべたのではないだろうか。軽快に跳ねる歌メロ、きらびやかな音使い、そして曲全体から感じる童話的な雰囲気。
違うのはこちらが明快なハッピーエンドであるだろうという点だ。きっと”ご主人”は今日も”僕”を連れてどこかで歌を歌っているのだろう。大通りの隅っこか、はたまた満員のステージの上か。そんな情景を想像するとふっと笑みがこぼれてしまう。
またアルバムでの話になるが、前の曲から続けて聴くと「ラララ」で終わり「ラララ」で始まるという(意図的かどうかはわからないが)ニヤリとさせられる演出が好きで、つい前の曲と連続して聴いてしまう。
10.Waltz Of Anomalies
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15679694
アルバム収録にあたってリテイクされており、全体的にギターが前面に押し出された作りでニコ動バージョンよりロック色がより強まっている。
溜め込んだ負の思いを激情に任せて一気に吐き出したような歌詞を表すかのような、重いメタル寄りな曲調ではあるが、安心してほしい。メタルを普段聞かない私もこの曲にハマったので、臆せずに聴いてもらえたら嬉しい。歌メロは一貫してキャッチーなので、シリアスな曲調に拒否感がないなら問題なく楽しめると思う。
また後ろの音については、ギター以外にもベースやドラムが生音であるため氏の曲の中でもいっそう迫力のあるサウンドとなっている。氏お得意(?)の間奏での3拍子は圧巻の一言。
11.3331
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16036598
ハロ/ハワユと並ぶ、同氏の代表曲だ。イントロのギターのフィードバックが約26秒も続くという、ひどく特徴的な始まり方であるにもかかわらず100万再生を突破しているところから、氏の求心力や曲としての完成度の高さが窺える。
歌詞については、大百科の掲示板にある「マリッジブルーを歌った曲だ」という解釈にとても納得したため、私はそのように考えてこれを聴いている。
しかし、『物語によれは人生とは 幸せでなければいけないらしい』『ヒト それ単体に価値なんてさあ』『ライフワズビューティフル』などの皮肉に満ちた歌詞は、解釈を抜きにしても大きく心を動かすものだろう。
そして、タイトルの由来は『さあさ お手を拝借皆々様』という歌詞から、一本締めのことだという説が正しいと私は主張したい(雑誌でのインタビューで本人がそう言っていたという意見があったが、情報源を見つけることはできなかった。本人が言ったにしろ言ってないにしろ、私はこっち派だ)。
12.ヒトニナル
未投稿曲。「Insomniac」を思わせる重めのハードロックだ。
遅めのテンポだが、それだけに切実な歌詞が毒を染み込ませるかのようにゆっくりと斬りつけてくる。
この曲はただ一方的に願うだけだ。自分にはヒトとして生きるだけの才能すらないと嘆き、『ただ誰かに愛されたい』という思いが、サビが来るたびに繰り返されるが、結局その後何も提示されず流れを打ち切るようにして曲の終わりを迎える。それがいっそうのもの悲しさを演出している。
『暗い未来、鈍い過去、全部もう忘れてしまいたいだけ』と、先に述べた「プレゼント」と真っ向から対立する歌詞は、「プレゼント」が大好きな私にはとても刺さる内容だ。
しかしそのどちらもがナノウさんの、私たちの心には何食わぬ顔で同居しているのだろう。われわれは矛盾だらけのヒトなのだから。
13.サクラノ前夜
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10317199
全ての曲に共通して言えることだが、氏の曲は歌詞の心理描写がとても綿密で繊細で、どうあがいても心を動かされてしまう。
この曲についてもそうだ。『本当の笑顔』を忘れてしまうほどに耐えがたい苦痛、それでもたった一つの他愛ない約束だけを頼りにしてどうにか生きてきた”私”。
それをありのままの言葉で伝えてくれるからこそ、Cメロが強く強く印象に残る。2サビが終わってから始まる壮大な間奏。焦燥感を表すように掻き鳴らされるギター。刺すようなシンバルの雨。そして、
『星が輝いてた
月が綺麗だった
桜が咲いていた
あなたはいなかった』
この絶望感だ。思わず「あぁ、、、」と声が漏れてしまうほどの。それまでの風景が美しく描写されているからこそ、無情な現実の残酷さに打ちひしがれる。
しかし彼女はそこで挫けない。これまでにすがってきた希望がたやすく失われてなお、生きることを諦めない。この健気さに救われたような気持ちになる。
・・・この後の展開についてはハッピーエンドなのかバッドエンドなのか意見が分かれているようだが、みなさんはどう解釈しただろうか。私はもちろんハッピーエンド派だ。
そして、この曲もライブ動画、そしてCIVILIANによるセルフカバーの動画がある。繰り返しになるが、よろしければぜひ。
【et nuライブ映像】サクラノ前夜【atドキ生6】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13856382
14.Glory 3usi9
未投稿曲。読み方は「ぐろーりーみゅーじっく」だろう。「初音ミク -Project DIVA- F 2nd」のタイアップに際して書き下ろされた曲で、それに合わせてか”歌”や”歌を聴く人”を思った曲となっている。
ナノウさんの曲では珍しく4つ打ちが前面に押された曲で(朝焼け、君の唄。はサビが4つ打ちだが、それ以外では使われていない)、フィルとして繰り返し用いられるリバーブの深いフレーズ以外はほとんどが4つ打ちだ。
それによってダンスビートのような側面が浮かんでいるのか、全体的に爽やかな印象を受ける。柔らかなシンセサイザーもそれを後押ししている。
ナノウさんの歌詞で負の要素はもはや避けられないものと言っていい。それはこの作品においても同じなのだが、この曲は他とは違って、後ろを向くそのたびに手を取って光のもとへ連れ出してくれる。今悲しくても明日は笑えると、この悲しさは無駄ではないと諭してくれる。
まさにアルバムのトリとして相応しい、希望に満ちた曲だ。
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いかがだっただろうか。アルバムの各曲ごとの感想という性質上、かなりの長文となってしまった。
感想にて何度か触れたが、ナノウさんはありふれた絶望、そして一筋の希望を歌詞に込めることが多い。その希望と絶望が誰しも経験がある、そして容易に想像ができるものだからこそ強く共感できるのだ。
これはベストアルバムということで、投稿曲も多く収録されているが、リテイクされた曲も多くあり、全てがより聴きやすく洗練された音になっている。サクラノ前夜なんかはコチラの音が良すぎてニコ動の方へ聴きにいくことがほとんどなくなってしまった(もちろんPV目当てで見にいくことはあるが)。
そういうわけで、投稿曲含めて全曲必聴のアルバムだ。ぜひ聴いていただいて、その時私の稚拙な文章を思い出してくれたら幸いだ。
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